妊娠判定でhCGの数値が低いと言われると、「このまま妊娠継続できるのか」「流産の可能性が高いのではないか」と不安になってしまうものです。
hCGは妊娠初期の経過をみるうえで重要な指標のひとつですが、1回の数値だけで妊娠継続の可否を判断できるものではありません。妊娠週数のずれや個人差によって低く見えることもあり、数値の増え方や胎嚢・心拍の確認などを含めて総合的に評価することが大切です。
この記事では、妊娠判定でhCG数値が低い場合の妊娠継続の可能性や考えられる原因、hCGを上げる方法の有無、hCG数値が低い人の特徴などについて解説します。
hCGとは?妊娠判定で確認される理由
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、妊娠が成立すると胎盤の絨毛から分泌され、妊娠を維持するために重要な役割を果たすホルモンです。
hCGは血液検査または尿検査で調べられ、妊娠判定のほか、妊娠の経過や一部腫瘍の診断にも用いられています。
hCGの週数ごとの目安
hCGは妊娠後に分泌が増え、妊娠初期に急速に上昇します。
hCG数値に明確な基準は設定されていませんが、アメリカの国立医学図書館が運営している医学情報サイトでは、血液検査におけるhCG数値の範囲として、以下のような目安を示しています1)。
なお、hCGの目安は検査機関によっても考え方が異なることがあります。個人差もあるため、あくまでも参考としてください。
hCGは「増え方」も重視される
hCG数値の評価は、1回の測定値だけでなく「増え方」も重要です。
妊娠が正常に経過している場合、hCG数値は目安として1.4〜2.1日ごとに倍増すると考えられています2)。おおまかに2日で2倍弱になると覚えておくのがよいでしょう。
また、hCG数値の増加ペースは「最初に測定したhCG数値」によって異なることを明らかにしたアメリカの調査報告もあります。
この調査では、正常妊娠と判断された女性の99%が満たしていたhCG数値の増加率を、最初の測定値ごとに以下のようにまとめています3)。
<最初に測定したhCG数値別の1日・2日後の最小増加率>
この基準は、正確な妊娠週数が不明な場合でも、現在のhCG数値そのものから目安を評価できるように算出されています。
例えば、最初に測定したhCG数値が100IU/Lと低めの場合、2日後には184IU/L(84%増)まで上昇していれば、一定の目安を満たしていることになります。
一方、5,000IU/Lと高い場合は、2日後に6,650IU/L(33%増)という比較的緩やかな上昇であっても、hCG数値に大きな問題があるわけではないと考えられます。
ただし、hCG数値の増加率がこの基準をクリアしていても、それだけで妊娠に伴うさまざまなリスクを完全に否定できるわけではありません。
最終的な診断にはhCG数値だけでなく、胎嚢や心拍の確認など総合的な評価が必要です。
妊娠検査薬は尿中のhCG数値を測定する
妊娠が成立すると血液中のhCG濃度は急速に上昇し、腎臓を通過して尿中にも排泄されます。
市販の妊娠検査薬は、この尿中に排泄されたhCGを測定し、妊娠の可能性を判定する仕組みです。
一般的な妊娠検査薬の感度は50IU/L(尿1L中にhCGが50IU)とされており、尿中のhCGがこの数値を超えると陽性となります。
妊娠検査薬の仕組みや使い方などは、以下の記事でも詳細をまとめているのであわせてご覧ください。
妊娠判定でhCG数値が低い場合でも妊娠継続できる?低hCGの意味とその後の考え方
hCGの値は妊娠の経過を知る上で重要な指標の一つです。そのため、妊娠判定時のhCG値が妊娠週数に対して極端に低い場合は、妊娠継続の可能性が低くなると考えられるケースもあります。
hCG値と妊娠継続の関連を調べた調査の例を挙げると、不妊治療を実施した患者さんを対象にした海外の調査では、胚移植14日後のβ-hCG値が400mIU/mL以下だった群の生児出産率はそれぞれ20.0〜33.3%だったのに対し、401mIU/mL以上の群ではそれぞれ44.4〜63.6%だったと報告されています4)。
また、生児出産した患者さんの血清β-hCG値は、出産まで至らなかった患者さんと比べて統計学的にも差があったという結果が示されています。
一方で、hCG値と妊娠継続や出産の関係については、研究ごとに数値の解釈も異なっており、hCG値だけで予測できるものではないと考えられています。実際にこの調査でも、β-hCG値が100mIU/mL以下でも生児出産できたケースや、4,001mIU/mL以上でも出産まで至らなかったケースが報告されています。
妊娠継続率に関しては、hCG以外に胎嚢や卵黄嚢の大きさ、心拍の有無なども判断の指標となります。これらの指標に関する妊娠継続率については、以下の記事で詳しくまとめているのであわせてご覧ください。
5週〜6週でhCGが低くて胎嚢が見えない場合は?
