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最終更新日:
2026-04-14

体外受精を考えはじめると、デメリットやリスクについて不安を感じる方は少なくありません。

治療を前向きに検討するためには、メリットだけでなく、負担やリスクについてもあらかじめ把握しておくことが大切です。 

この記事では、体外受精のデメリット・リスクを中心に、メリットもあわせて解説します。

体外受精のデメリット

体外受精のデメリットは、大きく以下の3つに分けて考えることができます。

  • 身体的な負担・リスク
  • 精神面・生活面の負担
  • 経済的な負担

身体的な負担・リスク

ここでは、体外受精にともなう主な身体的なリスクと合併症について解説します。

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスク

体外受精では卵子を取り出す「採卵」が必要で、1回の採卵で複数個の卵子を育てる「調節卵巣刺激(排卵誘発剤を使って複数の卵子を育てる処置)」が行われます。この処置にともなう重大な副作用のひとつが、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。

排卵誘発剤によってOHSSになると、沢山育った卵胞から大量のホルモンが分泌され、さらに卵巣が大きく腫れます。過剰なホルモンの影響で尿の量が減る・お腹が張るなどの症状が現れることがあり、重症化すると呼吸困難になるなどして入院が必要になるケースもあります。

重症例は排卵誘発周期あたり0.8〜1.5%であり、非常にまれですが生命に関わる最重症例も報告されています1)

体外受精を行う場合は、OHSSについて十分に理解することが大切です。気になる症状が現れた場合には速やかに医師へ連絡しましょう。

採卵に関する合併症のリスク

採卵は手術であるため、以下のような合併症のリスクがあります。

比較的起こりやすい合併症2)

合併症 詳細
腟壁出血 ・腟壁を通じて卵巣に針を刺すため一時的な出血は全員に起こるが、殆どは採卵後すぐに自然止血する。自然に止血しない場合が腟壁出血となる
・8.6~18.1%と採卵の合併症のなかで最も頻度が高い
・リスク軽減のため、現在は細い採卵針が使用されるようになっている

まれな合併症2)

合併症 詳細
感染(骨盤内炎症性疾患) 0.3~0.6%
腹腔内出血 0.1%未満

そのほか、麻酔による吐き気・嘔吐、非常にまれですが他の臓器への影響が生じることもあります。

採卵前に医師から説明を受け、疑問点は事前に確認しておきましょう。

子宮の内外に同時に着床するリスク

体外受精では、子宮の内側と外側に同時に着床が起こる「正所異所同時妊娠」のリスクが、自然妊娠と比べて上がるとされています。子宮内の妊娠が確認されても、子宮外にも着床していることがあるため、注意が必要です。

自然妊娠の場合は15,000〜30,000妊娠に1回と非常にまれですが、体外受精を含む生殖補助医療(ART)ではその頻度が0.15〜1%前後にまで上昇するといわれています3)

子宮外に着床した場合(異所性妊娠)の治療は、原則として手術ですが、状態や着床部位によっては薬での治療や経過観察が選択されることもあります。

多胎妊娠のリスク

体外受精において複数個の受精卵を子宮に移植した場合、多胎妊娠となる可能性があります。2023年のARTデータブックによると、2023年に実施された生殖補助医療(ART)のうち、3.77%が多胎妊娠であったことが報告されています4)

多胎妊娠では、早産や低出生体重児、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、マタニティーブルーなど、さまざまな合併症のリスクが高まることがわかっています。

生殖補助医療における多胎妊娠を防ぐために重要なのは、原則として単一の胚を移植することです。ただし、女性の年齢が35歳以上である場合や、2回以上続けて妊娠が成立しなかった場合などについては、ふたつの胚を移植することが許容されています5)

体外受精と赤ちゃんの発達・健康への影響

生殖補助医療と子どもの発達・障害との関連については、現在も研究が続いています。

自閉症スペクトラム障害(ASD)やADHDとの関連については研究結果が一致しておらず、発達の遅れについても、多胎妊娠や両親の年齢などの影響を除いて分析すると、自然妊娠との差がなくなることが示されています。

