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最終更新日:
2026-03-04

妊娠検査薬で陽性が出たにもかかわらず、その後胎嚢が確認できなかった場合、不安や戸惑いを感じる方も少なくありません。

化学流産は、本人の行動や気持ちが直接の原因になるものではないと考えられています。多くの場合、誰にでも起こりうるごく初期の妊娠の経過のひとつです。

本記事では、化学流産の仕組みや原因、起こる確率、次の妊娠への影響などについてわかりやすく解説します。

化学妊娠・化学流産とは?

「化学妊娠」とは、妊娠検査で陽性が出ているが、超音波検査で赤ちゃんの袋(胎嚢)が確認される前の段階の状態を指す用語で、「生化学的妊娠」と呼ばれることもあります。胎嚢が確認されると「臨床的妊娠」と呼び、妊娠歴にカウントされるようになります。

「化学流産」とは、この「化学妊娠」の状態のまま、胎嚢が確認される前に妊娠が終わってしまう状態のことをいいます。化学流産は、医学的には「臨床的な流産」とは区別され、一般的に流産の回数には含めません。

一般的に初期の妊娠の確認は、尿中または血液中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の測定によっておこなわれます。hCGは、妊娠すると増加するホルモンの一つで、妊娠組織で作られます。

このホルモンの数値が約1,000〜2,000 IU/Lを超えると、超音波検査において子宮内に胎嚢が確認できるようになるといわれています1)。市販の妊娠検査薬も、このhCGに反応する仕組みになっています。

化学流産とほかの流産との違い

流産には、いくつか種類があります。化学流産とほかの流産の大きな違いは、胎嚢が確認できるか否かという点です。

前述の通り超音波検査で胎嚢が確認できた妊娠は「臨床的妊娠」といい、その後、妊娠の途中で赤ちゃんの心拍が確認できなくなった場合などは、「臨床的流産」となります。

一方で、化学流産は胎嚢が確認される前に妊娠が終了してしまったことを指します。

化学流産以外の妊娠初期の流産について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

化学流産が起こる確率

化学流産は、特別な異常がなく、若い健康なカップルであっても30~40%程度の頻度で起こるとされており、1)妊娠に全く気づかないくらいごく初期の妊娠段階まで含めると、一定の割合で起こると報告されています。

これほどの高い頻度で起こる背景には、妊娠検査薬のhCG検出感度が向上したことや、不妊治療の普及によって、妊娠のごく初期段階からhCGを測定する機会が増えたことが関係しています。これまで単に月経の遅れなどと判断されて気づかれなかった化学流産が、検査されることによって確認されるようになってきているのです。

化学流産の主な原因

化学流産の原因として比較的多いとされているのが、受精卵(胚)の染色体異常です。胚に染色体の異常がある場合、成長が続かず、ごく早い段階で妊娠が終わってしまうことがあります。これは偶発的に起こることが多く、誰にでも起こりうると考えられています。

そのほかにも、子宮内の環境や年齢などとの関連が検討されていますが、明確な因果関係がはっきりしているものばかりではありません。

研究の中では、次のような要因との関連が報告されることがあります2)

  • 子宮内膜が胚の着床・維持に十分な状態になっていない
  • 子宮内膜の厚さが十分でない
  • 精子のDNA損傷
  • 女性の年齢上昇に伴う影響
  • 強い精神的ストレス
  • 凍結融解胚移植における凍結・融解過程での胚へのダメージなど

ただし、これらが単独で直接の原因になるとは限らず、多くの場合は偶然に起こるごく初期の妊娠の経過のひとつと考えられています。

化学流産の兆候と症状

化学流産では、自覚できるはっきりとした症状がないことも多いとされています。そのため、妊娠検査薬の結果やhCGの変化、超音波検査の所見などから初めてわかるケースが少なくありません。

一方で、人によっては軽いつわりのような症状や、体の変化を感じることもあります。つわりは一般的に妊娠5〜6週頃から始まりますが、早い場合は妊娠4週頃から症状を感じることもあるため、ごく初期の段階でも妊娠初期に似た症状を感じることは不思議ではありません。

ただし、症状の有無や強さには個人差があり、症状がほとんどなかったとしても特別なことではありません。

生理との違い

化学流産では、生理のような出血がみられることがあります。出血の量や期間、色などが普段の月経とほとんど変わらない場合も多く、見た目だけで化学流産と生理を区別するのは難しいとされています。

そのため、妊娠検査薬を使っていなければ、「少し遅れてきた生理」と感じるだけで終わるケースもあります。気づかないまま経過することも珍しくないと考えられています。

化学流産の診断と治療

産婦人科医会の基準に従う場合、化学流産かどうかは、妊娠検査薬などで妊娠反応が陽性であり、最終月経から5週以上たった状態で行われます。週数の数え方や排卵日のずれによって見え方が変わることもあるため、診察所見から化学流産が疑われる場合でもすぐには確定診断とはせず、数日から1週間ほど様子を見ることもあります。