妊娠判定時など、妊娠5週〜6週くらいでhCGが低く、胎嚢が見えないと言われた場合は不安になるかと思います。このような状況でも一概に妊娠経過に問題があるとはいえず、その後正常に出産まで至るケースもあります。
残念ながら化学流産などが起きてしまっている場合もありますが、1回の診察だけで判断できないことが多く、医師の指示に従って経過を確認することが大切です。
胎嚢確認や5週〜6週で胎嚢が見えない場合については、以下の記事でも詳しくまとめているのであわせてご覧ください。
妊娠判定でhCG数値が低い原因
ここでは、妊娠判定でhCG数値が低い場合に、考えられる主な原因を解説します。
妊娠しているが個人差がある|妊娠週数が正確でない可能性がある
hCGは正常範囲が幅広く、同じ妊娠週数でも個人差の大きいホルモンです。検査時点でのhCG数値が低くても、その後順調に増加することで、妊娠が継続するケースもあります。
実際に、アメリカの調査において、正常妊娠に期待されるhCG数値の上昇率(49%)を大きく下回る上昇率(22〜26%)でも、無事に出産まで至ったケースが報告されています5)。
また、妊娠週数のカウントが正確でない可能性もあります。排卵日のずれで実際の週数と異なるため、想定よりもhCGが低く出る可能性もあります。
妊娠初期はhCG数値が短期間で変わりやすい時期です。妊娠判定時の数値のみで、判断をしないことが重要になります。
化学流産(生化学的妊娠)
化学流産とは、血液や尿中にhCGが一時的に検出されたものの、超音波検査で胎嚢が確認されるまでに至らず、妊娠が終結することです。「生化学的妊娠」と呼ばれることもあります。
妊娠検査キットの感度上昇や不妊治療に伴う妊娠早期のhCG検査の増加により、従来は認識されていなかった初期の妊娠が化学流産として確認されるようになりました。
化学流産は健康なカップルにも一定の割合で起こる現象のため、一般的には病的な状態と捉えず、特別な治療は必要ないとされています。
化学流産については、以下の記事にて詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
子宮外妊娠(異所性妊娠)
子宮外妊娠とは、受精卵が卵管などの子宮内膜以外の場所に着床した状態です。hCGは産生されますが、通常の妊娠よりも数値が低くなる傾向があります。
子宮外妊娠は診断や治療のために複数回の検査や入院が必要になったり、放置すると大出血を引き起こすケースもあるため、早期発見と治療が必要です。
腹痛が強い、出血が続く、貧血の症状が強いなどといった症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
hCGを上げる方法はある?少ない人の特徴は?
