「体外受精」というと、何か人工的な操作を加えて受精させるイメージがあるかもしれません。
しかし、一般的に行われている「体外受精(コンベンショナルIVF / c-IVF)」は、シャーレの中で卵子と精子を出会わせた後は、精子自身の力で卵子に入り込み、受精するのを見守るという、非常に自然に近い方法です。
不妊治療を山登りにたとえると、山頂にいる卵子に精子が麓(ふもと)から登って会いに行くのが通常の性交渉であり、人工授精は五合目までショートカットさせてあげる治療です。そして、「山頂(卵巣)にいる卵子を麓(ふもと)に降ろし、地上で精子と出会わせてあげる」のが体外受精なのです。
精子が頑張って険しい山道を登る必要がない分、受精のチャンスを格段に高めることができます。
私たちが行うのは、卵子と精子が出会いやすい環境(培養環境)を整えるところまで。そこから先の生命の神秘は、卵子と精子の力に委ねられます。体外受精(c-IVF)は、生殖補助医療(ART)の中で、最も基本となる治療法です。

採卵で取り出した卵子の入った培養液の中に、調整した良好な精子を一定濃度で加えます(ふりかけます)。
精子は尾っぽを振って自ら卵子に向かって泳ぎ、卵子の殻(透明帯)を通過して受精します。
基本的に、精子の状態がある程度良好であれば、ふりかけ法(媒精法)はまず検討される治療法です。以下は体外受精自体の適応です。
「精子の状態は悪くないけれど、まったく受精しなかったら怖い(受精障害)」という場合、採卵で得られた卵子をすべてふりかけ法(媒精法)にするのではなく、一部を顕微授精に回すという方法があります。これを「スプリット法」と呼びます。(卵子が9個取れたら、5個を体外受精(ふりかけ法)、4個を顕微授精とする等)
受精しないリスクを回避しつつ、自然に近い受精の可能性も残すことができる、バランスの良い戦略です。卵子の個数や精子の状態とこれまでの妊娠歴や治療歴に応じて柔軟に決定します。
体外受精(c-IVF)は、卵子に精子をふりかけるという、シンプルな治療方法です。
しかし実際には、卵子の状態を正確に観察し、ふりかける精子濃度、タイミングを適切に見極めなければ、受精が起きない場合や精子が複数侵入してしまう異常受精(多精子侵入)が増えることがあります。
そのため胚培養士は、卵子の成熟状態を確認したうえで、適切な精子濃度とタイミングを判断し、受精が正しく起こる条件を整えます。
また、培養液の種類や温度、ガス濃度など、培養環境を厳密に管理することで、卵子と精子が出会いやすい状態を維持しています。
体外受精の結果は、一つひとつの判断と管理の積み重ねによって左右されます。私たち胚培養士は、そうした日々の取り組みを通して受精を支えています。