妊娠初期に「37度くらいの熱が続いているが、赤ちゃんに影響はないだろうか」「熱っぽさや発熱は、このまま様子をみてもよいのだろうか」と不安になる方もいるのではないでしょうか。
妊娠初期は、妊娠を維持するために分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)の影響で体温が高い状態が続き、熱っぽさやだるさを感じることがあります。一方で、風邪や感染症などが原因で発熱している可能性もあるため、体温やほかの症状を確認することが大切です。
この記事では、妊娠初期に体温が高くなる仕組みや体温変化の目安、熱っぽさが続く期間、対処法、医療機関を受診すべきタイミングについて解説します。
妊娠初期の熱っぽさを感じる原因は?
妊娠初期に熱っぽい、熱があると感じる原因は大きく2つのケースが考えられます。
- 妊娠に伴って体温が高い状態が続いている場合
- 風邪や感染症など、妊娠以外の原因で発熱している場合
前者の「妊娠に伴って体温が高い状態が続いている場合」は妊娠に伴う正常な反応の範囲内であり、日常生活に問題がなければ特別な対処は必要ありません。
一方、後者の「風邪や感染症など、妊娠以外の原因で発熱している場合」は、症状によっては早めの対処が必要になることがあります。
ここからはそれぞれのケースについて詳細や受診のタイミングなどを解説します。
妊娠に伴って体温が高くなる理由
妊娠初期は体温が高めで推移するため、熱っぽさを感じたり、軽度に体温が高くなったりすることがあります。これらは、妊娠に伴う生理的な体の変化であり、特に心配する必要はありません。
体温は運動や食事によっても変化するため、細かい体温の変化を知りたい時には、目覚めてすぐの体を起こしていない状態の体温を測定します。これを基礎体温といい、妊娠前の生理周期の中では一般的に体温の低い「低温期」と体温の高い「高温期」の2相にわかれています。
月経周期が28日の場合、月経開始から14日ほど低温期が続き、排卵を機に高温期へ移行します。高温期も14日ほど続き、月経がはじまると低温期へ戻ります。
この高温期に、優位に分泌される女性ホルモンが「プロゲステロン(黄体ホルモン)」です。プロゲステロンは着床や妊娠の維持に重要な役割を果たすとともに、体温を上げる作用があります。
妊娠していない場合には、排卵後しばらくするとプロゲステロンの分泌量は減少し、月経を経て低温期へ戻ります。しかし妊娠した場合には、妊娠を維持するためのホルモンとしてプロゲステロンが分泌され続けるため、妊娠初期になっても高温期が継続されます。
そのため、妊娠初期の「体が熱っぽい」「37度前後の熱が続く」というような体の反応は、体温を上げる作用のあるプロゲステロンの影響である可能性があり、妊娠による正常な反応のひとつといえます。
妊娠初期の基礎体温の変化、熱っぽさやつわりとの関係性
ここでは妊娠初期にどの程度の基礎体温の変化があるのか、いつまで続くのかについて解説します。
妊娠初期の基礎体温:37℃以上になる可能性も
プロゲステロンと体温の関係は、いくつかの研究で報告されています。
ある研究では、排卵後にプロゲステロン値が上昇するのに伴い、体幹温度が低温期よりも0.3〜0.7℃高くなることが確認されています1)。
また別の研究では、15名の女性の直腸温を24時間にわたり測定した結果、高温期の日中には体温が37度台後半に達することも報告されました2)。
ただし、これらの研究で使われた体幹温度や直腸温は、体の内側(深部)の温度を測定したものです。一般的に家庭で用いる腋窩(脇の下)の測定値よりも高い傾向があるため、数値をそのまま比較することはできません。
とはいえ、プロゲステロンによって体温が上昇するという結果そのものは共通しています。もともと平熱が高めの方は、妊娠初期に37度、場合によっては37.5度前後まで上がる可能性も考えられます。
まずはご自身の平熱と比較し、どの程度の体温変化が生じているのか確認してみましょう。
熱っぽさやだるさが継続する期間
妊娠初期の熱っぽさや軽度な体温の上昇は、だるさも感じやすく、いつまで続くのか気になる方も多いかと思いますが、これらの症状が続く期間については必ずしも見解が統一されていません。
先述の15人の妊婦を対象とした海外の調査では、妊娠8週目から体温は低下しはじめたという報告内容になっています3)。
一方で、過去の日本の調査では、妊娠15〜17週前後に基礎体温が低下しはじめたという報告もあります4)。
継続する期間は個人差も少なくないと考えられますが、妊娠初期の後半から妊娠中期くらいまで続く可能性がある、というのがひとつの目安となります。
つわりと熱の関係性
