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最終更新日:
2026-10-22

人工授精(AIH)を検討している方や、すでに治療をはじめている方のなかには、「1回で妊娠できる確率はどのくらいなのだろう」「何回くらい続ければいいのか」と気になっている方もいるのではないでしょうか。

人工授精で妊娠する確率は、1周期あたりおおむね5〜10%とされています1)。ただし、妊娠の確率は、年齢や排卵誘発剤の使用の有無などによっても異なります。また、1周期あたりの妊娠率と、治療を繰り返した場合の「累積妊娠率」は、分けて考える必要があります。

この記事では、人工授精の累積妊娠率や年齢別の妊娠率、治療を続ける回数の目安、気をつけたい生活習慣などを解説します。

人工授精(AIH)とは?

人工授精(AIH)とは、排卵の時期に合わせて、洗浄・濃縮して集めた運動性の良い精子を、細くやわらかいカテーテルで子宮内へ注入する治療です。

自然妊娠やタイミング法では、腟内に射精された精子が子宮の入り口(頸管)を通り、子宮・卵管へ進みます。人工授精では、精子が子宮の入り口(頸管)を通る必要がなくなり、洗浄・濃縮した運動精子を子宮内へ直接届けられるため、頸管の粘液が少なく精子が通りにくい場合や、精子の数や運動率がやや低い場合の選択肢になります。

人工授精が補うのは、精子を子宮の中に届けるところまでです。その先の精子と卵子が出会い、受精・着床するまでは、自然妊娠と同じように体の中で起こります。

人工授精で妊娠する確率は?

人工授精で妊娠する確率は、1周期あたりおおむね5〜10%とされています1)。ただし、この数字は女性の年齢や排卵誘発剤の併用の有無などによっても変わります。

先述のとおり、人工授精は精子を子宮の中に届けた後は自然妊娠と同じ流れであり、1回あたりの妊娠確率は必ずしも高くないため、何回か繰り返しながら妊娠を目指します。続ける回数は、年齢や検査結果などをふまえて検討します。

人工授精の回数と妊娠率の関係(累積妊娠率)

人工授精は、一般的に治療の回数を重ねることで、妊娠に至る方の割合(累積妊娠率)が高くなります。

オランダで約3,700組を対象とした研究では、1回あたりの妊娠継続率(妊娠12週を超えて赤ちゃんの心拍が確認できた割合)は平均5.6%で、累積では3回で約18%、9回で約41%と報告されています2)。

ただし、累積の数値は、途中で治療を終えた方も、もし継続していれば同じ確率で妊娠すると想定して試算されたものです。治療を続ける間にも年齢は上がり、妊娠率に影響します。また、精子の状態によっても妊娠の可能性は変わります。

そのため当院では、35歳未満で不妊期間が1年未満の方は6回程度まで、それ以外の方は3〜6回程度を目安に、次のステップについて相談しています。さらに、38歳以上の方や、35〜37歳で不妊期間が1年以上の方には、早めに体外受精を検討することをお勧めしています。また、パートナーの精液検査の結果や卵巣の状態などによっては、より早めに体外受精をご提案することもあります。

女性の年齢と妊娠率の関係

人工授精で妊娠する確率は、女性の年齢が上がるにつれて低下する傾向があります。背景には、加齢による卵子の数や質の低下などが関係しており、これは不妊治療を実施しない状態の一般的な妊娠率(自然妊娠率)と同様の傾向です。

アメリカの不妊治療施設で、排卵誘発剤(クロミフェン)を併用して人工授精を受けた1,738人(4,199周期)を調べた研究でも、年齢が高いほど妊娠率は低くなっていました3)。

治療を受けた回数は人によって異なりますが、平均すると1人あたり2〜3回程度となります。以下の表の「累積妊娠率」は、研究期間中に受けた治療を通じて妊娠した人の割合を示しています。

女性の年齢 1周期あたりの妊娠率 累積妊娠率
35歳未満 11.5% 24.2%
35〜37歳 9.2% 18.5%
38〜40歳 7.3% 15.1%
41〜42歳 4.3% 7.4%
42歳超 1.0% 1.8%

※全員が同じ回数の治療を受けた結果ではありません。

この研究は排卵誘発剤を併用した場合の結果ですが、1周期あたりの妊娠率・累積妊娠率ともに、年齢が高いほど低くなっています。

日本生殖医学会では、35歳以上の方や、35歳未満でも卵巣予備能が低い(卵巣に残る卵子が少ない)方では、タイミング法と人工授精をあわせて6周期程度までとし、40歳以上の方には体外受精などの生殖補助医療(ART)をすすめています4)。

