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最終更新日:
2026-09-05

「人工授精」や「体外受精」という言葉を耳にしたことはあっても、どのような治療なのか、何が違うのかと迷う方は少なくありません。語感も似ているので、区別がつかず混同してしまうのも無理ありません。

人工授精と体外受精はどちらも自然妊娠やタイミング療法など性交渉での妊娠が難しい場合に検討される治療ですが、その方法や対象となるケース、妊娠率、費用などに違いがあります。

この記事では、人工授精と体外受精の違いを表でまとめ、それぞれの妊娠率やメリット・デメリットについても詳しく解説します。

人工授精(AIH)・体外受精(c-IVF)とは?

不妊治療のステップ
不妊治療のステップ

不妊治療は、主にタイミング法・人工授精(AIH)・体外受精(c-IVF)の3ステップです。

その内、タイミング法・人工授精(AIH)が一般不妊治療、体外受精(c-IVF)と顕微授精(ICSI)が生殖補助医療、と分類されています。

ここでは、これらの治療の中で、人工授精と体外受精の全体像がつかめるよう、それぞれについてわかりやすく解説します。

人工授精(AIH)とは

人工授精とは、排卵のタイミングに合わせて、洗浄・濃縮して選別された運動性の良い精子を、細いカテーテルを用いて子宮内に直接注入する治療法です1)

軽度の男性不妊(精子の数や運動率がやや低い)や性交障害(性交痛や射精障害など)の方に対して行われる治療であり、さらにタイミング療法を数回行っても妊娠しない場合のステップアップとしても適応となります。

人工授精の詳しい内容や流れは、以下のページにて解説していますので、あわせてご覧ください。

体外受精(c-IVF)・顕微授精(ICSI)とは

体外受精とは、採卵によって卵巣から取り出した卵子を、体外で精子と受精させたのち、数日間培養した胚を子宮内に戻す治療法です。顕微授精は体外受精の一種で、受精する際にきわめて細い針で卵子に精子を直接注入して受精を促す方法です。

多くの場合は、なるべく多くの卵子を採取するために、採卵前に卵巣刺激が行われます。卵巣刺激は内服や注射の薬で行われ、刺激と共に排卵を抑制する薬も必要に応じて併用します。

適応となるのは、原則として、これ以外の治療では妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される場合が対象です2)。両側の卵管が詰まっていて卵子と精子が出会う経路に問題がある場合(両側卵管通過障害)や重度の男性不妊の方です。加えて、タイミング法・人工授精を重ねても妊娠に至らない場合などにもステップアップとして行われます。

体外受精の詳しい内容や流れは、以下のページにて解説していますので、あわせてご覧ください。

人工授精と体外受精の違い|受精方法・対象・通院

人工授精と体外受精は、いずれも自然妊娠やタイミング療法などの性交渉での妊娠が難しい場合に検討される不妊治療ですが、先述したように受精方法や対象となるケースなどが異なります。

人工授精と体外受精の主な違いは以下のとおりです。

人工授精 体外受精
不妊治療の分類 一般不妊治療 生殖補助医療(ART)
方法 洗浄・濃縮した運動性の良い精子を、カテーテルを用いて子宮内に直接注入する 採卵で卵子を取り出して、体外で精子と卵子を受精させる。多くの場合、採卵前に卵巣刺激が行われる
対象となるケース 軽度の男性不妊や性交障害があり自然妊娠が難しい場合
タイミング法を行っても妊娠しなかった場合
両側卵管通過障害・重度男性不妊
タイミング法や人工授精を複数回行っても、妊娠に至らなかった場合
通院回数・
時間の目安
診察時間:1時間程度/回
診察回数:2〜6回
診察時間:1〜3時間程度/回、採卵などは半日〜1日/回
診察回数:4〜10回
保険適用の条件 なし ・治療計画作成時の女性の年齢が43歳未満であること
・40歳未満は胚移植が通算6回まで(1子ごと)
・40歳以上43歳未満は胚移植が通算3回まで(1子ごと)

*なお、治療計画は少なくとも6か月に1回、内容の確認と見直しが必要とされています。生殖補助医療治療計画の見直しの時点で43歳以上になっている場合、新たな治療計画は保険適用の要件を満たさなくなります。

このように人工授精と体外受精には不妊治療の分類から対象となるケース、通院回数などさまざまな違いがあります。

注意したい点としては、人工授精の保険適用に年齢・回数の条件はありませんが、体外受精には女性の年齢や治療回数に制限があります。

費用の違いは?