妊娠反応が陽性であるのに子宮内に胎嚢が見えない場合、化学流産のほか、受精卵が子宮以外の場所に着床する「異所性妊娠」の可能性もあるため、確認は慎重に行われます。異所性妊娠の約9割以上は卵管での妊娠です3)。初期症状は、生理の遅れに続く性器出血や下腹部痛で、化学流産や生理と区別がつきにくい特徴があります。

多くの場合、化学流産そのものに対しては、特別な治療が必要になることはありません。体は自然に元の状態へ戻っていき、次の妊娠に向けて準備が進んでいくと考えられています。

なお、強い腹痛や大量の出血がある場合は、早めに受診することが大切です。

化学流産を繰り返してしまう場合

化学流産を繰り返す場合でも、はっきりとした原因が特定できないことも少なくありません。現時点では、化学流産そのものに対して確立された治療法はなく、個々の状況に応じて経過をみながら対応していくことになります。

一方で、胎嚢が確認された後の流産を繰り返す場合とは、検査や対応が異なることがあります。気になる場合は、医師と相談しながら必要な検査を検討していきます。

化学流産に関するよくある質問

化学流産に関するよくある質問について回答します。

化学流産の場合、妊娠検査薬はいつまで陽性?

化学流産では、体の中で作られていたhCGというホルモンが徐々に減っていきます。そのため、妊娠検査薬の反応も時間とともに弱まり、やがて陰性になります。

陰性になるまでの日数には個人差があり、はっきりと決まっているわけではありません。数日で変化することもあれば、もう少し時間がかかる場合もあります。

化学流産と稽留流産の違いは?

化学流産は、胎嚢が確認される前に妊娠が終わる状態をいいます。一方、稽留流産は胎嚢や胎芽が確認されたあとに、子宮の中で成長が止まってしまう状態です。

大きな違いは、「胎嚢が確認できているかどうか」という点にあります。

化学流産でもつわりは起こる?

妊娠初期には、早い段階から体の変化を感じることがあります。そのため、化学流産であっても、軽いつわりのような症状を感じることはあります。

ただし、症状の有無や強さには個人差があり、症状がほとんどなかったとしても不思議ではありません。

妊娠5週で胎嚢が見えない場合は化学流産?

妊娠5週頃でも、胎嚢がまだ見えないことはあります。そのため、すぐに化学流産と決まるわけではなく、数日から1週間ほどあけて再確認することが一般的です。妊娠反応が陽性であるのに子宮内に胎嚢が見えない場合は、化学流産のほか、受精卵が子宮以外の場所に着床する「異所性妊娠」の可能性もあるため、確認は慎重に行われます。

医師は、週数の計算やhCGの変化などを総合的に判断しながら経過をみていきます。

化学流産は次の妊娠に影響する?

化学流産は、ごく初期の妊娠の段階で起こることがある出来事で、多くの場合、体は自然に回復し、次の妊娠に進むことが可能とされています。

海外の研究の例では、化学流産を経験したあとでも、その後の妊娠の経過に大きな影響はみられなかったとする報告もあります4)

ただし、何度も繰り返す場合や不安が強い場合は、医師と相談しながら必要な検査を検討していきます。

院長からのメッセージ

化学流産は、妊娠検査薬で陽性が出た後に起こることから、「もしかして自分が何か悪いことをしたのでは」と自分を責めてしまう方も少なくありません。

しかし、化学流産は誰にでも起こりうることで、日常生活の中での行動や気持ちが直接の原因になるものではありません。健康なカップルでも30〜40%という頻度で起こる、決して珍しくない出来事です。

妊娠のごく初期は、排卵日のずれなどで胎嚢の確認時期にも個人差があります。「早く確認したい」というお気持ちは当然ですが、妊娠5週前後の段階で胎嚢がまだ見えないことは珍しくありません。早すぎる時期の検査は、かえって不安を増してしまうこともあります。

また、この時期は化学流産だけでなく、異所性妊娠(子宮外妊娠)の可能性も慎重に確認していく必要があります。妊娠反応が陽性であるにもかかわらず子宮内に胎嚢が見えない場合、数日から1週間ほど間隔をあけて再検査を行い、hCGの値の変化や超音波検査の所見を総合的に判断していきます。

化学流産を経験された方の多くは、その後の妊娠で問題なく経過しています。ただし、何度も繰り返す場合や、ご不安が強い場合は、遠慮なくご相談ください。

妊娠のごく初期は、誰にとっても不安な時期です。一人で抱え込まず、一緒に次のステップを考えていきましょう。 

 

参考文献

1)公益社団法人日本産婦人科医会.1.生化学的妊娠(Biochemical pregnancy)の扱い方.公益社団法人日本産婦人科医会ウェブサイト.
2)Annan JJK, Gudi A, Bhide P, Shah A, Homburg R. Biochemical pregnancy during assisted conception: A little bit pregnant. J Clin Med Res. 2013;5(4):269–274.

3)公益社団法人日本産婦人科学会・日本産婦人科医会.産婦人科診療ガイドライン2023―婦人科編.

4)Li J, Lin J, Yin M, Zhu Q, Kuang Y. The live birth and neonatal outcomes in the subsequent pregnancy among patients with adverse pregnancy outcomes in first frozen embryo transfer cycles. Arch Gynecol Obstet. 2020 Sep;302(3):731-740.