現時点では明確な結論は出ていない部分も多く、気になる点は担当医に確認しておくとよいでしょう

体外受精の精神面・生活面の負担

体外受精は妊娠の可能性を広げる治療ですが、精神面・生活面での負担は小さくありません。

検査や採卵、移植など、治療のステップごとに医師の指示に合わせたタイミングでの通院が必要です。仕事との調整や移動の疲れが積み重なることも多く、生活リズムへの影響が続く治療といえます。

また、体外受精を受けても必ず妊娠できるわけではなく、結果に一喜一憂したり、先が見えない不安を感じたりする方も少なくありません。 こうした気持ちは、パートナーや信頼できる人と共有することで軽くなることがあります。一人で抱え込まず、医師やカウンセラーへの相談も選択肢のひとつとして検討するとよいでしょう。

体外受精の経済的負担

体外受精を含む不妊治療が保険適用となったことで、経済的負担は以前と比較すると軽減されているといえるでしょう。しかし保険適用には回数や年齢の要件が設けられており、上限を超えると自費診療になるため、経済的な負担が増すことがあります。

体外受精に保険が適用されるには、治療開始時に女性の年齢が43歳未満である必要があります。以下、回数要件についてまとめました。

  • 初回の治療開始時点の女性の年齢が40歳未満の場合:通算6回まで(1子ごと)
  • 初回の治療開始時点の女性の年齢が40歳以上43歳未満の場合:通算3回まで(1子ごと)

保険適用の条件や回数の詳細は、受診するクリニックや加入している健康保険の窓口で確認しておくとよいでしょう。

体外受精の保険適用や費用について詳しくは以下の記事をご覧ください。

さらに最近では各自治体でも不妊治療・不妊検査に補助金・助成金が設けられることが増えています。住んでいる自治体ではどのような制度があるかを調べてみるとよいでしょう。

体外受精のメリット

体外受精にはデメリットやリスクがある一方で、妊娠の可能性を広げるうえでのメリットも沢山あります。

デメリットとあわせて理解しておくことで、パートナーや医師との話し合いに役立てられます。

体外受精は原因不明の不妊に対しても有効とされており、生殖補助医療は治療周期あたりの妊娠率が最も高く、妊娠に至るまでの期間も短い治療と考えられています1)

不妊の原因があっても妊娠を目指せる

体外受精は、さまざまな不妊因子を抱える方が妊娠を目指すことができる治療法です。

不妊治療は一般的に、タイミング法や人工授精といった体の負担が少ない治療から段階的にステップアップしていきます。しかし、卵管性不妊や高度男性不妊など、人工授精では妊娠が期待しにくい不妊因子がある場合や、一般不妊治療を一定期間続けても妊娠に至らない場合には、体外受精へのステップアップが検討されます。

このように、体外受精はさまざまな原因や状況に対応できる治療法です。

1回の採卵で複数回の移植を目指せる

体外受精では、卵巣刺激をすることによって多数の卵子を発育させます。タイミングや人工授精などの一般不妊治療では1周期に1~2個の卵子しか関与しませんが、多くの卵子を扱うことが出来るため、良好な卵子に出会う可能性も高まります。それによって、1回の採卵で複数の胚が得られることがあります。

移植に使用しなかった胚は凍結保存することができ、妊娠に至らなかった場合や、次の子どもを希望する場合に、融解して子宮内に戻す「凍結融解胚移植」が可能です。このように、凍結した胚を活用することで、将来の妊娠の機会を確保できる可能性があります。

育つ可能性の高い胚を選択することが出来る

体外で受精させた受精卵を数日間培養し、発育できることが確認された胚の中でも、さらに見た目のグレードが良好な胚を選択して子宮に戻すというプロセスを経ることで、妊娠につながる可能性が高まります。

体外受精に関するよくある質問

体外受精に関するよくある質問にお答えします。

体外受精の処置は痛い?