hCGは胎盤の絨毛組織から分泌されるホルモンであり、食べ物やサプリメントなどで栄養素を取り入れて数値が上がるものではありません。また、hCG製剤を使用すると検査上のhCG値に影響することはありますが、それは妊娠そのものが順調になったことを意味するものではありません。妊娠後のhCG製剤の使用が、妊娠初期の流産を予防する効果は確認できていません。
8,195人の妊婦を対象としたオランダの調査では、hCG数値は喫煙やBMIなどの生活習慣や出産回数、胎児の性別などの影響を受けると報告されています6)。
以下にて、この調査をもとにしたhCG数値が少ない人の特徴と注意点を解説します。
hCG数値が低い人の特徴|喫煙
母親の喫煙は、妊娠中のhCG数値を低下させる要因のひとつとして報告されており、喫煙者は非喫煙者と比べてhCG数値が平均約6,300 IU/Lほど低い傾向があるという結果でした6)。
また、この低下は喫煙量に比例しており、1日に吸う本数が多いほどhCG値への影響も大きくなることが特徴です。
さらに、妊娠週数が進むほど喫煙とhCG数値の低下の関連は強まる傾向があり、喫煙の影響は累積していくと考えられています。
一方、妊娠が判明した後に禁煙した女性のhCG数値は、非喫煙者と同程度であったことも報告されており、妊娠後から禁煙をした場合でも一定の効果がある可能性が窺える結果となっています。
hCG数値が低い人の特徴|BMIが高値
BMIは体重と身長から算出する体格の指標です。
計算式は「体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)」です。例えば身長160cm・体重55kgの場合、55÷1.6÷1.6=約21.5となります。
日本肥満学会の基準では、BMIの判定は以下のとおりです7)。
- 18.5未満:低体重(やせ)
- 18.5以上25未満:普通体重
- 25以上:肥満
BMIは、hCG数値に影響を与える因子のなかでも、影響力が大きいとされています。
具体的には、BMIが高いグループの女性は、BMIが低いグループの女性と比べて妊娠期間中のhCG数値が平均9,369 IU/Lほど低いことが報告されています6)。
hCG数値が低い人の特徴|hCG数値に影響するその他の因子と注意点
hCG数値には、喫煙とBMI以外にも出産経験の有無や胎児の性別なども関連すると報告されています6)。
ただし、喫煙やBMIを含めたこれらの因子がなぜhCG数値へ影響するのか、はっきりとした結論は出ていません。
妊活や妊娠に向けて生活習慣を整えることは大切ですが、hCG数値は非常に多くの要因が複雑に絡み合って決まるものです。
hCG数値に不安を感じた際には、主治医へ相談しながら、妊娠週数に応じた適切な評価を受けましょう。
院長からのメッセージ
「判定日のhCG値が低かったのですが、大丈夫でしょうか」という相談は診察室でも多く受けます。数字を見て頭が真っ白になる気持ちはよくわかります。
ひとつ知っておいていただきたいのは、hCGの値は妊娠週数や個人差によって正常範囲がとても幅広いということです。同じ妊娠5週でも、数百から数万という大きなばらつきがあります。低かった数値が次の検査で正常に上昇していた、というケースは実際に多くあります。
大切なのは「今日の数字が何か」より「どう変化しているか」です。2日後に前回の1.5〜2倍程度に増えているかどうかが、妊娠継続の経過を判断するうえでより重要な情報になります。最初の値が低いほど増加率の目安は高くなりますが、それでも基準を下回っていても正常に出産に至った事例はあります。hCGだけですべてが決まるわけではありません。
また、hCGの値は食事やサプリメントでは上げられません。「何かしなければ」という気持ちになる方もいますが、今できることは次の検査を待ち、担当医の説明を聞くことです。
結果がどうであれ、一人で考え込まないでください。次に会ったとき、一緒に数字の意味を確認しましょう。
参考文献
1)MedlinePlus. HCG blood test - quantitative. MedlinePlus website.
https://medlineplus.gov/ency/article/003510.htm
2)Larraín D, Caradeux J. β-Human Chorionic Gonadotropin Dynamics in Early Gestational Events: A Practical and Updated Reappraisal. Obstet Gynecol Int. 2024;2024:8351132.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10940029/
3)Barnhart KT, Guo W, Cary MS, Morse C, Chung K, Takacs P, Senapati S, Sammel MD. Differences in Serum Human Chorionic Gonadotrophin Rise in Early Pregnancy by Race and Value at Presentation. Obstet Gynecol. 2016;128(3):504-511.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4993627/
4)Davari Tanha F, Rasti A, Pakniat H, Salimi Setudeh S, Hosseini A, Rahimian Ghohroodi MA. Serum β-hCG, AMH, TSH, and PRL Levels in Predicting the Outcome of Early Pregnancy 14 Days after Embryo Transfer: A Prospective Cohort Study. Adv Biomed Res. 2025 May 31;14:45.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12165297/
5)Rauchfuss LK, Ainsworth AJ, Shenoy CC. Abnormal rate of human chorionic gonadotropin rise: a case series of patients with viable intrauterine pregnancies after embryo transfer. F S Rep. 2021;2(1):129-132.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8244357/
6)Korevaar TIM, Steegers EAP, de Rijke YB, et al. Reference ranges and determinants of total hCG levels during pregnancy: the Generation R Study. Eur J Epidemiol. 2015;30(9):1057-1066.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4584104/
7)日本肥満学会.肥満と肥満症について.日本肥満学会ウェブサイト.
https://www.jasso.or.jp/contents/wod/index.html