治療内容によっても異なりますが、保険適用で3割負担の場合、人工授精は1回の治療で10,000〜20,000円が目安となります。

一方で、体外受精の治療では、採卵周期から始まり、採卵後の体外受精、胚移植などの一連の流れで保険適用の3割負担でも100,000〜200,000円が目安であり、治療内容によってはこれ以上かかる場合も少なくありません。

このように体外受精では比較的高額になる場合もありますが、一定額を超える場合は高額療養費制度の対象になったり、居住地によっては自治体の助成金制度の対象となる場合があります。

体外受精の費用の内訳や保険適用の条件、助成制度については以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

人工授精の妊娠率、メリット・デメリット

ここでは、人工授精の妊娠率、メリット・デメリットを解説します。

人工授精の妊娠率

日本産婦人科医会では、人工授精による妊娠率を以下のように紹介しています3)

治療回数・条件 妊娠率の目安
1周期あたり 約5〜10%
4周期以上実施(40歳未満・累積) 約20%
4周期以上実施(40歳以上・累積) 10〜15%

人工授精の1回(1周期)あたりの妊娠率は約5〜10%と、決して高い数字ではありません。排卵誘発剤を併用した場合でも、10〜15%程度とされています1)

一方で、性交障害や頸管粘液の不適合などのケースでは、治療効果が期待できるとされています3)

こうした特徴をふまえて、人工授精を行う回数は6回程度を目安とし、それでも妊娠に至らない場合には、体外受精など次のステップの治療を検討するのが一般的です。

人工授精のメリット・デメリット

人工授精のメリットは、体外受精に比べて体への負担が少なく、自然妊娠に近い形で治療を進められる点にあります。

排卵のタイミングに合わせて精子を子宮内へ届けるところまでが治療の役割であり、その先の受精や着床は体内の自然な働きに委ねられます。そのため、身体的・経済的な負担は体外受精よりも比較的少ないとされています。

一方でデメリットとして挙げられるのが、1周期あたりの妊娠率が必ずしも高くはないという点です。

自然に近い治療法であるがゆえに、1回の実施で結果が出るとは限らず、複数周期を重ねながら経過をみていくケースも少なくありません。

また、人工授精の処置後に、下腹部の痛みや違和感、少量の出血、感染などが起きることがあります。しかし、いずれも適切な処置を行うことで、改善するケースがほとんどです。

なお、人工授精においても妊娠率の上昇を目的とし、排卵誘発剤を使用するケースがあります。その場合には、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)にも注意が必要です。

体外受精(c-IVF)の妊娠率、メリット・デメリット

ここでは、体外受精の妊娠率、メリット・デメリットを解説します。

体外受精の妊娠率

体外受精の妊娠率も年齢が高いほど低下する傾向にあります。体外受精を含めた生殖補助医療の妊娠率は、日本産科婦人科学会が作成しているARTデータブックにて公開されています4)

年齢 妊娠率(治療周期あたり)
25歳 29.4%
30歳 29.4%
35歳 27.2%
40歳 17.2%
45歳 4.2%

※上記の妊娠率は妊娠が確認された割合(臨床的妊娠率)であり、出産に至る生産率はこれより低くなります。

先述した人工授精の妊娠率とは、妊娠率を計算する条件なども異なるため一概に比較することはできませんが、一般的に人工授精よりも高い妊娠率が期待できる治療法です。

体外受精のメリット・デメリット

体外受精のメリットは、人工授精に比べて高い妊娠率が期待できることです。

また、体外受精は受精や胚の成長を体の外で観察できるので、受精がうまく進まない、卵子や精子の質に問題があるといった、これまで見えていなかった不妊の原因が新たにわかることもあります。

さらに、良好な胚が複数得られた場合には凍結保存しておくことができ、次の移植や将来の妊娠に備えられることもメリットのひとつです。

デメリットとしては、人工授精と比べて身体面・費用面での負担が大きくなりやすいことが挙げられます。

体外受精においても多くのケースで排卵誘発剤を使用するため、卵巣過剰刺激症候群に注意が必要です。さらに、採卵時の麻酔による合併症や出血などのリスクもあります。

また、異所性妊娠(子宮外妊娠)や多胎妊娠、周産期合併症が増加するケースも報告されており、医師としっかり相談しながら治療を進めることが重要です。

体外受精のメリット・デメリットについては、以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

人工授精と体外受精の違いに関するよくある質問

ここでは人工授精と体外受精の違いに関するよくある質問について、お答えします。

Q:「受精」と「授精」の違いは?