体外受精の中で痛みをともなう可能性があるのが採卵です。採卵では卵巣に針を刺して卵子を取り出します。麻酔を使用する場合がありますが、痛みの感じ方には個人差があります。不安な場合は、事前に医師に確認しておくと安心です。

不妊治療にともなう痛みについて、詳細は以下の記事をご覧ください。

体外受精と仕事を両立するためのコツは?

ある報告では、不妊治療を経験した方のうち26.1%が仕事との両立が難しく、離職や雇用形態の変更、不妊治療の中断を選択しているとされています7)。その背景には、通院回数の多さや精神的な負担、仕事の日程調整の難しさなど、さまざまな要因が重なることが考えられます。

仕事との両立には、早めに職場の上司や人事に状況を伝えることが助けになる場合があります。その際、職場への配慮を求めるために活用できる「不妊治療連絡カード」という制度もあります。一人で抱え込まず、使える制度やサポートを積極的に活用することが大切です。

不妊治療と仕事の両立について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

体外受精は何回くらいおこなう人が多い?

体外受精では、胚移植の回数に制限が設けられており、初めての治療開始時点で女性の年齢が40歳未満の場合は通算6回まで、40歳以上43歳未満の場合は通算3回までと決められています6)

この回数制限は、不妊治療を受けた方の実績データに基づいています。出産に至った方の約90%が胚移植6回以内の治療によるものであり、6回を超えると出産率の増加が緩やかになることが示されています8)

何回治療を行うかは、年齢や体の状態、治療の経過によって異なります。回数だけにとらわれず、パートナーや医師と十分に話し合いながら進めていくことが大切です。

体外受精は流産しやすいって本当?

体外受精そのものが流産を引き起こすわけではありませんが、流産のリスクは女性の年齢と関連性があります。年齢が高くなるほど流産率は上昇し、出産に至る確率は低下するとされています。

院長からのメッセージ

体外受精を検討するにあたって、リスクをしっかり知っておきたいという気持ちは大切なことだと思います。正しく理解したうえで決断することは、治療を続けるうえでの心の支えにもなります。

身体的なリスクとして最も代表的なのがOHSSです。卵巣が排卵誘発剤に過剰に反応することで起こり、重症化すると入院が必要になる場合があります。現在は刺激方法の工夫やトリガーの選択によってリスクを下げる取り組みが進んでいます。採卵時の出血や感染はまれですが、ゼロではありません。治療前に担当医から説明を受け、疑問はその場で確認しておくことをお勧めします。

生まれてくる赤ちゃんへの影響についても、不安に感じる方は多いと思います。体外受精で生まれた赤ちゃんに早産や低出生体重が若干多いとする報告はありますが、最新の研究では、体外受精という処置そのものよりも、不妊の背景にある患者側の要因が関与している可能性が高いとされています。発達や障害との関連についても研究が続いていますが、現時点では因果関係は明確ではありません。

経済的な負担については、保険適用の範囲と回数制限や、各自治体での助成金などの制度を正確に把握しておくことが重要です。保険の上限を使い切った後のことも含めて、早めに担当医と見通しを話し合っておくと安心です。

リスクを知ることは、治療を諦めることではありません。知ったうえで選ぶことが、後悔のない治療につながります。

参考文献

1)公益社団法人日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会.産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2023. 150頁.169頁.

2)一般社団法人日本がん・生殖医療学会.ART(生殖補助医療)のリスク.一般社団法人日本がん・生殖医療学会ウェブサイト.

3)公益社団法人日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会.産婦人科診療ガイドライン―産科編2023.119-122頁.

4)公益社団法人日本産科婦人科学会.2023年ARTデータブック.8頁.

5)公益社団法人日本産科婦人科学会.生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解.60頁.

6)こども家庭庁.不妊治療に関する取組.こども家庭庁ウェブサイト.

7)厚生労働省.不妊治療と仕事との両立のために.厚生労働省ウェブサイト.

8)令和4年度厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(健やか次世代育成総合研究事業)標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究.患者さんのための生殖医療ガイドライン.27頁.