妊娠初期の症状として、熱っぽさやつわりを同じような時期から感じるケースも少なくありませんが、これらは原因が異なり直接的な関連はないと考えられます。
つわりがはじまることが多い妊娠5〜6週ごろは、プロゲステロンによる体温上昇が続いている時期と重なります。そのため、「吐き気があり、体が熱っぽい」という状態が同時に起き、関連する症状と感じることがあるかもしれませんが、先述のとおり原因は異なると考えられます。
つわりの原因は完全に解明されていませんが、最近では胎児・胎盤由来のGDF15というホルモンが関連していると報告されており5)、体温を上げる仕組みとは異なります。
妊娠初期の正常な基礎体温上昇に関する対処法と注意点
ここでは、妊娠初期の正常な体温の上昇に関する対処法と注意点を解説します。
日常生活に支障がなければ特別な対処は必要ない
熱っぽさがプロゲステロンの影響による体温上昇(高温相)の範囲内であれば、日常生活に大きな支障がなければ、慌てて対処する必要はないと考えられています。ただし自己判断はせず、次回の妊婦健診の際に念のため医師に伝えておくと安心です。
一方で、高熱が出ている場合や、微熱程度でも辛さを感じて日常生活に影響が出ている場合は、感染症など他の原因が隠れている可能性もあります。このようなケースでは我慢せず、早めに医療機関の受診を検討しましょう。
自己判断での内服は控える
妊娠中に熱っぽさがある、軽度な体温の上昇があるからといって、解熱剤などを自己判断で使用することはなるべく控えましょう。
解熱剤は種類によって成分が異なり、妊娠中には使用を避けた方がよい成分が含まれている薬もあります。妊娠前から使用していた薬なども含め、内服してよいかどうかは医師へ相談しましょう。
以下の記事では妊娠中の風邪薬や咳止め、解熱剤について解説しています。あわせてご覧ください。
妊娠以外の原因による発熱と受診すべきタイミング
妊娠初期の熱っぽさはプロゲステロンによる体温上昇以外が原因となる可能性もあります。ここでは、受診が推奨されるタイミングや主な感染症の種類などを解説します。
辛いと感じる発熱・高熱がある
妊娠初期で何度以上になったら受診するべきといった明確な基準はありません。感染症の行政上の基準としては、「感染症法に基づく厚生労働省の届出基準」において、37.5℃以上が発熱、38.0℃以上が高熱とされています。また、米国疾病予防管理センターが妊産婦の「緊急受診サイン」として38.0°C(100.4°F)以上の発熱を周知しています6)。
妊娠初期(特に器官形成期にあたる4〜10週ごろ)に高熱が長時間続くことは、胎児の発育に影響する可能性があるとする研究報告もあります。そのため、高熱が続く場合は早めに医師に相談することが大切です。自己判断で解熱剤を使わず、医師の指示のもとで対応してください。
38℃以上でなければ受診してはいけないということもなく、症状が辛い場合は37℃台での受診も避ける必要はありません。目安として37.5〜38℃以上の熱がある場合は、妊娠による基礎体温の上昇でなく、感染症などが原因である可能性も考えられるため、受診を検討するようにしましょう。ただし周囲の方への感染予防のため、受診前には必ず病院に連絡をすることが重要です。
咳や喉の痛みなど感染症の症状がある
妊娠中は免疫系の変化により病原体を排除する能力が低下し、感染症の症状が重くなりやすいことが報告されています。
妊娠中の感染症は、母体だけでなく、お腹の赤ちゃんにも影響を与える可能性があり注意が必要です。妊娠中に注意が必要な感染症や熱以外の症状には、一般的な風邪以外にも以下のようなものがあります。
熱以外にも喉の痛みや関節痛、発疹、嘔吐などの症状がある場合、感染症が影響している可能性もあります。症状が重くなる前に、医師へ相談しましょう。
水分補給や食事がとれない
熱っぽさに加えて水分や食事がとれない場合は、つわりの悪化が重なっている可能性があります。
吐き気などのつわりの症状が悪化すると、「妊娠悪阻」という状態になることがあります。
妊娠悪阻はつわりが重症化し、食事や水分を十分にとれなくなる状態です。食物摂取が困難になり嘔吐が激しくなるほか、全身の栄養状態が悪化し、頭痛や意識障害、肝機能障害が現れる場合もあり注意が必要です。
妊娠悪阻は入院を検討される場合もあるため、日本産婦人科医会では水分がとれない、3日以上食事がとれない状態が続く、大幅に体重が減少しているようなときは、担当医への相談を推奨しています。
妊娠初期に病院を受診するときのポイント
妊娠初期に病院を受診する場合には、まずはかかりつけの産婦人科へ相談しましょう。高熱や咳、喉の痛みなど感染症が疑われる際には、直接来院する前に連絡をし、受診方法を確認してください。
