不妊治療では、妊娠反応が出た後「このまま無事に妊娠が維持されるだろうか」と不安に感じる方は少なくありません。特に判定日のhCG値が低かった場合、自分のhCG値からどの程度の妊娠継続率が期待できるのか気になる方は多いものです。
hCG値や胎嚢の大きさ、心拍の有無などの所見ごとに妊娠継続率を算出した研究報告はいくつか存在します。
この記事では、hCG値や胎嚢の大きさなどと妊娠継続率の関係、インターネット上の計算ツールの扱いについて解説します。
妊娠継続率とは
妊娠継続率とは、厳密な定義などは決められていない用語ですが、一般的には妊娠が確認された後に流産や子宮外妊娠などに至らず、一定期間妊娠が続いた人の割合を指します。研究では妊娠10〜12週前後を継続の目安とすることが多いです。
妊娠初期は、hCG値や胎嚢(赤ちゃんを包む袋)の発育、心拍の有無などを確認し、妊娠が順調に経過しているかを評価します。
妊娠継続率は、これらの所見が見られた方のその後の経過を集計して算出します。個人の経過を確定するものではなくあくまで統計的な考え方ですが、妊娠経過の見通しを考える際の参考として用いられます。
類似する指標との違い
妊娠に関わる指標にはその他に「臨床妊娠率」や「生児出産率(生児獲得率)」などが存在します。妊娠継続率と似た言葉ですが、意味合いは異なります。
- 臨床妊娠率:超音波検査で胎嚢が確認できた割合
- 生児出産率:出産まで至った割合
これらは、妊娠成立や出産といった特定の結果に対する割合を表す数値です。
一方、妊娠継続率は、妊娠がどこまで維持できたかという経過を示した数値です。調査ごとに「妊娠20週まで継続した割合」「妊娠22週まで継続した割合」など、どこまで継続したかの基準が変わることがあるので、どの時点まで継続した割合であるかを確認した上で数値をみるようにしましょう。
妊娠継続率とhCG値の関係
妊娠初期のhCG値は、その後の経過を予測する手がかりのひとつです。一般的に判定日のhCG値が低い場合は、妊娠継続率が低くなる傾向があります。
hCG値と妊娠継続率を調べた海外の調査の例を挙げると、胚移植後14日目(一般的に妊娠4週3日〜4週5日頃)の血清hCG値が200mIU/mLを超えていた場合、妊娠20週以上の妊娠継続率は80.2%、流産率は19.8%であったとしています1)。
ほかにも胚移植後9日目(5日目の胚盤胞移植なら妊娠4週0日頃)の血清hCG値が100mIU/mLを超える人の妊娠9週目までの妊娠継続率は約90%だったという調査があります2)。
このようにhCG値が一定値を超えている場合、妊娠継続率が高くなる傾向が、いくつかの調査で確認されています。
ただし、hCG値には週数ごとの目安はあるものの、明確な基準値はありません。特に妊娠初期は数値の変動が大きいため、一度の検査結果で妊娠継続の可否を判断しないことが重要です。
hCGと週数ごとの目安
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、妊娠が成立すると胎盤の絨毛から分泌されるホルモンです。妊娠を維持する役割があり、妊娠判定だけでなく妊娠初期の経過をみる指標としても用いられます。
hCGは排卵後8〜10日ごろから分泌されはじめ、急速に増えていきます。hCG値は明確な基準があるわけではありませんが、アメリカの国立医学図書館が運営する医療情報サイトでは、hCG値の予測範囲の目安を以下としています3)。
ただし、検査機関によって正常とする範囲は異なります。個人差が大きい数値でもあるため、あくまでも参考としてください。
hCGの測定値の増え方も重要
hCG値は妊娠継続率を考える上で大事な指標ですが、同時にhCG値の伸び率も妊娠の経過をみる上で重要な指標のひとつです。妊娠が順調に経過している場合、hCGはおおむね1.4〜2.1日ごとに倍増していく傾向があります4)。
海外の調査で、hCGの測定値とその2日後(48時間後)のhCG値の増加割合をみて、どのくらいの割合で増えていたら妊娠継続に至ったかを調べた研究があります。
その結果では、2日後のhCG増加割合が11%未満の場合はすべてのケースが早期流産となったとされています。一方で、2日後のhCG増加割合が75%以上だった場合は、7〜14日後の検査では全症例が妊娠が継続していたという結果でした5)。
この調査は、診察時に胎児の心拍がまだ認められない場合や胎児構造が視認できない場合など、胎児の生存可能性が不確かなケースを対象としており、一般的な妊娠のケースと少し傾向が異なる可能性があります。しかし、hCG増加の割合が高いと妊娠継続の可能性が高いことがうかがえる結果となっています。
実際には妊娠経過をみていく際は、hCG値やその増え方だけでなく、超音波検査で胎嚢や心拍を確認しながら総合的に評価していくことになります。
胎嚢の大きさや心拍の有無による妊娠継続率の変化
妊娠経過が順調に進むと、胎嚢や心拍が確認されていき、妊娠継続率は段階的に高くなります。
海外の研究では受胎後33〜36日目(妊娠7週前後)の超音波検査で確認される胎嚢や卵黄嚢の大きさ、心拍の有無などの所見と、その後の妊娠継続との関連が報告されています6)。
以下ではこの研究をもとに、胎嚢・卵黄嚢・心拍と妊娠継続率(20週以降)の関係を解説します。(前述の通り一般的に研究では妊娠10〜12週前後を継続の目安とすることが多いですが、この研究では20週を基準としています )
胎嚢の大きさ
