体外受精を検討するにあたって、「治療にどのくらいの時間がかかるのか」「仕事をしながら通院できるのか」と気になる方は多いのではないでしょうか。体外受精の治療期間は数か月にわたりますが、全期間を通じて毎日通院が必要なわけではなく、採卵や胚移植などの処置ごとに受診回数は異なります。
この記事では、体外受精のおおまかなスケジュールの目安と治療の流れなどを解説します。
体外受精のスケジュールや通院回数の目安
体外受精では、排卵誘発や採卵、胚移植などのさまざまな過程を経て治療が進みます。厚生労働省が作成している「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」では、体外受精などの生殖補助医療における1回の治療にかかる期間は、最短で約3か月、一般的には約6か月程度を目安として紹介しています1)。
ただし、この期間中ずっと通院が必要なわけではありません。診察や検査のための通院は1回あたり1〜3時間程度で、1周期あたり4〜10回ほどの通院回数が目安になります。採卵や胚移植の当日は半日〜1日かかることがあり、1〜2回程度の受診が必要になります。
男性パートナーは、採精(一般的にはマスターベーションなどで精子を採取)などで数時間程度の通院が求められる場合がありますが、自宅で実施する場合は必ずしも通院が必要ないケースもあります。
なお、上記は目安であり、実際の通院回数や治療期間など、治療スケジュールの詳細は医療機関の方針や治療法、体の状態によっても変わってきます。たとえば、受精卵を凍結せず、卵子を取り出した月経周期で胚を戻す新鮮胚移植という治療法を選択した場合、最短1〜2か月で妊娠判定まで可能となるケースもあります。ただし新鮮胚移植ができる場合というのは限られているため、その治療を選択するか否かは医師との相談が必要です。
また、上記の診療時間には受付や会計などの待ち時間が考慮されていないため、実際には滞在時間としてはもう少し長くなる可能性があります。詳細は受診する医療機関と相談し、スケジュール面もしっかり確認しておくようにしましょう。
体外受精の流れ|表形式で紹介
体外受精は、一般的に「卵巣刺激→採卵→受精→培養・凍結→胚移植」という流れで進みます。ただし、治療の進め方や必要な処置は、年齢や体の状態、不妊の原因などによって異なります。ここでは、一般的な流れを順に紹介します。
Step.1 卵巣刺激
通常の月経周期では1個の卵子のみが排卵します。しかし体外受精では1回の採卵あたりの妊娠率を向上させるため、飲み薬や注射の排卵誘発剤を使って卵巣を刺激して複数の卵子を発育させることがほとんどです。
卵巣刺激の刺激法にはいくつか種類があり、使用する薬剤なども異なってきます。どのような刺激法とするかは、患者さんごとの卵巣予備能(排卵する力がどれくらいあるか)や希望に合わせて、相談して決めることになります。
Step. 2 採卵
卵子が育ったことを確認できたら卵巣から卵子を取り出す採卵のステップになります。経腟超音波で確認しながら、採卵針で卵子を取り出します。
採卵では必要に応じて麻酔を使用します。採卵数や患者さんの希望に応じて静脈麻酔や局所麻酔などを使い分けて実施するため、痛みに対する不安なども含めて医療機関と相談して決めるようにしましょう。
同じタイミングで精子を採取する採精も行います。マスターベーションで採精し、培養室に提出します。
卵巣刺激と採卵の詳細については、以下のページもご覧ください。
Step. 3 受精
採卵後は、取り出した卵子と精子を受精させ、受精卵を育てるステップに進みます。受精方法には、体外受精の一般的なふりかけ法と、顕微授精の2種類があります。
体外受精と顕微授精の詳細については、以下のページもご覧ください。
Step. 4 培養・凍結
受精後は受精卵(胚)を培養液内で発育させる培養のステップがあります。培養は一般的には5〜6日間行い「胚盤胞」まで育った段階で液体窒素を使い凍結保存します。胚盤胞到達率が低い場合などは、胚盤胞までは培養せず、2~3日程度培養した後に「初期胚」「分割期胚」で凍結することもあります。
質の良い胚を培養するためには、胚が受けるさまざまなストレスをできるだけ軽減することが重要です。
胚凍結は、採卵でホルモンのバランスが崩れているため身体の状態が整った別の月経周期に胚移植を行う目的や、次回以降の治療で採卵を行わずに胚移植から再開できるようにする目的で行います。
胚培養と胚凍結の詳細については、以下のページもご覧ください。
Step. 5 胚移植
胚移植は、採卵の翌周期以降に凍結した胚を融解して移植する凍結融解胚移植と、採卵と同じ周期に育った胚をそのまま移植する新鮮胚移植があります。
また、凍結融解胚移植では、自身の自然な排卵リズムをそのまま利用する自然周期での移植と、薬剤を使用し着床環境を人工的に作り出すホルモン補充周期での移植があります。
胚移植の詳細については、以下のページもご覧ください。
妊娠判定は、一般的に胚移植後の1〜2週後を目途に、採血をしてhCGというホルモンの量を測定して実施されます。
体外受精と仕事の両立で押さえたいスケジュール調整のポイント
体外受精と仕事の両立に悩む方は少なくありません。通院回数の多さや急な通院が必要になるケースなどあり、不妊治療を続けるために退職を選ぶ人もいるのが現状です。しかし、近年は不妊治療がより一般的になり、企業の支援制度も整備されることが増えている点もあり、以前よりも両立しやすい環境が整ってきています。
仕事との両立で押さえておきたいポイントは、事前にどれくらいの通院回数や診療時間がかかるかを整理した上で、通院しやすい医療機関を選んだり、パートナーと役割分担をしっかり取り決める、職場に相談して制度の活用や働き方の調整をすることなどが挙げられます。
厚生労働省の調査では、不妊治療と仕事の両立ができずに退職した人は2017年の調査では16%だったのが、2023年では10.9%となっており、退職する人は少しずつ減ってきているというデータもあります。まずは自分にとって取り入れやすいことから実践していくようにしましょう。
不妊治療と仕事の両立については、以下の記事もご覧ください。
院長からのメッセージ
体外受精を検討しはじめたとき、多くの方が「どのくらい通院が必要か」「仕事はどう調整すればいいか」と心配します。全体の流れを知っておくことで、見通しが立ちやすくなります。
一般的には採卵から妊娠判定まで最短でも約1~3ヶ月程度はかかります。ただし毎日通院するわけではなく、診察や検査は1回1〜2時間程度のものが中心です。採卵と胚移植の当日は半日〜1日かかることがありますが、それ以外の通院は比較的短時間で済む場合が多いです。
治療の流れとして覚えておいてほしいのは、「採卵」と「胚移植」が別の周期になることが多いという点です。採卵で取り出した胚を一度凍結し、体の状態が整った翌周期以降に移植する凍結融解胚移植が現在の標準的な方法です。焦らず一つひとつのステップを確認しながら進めていきましょう。
当院では夜21時まで診療しており、採卵や移植以外の通院については日中の時間帯を避けやすい設計にしています。スケジュールの組み方に不安がある方は、受診時に具体的に相談してください。どの検査がいつ必要になるかを事前に整理することで、職場への調整もしやすくなります。
治療のことで気になることがあれば、どんな小さなことでも話してください。
参考文献
1)厚生労働省.不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック ~不妊治療を受ける方と職場で支える上司、同僚の皆さんのために~