なお、かかりつけの産婦人科が時間外などで受診できない場合には、受付時や診察時に「妊娠していること」「妊娠週数」を必ず伝えましょう。
妊娠の有無や妊娠週数により、処方できる薬が変わるため、すぐに確認できるよう母子手帳を交付されている場合は持参するとよいでしょう。
また、受診先にかかわらず、以下の情報をまとめておくと診察がスムーズになります。
- いつから熱や症状が出ているか
- 最高体温と現在の体温
- 熱以外の症状の有無(咳・喉の痛み・発疹など)
- 感染者との接触の有無
- 市販薬などを内服した場合は説明書や外箱などを持参する
医師に状況を正確に伝えられるよう、自身の状況を整理しておきましょう。
院長からのメッセージ
妊娠初期に「熱っぽい」「37度くらいの熱が続く」と感じる方はとても多いです。この時期はプロゲステロンというホルモンの影響で体温が高めに保たれているため、それ自体は心配のいらない体の変化であることがほとんどです。
ただし、注意していただきたいことがあります。ひとつは、38度前後の高熱が続く場合です。妊娠初期、特に赤ちゃんの体の基礎が作られる時期に高い体温が続くことは、赤ちゃんの発育に影響する可能性があるという報告があります。高熱が続く場合は早めに連絡してください。自己判断での解熱剤の使用も避けてください。
もうひとつは、感染症の可能性です。咳・喉の痛み・発疹など、熱以外の症状を伴う場合は、風邪以外の感染症が背景にあることもあります。受診前には必ず産婦人科に連絡し、指示に従ってください。
つわりで水分や食事が十分にとれていないときも、体調が悪化しやすい時期です。「これくらい平気」と我慢せず、気になることがあれば早めに相談してください。
参考文献
1)Baker FC, Siboza F, Fuller A. Temperature regulation in women: Effects of the menstrual cycle. Temperature (Austin). 2020;7(3):226-262.
https://doi.org/10.1080/23328940.2020.1735927
2)Baker FC, Driver HS, Paiker J, Rogers GG, Mitchell D. Acetaminophen does not affect 24-h body temperature or sleep in the luteal phase of the menstrual cycle. J Appl Physiol (1985). 2002;92(4):1684-1691.
https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00919.2001
3)Hartgill TW, Bergersen TK, Pirhonen J. Core body temperature and the thermoneutral zone: a longitudinal study of normal human pregnancy. Acta Physiol (Oxf). 2011;201(4):467-474. https://doi.org/10.1111/j.1748-1716.2010.02228.x
4)Honda K, Abe Y, Sasagawa S, Suzuki M. Pregnancy and Basal Body Temperature (1): Basal body temperature pattern throughout the entire pregnancy. J Kyorin Med Soc. 1972;3(3):149-156. https://doi.org/10.11434/kyorinmed.3.149
5)Fejzo M, Rocha N, Cimino I, Lockhart SM, Petry CJ, Kay RG, et al. GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy. Nature. 2024;625(7996):760-767. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06921-9
6)CDC (Centers for Disease Control and Prevention). "Hear Her: Urgent Maternal Warning Signs."
https://www.cdc.gov/hearher/docs/pdf/CDC-Hear-Her-Womens-urgent-warning-signs-h.pdf