胎嚢は赤ちゃんを包む袋のことであり、妊娠5週頃から超音波検査で確認できます。この研究では、胎嚢の大きさと妊娠継続率について以下のように報告されています6)。
胎嚢が大きいほど妊娠継続率が高く、相関関係にあることがわかります。妊娠の経過を判断する際は、単に胎嚢が確認できることだけでなく、どのくらいの大きさなのかも重要な指標となります。
卵黄嚢の大きさ
卵黄嚢の大きさも、妊娠継続率に関係することが示されています。卵黄嚢は赤ちゃんに栄養を送る膜であり、妊娠5〜6週頃から胎嚢の中に確認できるようになります。
この研究では、卵黄嚢の大きさと妊娠継続率について以下のように報告されています6)。
卵黄嚢の大きさが2〜6mmにおさまっている場合には妊娠継続率が高いものの、2mm未満や6mmを超える場合は流産のリスクが高まることがわかります。妊娠経過を予測するうえで、卵黄嚢が適度な大きさであることも重要なポイントと考えられます。
心拍の有無
赤ちゃんの心拍は、妊娠5週の終わりから妊娠8週頃までに超音波検査で確認できます。心拍が確認できると、妊娠が順調に経過している可能性が高くなります。
この研究では、心拍の有無と妊娠継続率についても報告されています6)。
心拍が確認できた場合の妊娠継続率は9割を超え、初期流産の可能性が大きく下がることがわかります。
また、以下の3つの条件がそろった場合、20週以降の妊娠継続率は約94%に達したと報告されています。
- 胎嚢の大きさが12mm以上
- 卵黄嚢の大きさが2〜6mm
- 心拍が確認できる
これらの条件がそろった場合、過去に流産を繰り返した経験のある方も、同じく約94%の継続率が確認されています。
ただし、3つの条件を満たしていないからといって、妊娠継続の可能性が否定されるわけではありません。あくまで統計的な傾向であり、個々のケースは医師の総合的な判断によって評価されます。ご自身の経過は医師から詳しく説明を受け、疑問があれば遠慮なく相談しましょう。
妊娠継続率の計算ツールについて
インターネット上には、妊娠継続率を算出するツールがあります。判定日とその日のhCG値、移植日と移植した胚の種類、年齢といった情報を入力することで、妊娠継続率が計算されます。
ただし、計算ツールの多くは複数の医療機関がもつ過去の症例データを参考に推計した数値です。必ずしも自分のケースと一致するわけではなく、個人の妊娠経過を予測するものではないことを十分に理解する必要があります。
計算ツールの結果によっては不安に感じている方もいるかもしれませんが、参考程度にとどめることが推奨されます。医師の診察のもと、正確な妊娠の経過を確認してください。
妊娠継続率についてよくある質問
妊娠継続率についてよく寄せられる質問に回答します。
hCGが高いと妊娠継続率は高くなりますか?
一般的な傾向として、判定日のhCG値が高いほど妊娠継続率も高くなる傾向があります。日本の研究でも、初期hCG値が高いほど妊娠が継続し、生児出産率が高くなる結果が確認されている報告があります7)。
ただし、あまりにも極端に高い場合は多胎妊娠(双子・三つ子など)や胞状奇胎の可能性もあり、経過を慎重にみていく必要があります。
hCGの増え方がゆっくりだと妊娠は継続できませんか?
hCG値の上昇がゆるやかでも妊娠に至るケースはあります。ただし、化学流産や子宮外妊娠の可能性も考えられるため、発育を慎重に確認していくことが重要です。
先述のとおり、hCG値の増える割合が一定の値を超えていると妊娠が継続する可能性が高く、増える割合が少ないと流産の可能性が上がるとした研究報告はいくつかあります。
ただし、hCG値の推移は妊娠経過を予測する補助的な指標であり、確定するものではありません。過度に不安にならず、超音波検査をあわせて総合的に判断してもらいましょう。
胎嚢の大きさと流産率は関係しますか?
胎嚢の大きさと流産率には相関関係があることがわかっています。先述のとおり、胎嚢が大きくなると流産率も下がるという調査結果がいくつかあります。
一方で、大きさだけでなく成長の割合も重要と考えられています。実際に最初の検査で胎嚢が小さくても、その後順調に成長し妊娠が継続するケースもあります。
超音波検査の測定値には誤差が生じる可能性もあるため、再検査を重ねながら医師とともに経過を確認してください。
院長からのメッセージ
「判定日のhCG値が低かったのですが、大丈夫でしょうか」という相談は、診察室で頻繁に受けます。この記事にある数値は、気持ちの整理には役立ちますが、個人の予後を確定するものではないことをまず知っておいてください。
妊娠の経過は、hCG値・胎嚢の大きさ・卵黄嚢の発育・心拍の確認、これらを複数回にわたって確認しながら評価していくものです。1回の数値だけで良い・悪いと判断することはなく、変化の方向性を確認することの方が重要なことが多いです。
インターネットの計算ツールも同様です。ツールの計算式はあくまで統計的な推計であり、あなた個人の経過を反映しているわけではありません。低い数値が出ても、それは「あなたの妊娠が継続しない」という意味ではありません。
一方で、hCGの伸びが著しく遅い・胎嚢が全く大きくならないといった場合は、化学流産や子宮外妊娠の可能性もあるため、自己判断で様子を見続けず担当医に確認してください。
数値が気になって眠れない夜が続くのはつらいことです。心配なことはそのまま次の診察のときに話してください。一緒に経過を確認しましょう。
参考文献
3)MedlinePlus. HCG blood test - quantitative. MedlinePlus website.