A:受精とは、精子と卵子が結びつき、受精卵になる現象のことです。一方、授精は、受精ができるように精子を子宮内に入れたり、卵子に注入したりする操作を指します。

例えば、精子と卵子の自然な受精を促す体外受精には「受精」が、人工授精や顕微授精のように精子を子宮内や卵子そのものへ注入する技術には「授精」が使われています。

Q:人工授精と体外受精はどっちが先ですか?切り替える目安はありますか?

A:一般的には、体への負担が少ない人工授精を先に行います。人工授精は6回程度を目安とし、妊娠に至らない場合に体外受精へのステップアップを検討するのが一般的です。

ただし、回数だけが治療を切り替える基準にはなりません。体外受精が適応となるのは、原則として、これ以外の治療では妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される場合が対象です。そのため、年齢や不妊の原因によって、早めの移行がすすめられる場合もあれば、人工授精の継続を検討する場合もあります。

どのタイミングでステップアップするかは、治療を開始する年齢やこれまでの治療経過をふまえて担当医とご相談ください。

不妊治療のステップアップについては、以下のページもあわせてご覧ください。

Q:体外受精から人工授精へ切り替わることはありますか?

A:不妊治療は、その方の原因や体の状態に合わせて選ばれるものであり、状況によっては治療の進め方を見直すこともあります。

体外受精では、保険適用となる胚移植の回数に制限があるため、回数を使い切った後に人工授精に戻る方は多くいます。保険適用でなくなった後も自費診療で体外受精を継続することは可能ですが、経済的負担がかなり大きくなるため、体外受精を中止する方がほとんどです。

また、体外受精などの治療を続けてきて心身を休めたい場合や、二人目の妊活などでは、あえて負担の少ない治療に戻ることも可能です。

担当医とよく相談しながら、ご自身に合った進め方を一緒に決めていくことが重要です。

Q:顕微授精と体外受精に違いはありますか?

A:顕微授精と体外受精はどちらも生殖補助医療に含まれ、両者の違いは「卵子と精子の受精のさせ方」にあります。

体外受精は卵子と精子を同じ培養液の中に置き、精子が自らの力で卵子と受精する方法であり、顕微授精は顕微鏡下で1個の精子を直接卵子に注入して受精させる方法です。受精障害や男性不妊がある場合に顕微授精が選択されます。

顕微授精と体外受精の違いについては、以下の記事にて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

院長からのメッセージ

「そろそろ体外受精を考えたほうがいいでしょうか」という相談を受けるとき、私はいつも、その方がどういう理由でここまで来られたのかを確認するようにしています。

人工授精と体外受精は、段階の違いというより、目的の違う治療です。人工授精は、精子を子宮の奥まで届けるところまでを手助けする方法で、その先の受精や着床は体に委ねられます。一方、体外受精は受精の場を体の外に移す方法です。ですので、卵管が通っていない、精子の状態が厳しいといった場合には、人工授精を何回続けても状況は変わりません。この場合、回数を重ねることが最善とは言えないのです。

逆に、原因がはっきりしないケースでは、人工授精を数周期続けることに意味があります。目安として6回程度とお伝えすることが多いのですが、これは絶対的な基準ではありません。年齢によっては早めに切り替えたほうがよい場合もありますし、逆にもう少し続けてみましょうとお話しすることもあります。

体外受精を勧められると「もう後がない」と感じる方がいらっしゃいますが、そうではありません。保険の回数を使い切った後に人工授精へ戻る方もいますし、二人目を考えるときに負担の少ない方法から再開する方もいます。治療は一方通行ではありません。

迷われたときは、その気持ちも含めてお話しください。一緒に決めていきましょう。

参考文献

1)日本生殖医学会. 生殖医療Q&A Q10:人工授精とはどういう治療ですか?. 日本生殖医学会ウェブサイト
https://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa10.html

2)日本産科婦人科学会. 体外受精/顕微授精・胚移植に関する見解・指針. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=78/8/078081051.pdf#page=6

3)日本産婦人科医会. 10. 人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband's semen). 日本産婦人科医会ウェブサイト
https://www.jaog.or.jp/lecture/10%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E6%8E%88%E7%B2%BE/

4)日本産科婦人科学会. 2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2023_JSOG-ART.pdf