人工授精を続ける回数は、年齢や卵巣の状態などを考慮して検討することが大切です。

排卵誘発剤を併用した場合

排卵誘発剤は、排卵が不安定な場合などに使われることがあります。併用した場合の妊娠率は、1周期あたり約10〜15%とされています1)。

一方で、排卵誘発剤を使うと卵胞が2つ、3つと育ち、双子や三つ子などの多胎妊娠が起こりやすくなります。双子の周産期(出産前後の時期)のリスクは5〜10倍になるとの報告もあるため、多胎妊娠を避けるために、その周期の人工授精を見送ることもあります。

排卵誘発剤を使うことで、排卵が不安定な方のほか、原因がはっきりしない不妊(原因不明不妊)の方などでも、妊娠の可能性が高まることがあります。ただし、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などのリスクもあるため、それらも考慮したうえで治療を受けることが大切です。

排卵誘発剤については以下の記事にて詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。

人工授精で妊娠する確率が低いと言われるのはなぜ?

妊娠の確率が、1周期あたり5〜10%という数字は、低く感じるかもしれません。しかし、妊娠の可能性は年齢や不妊の原因などによって異なり、人工授精が適しているケースと必ずしも適さないケースがあります。この数字がすべての方に当てはまるわけではありません。

人工授精は、精子を子宮内に届けることで妊娠を手助けする治療で、頸管の粘液が少ない場合や、精子の数や運動率がやや低い場合などに適しています。

一方で、卵管が卵子をうまく取り込めない「ピックアップ障害」や、卵子と精子が出会っても受精しにくい「受精障害」がある場合は、人工授精では妊娠につながりにくいとされています。

人工授精を続けてもなかなか妊娠しない場合や、人工授精での妊娠が期待しにくい場合は、体外受精などへのステップアップも検討しましょう。

不妊治療のステップアップについては、以下のページにて詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。

精子の状態は人工授精の妊娠率にどう影響する?

人工授精の妊娠率は、女性側の条件だけでなく、男性側の精子の数や運動率によっても変わります。人工授精は軽度の男性不妊にも用いられますが、精子の状態によっては、人工授精による妊娠が難しいこともあります。

男性側に不妊の主な原因がある場合は、女性が排卵誘発剤を使用しても、人工授精の成績は上がるとは限りません。

目安として、日本生殖医学会では、洗浄・調整したあとの「総運動精子数(運動している精子の総数)」が500万〜1000万個未満の場合は妊娠率が大きく下がるため、体外受精への移行が勧められています1)。

精子の数や運動率などは、精液検査で調べることができます。検査結果をもとに、どのような治療の進め方が適しているかを医師と相談しましょう。

精液検査については、以下のページで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

人工授精の確率を上げる上で心がけたいこと

人工授精に取り組む際は、パートナーとともに生活習慣を整え、採精や薬の使用について医師の指示に沿って進めることが大切です。

妊娠に向けた体づくりとして、次のような生活習慣を心がけましょう。

  • 栄養バランスのとれた食事
  • 適度な運動
  • 規則正しい睡眠
  • 健康的な体重の維持

特に喫煙は、女性では妊娠した際の流産や早産のリスクを高めるとされ、男性では精子の数や運動率の低下に関係することが指摘されています。妊活中は、パートナーと一緒に禁煙に取り組みましょう。

また、精子をためようとして、禁欲期間を長くしすぎる必要はありません。禁欲期間が長くなると、精子の数は増えても、精子のDNAが傷つく割合が高くなることが報告されています5)。

そのため当院では、採精前の禁欲期間は2〜3日以内を目安としています。

排卵誘発剤などを使用する場合は、薬の種類によって使う時期や方法が異なるため、医療機関からの指示を守りましょう。

人工授精の確率に関してよくある質問

ここでは人工授精の確率に関するよくある質問について回答します。

Q:人工授精で生まれた子どもは、障害や先天異常の確率が高くなる?

A:人工授精によって、生まれつきの病気や障害(先天異常)のリスクが高まることはないと考えられています。

米国生殖医学会(ASRM)は、先天異常は自然妊娠で生まれた子どもでも人工授精で生まれた子どもでも約2〜4%にみられ、人工授精によってそのリスクは高まらないとしています6)。人工授精は、洗浄した精子を子宮の中に届けるだけの治療で、その後の受精や着床は自然妊娠と同じように体の中で起こるためです。

なお、複数の研究をまとめた2016年の解析では、人工授精で生まれた子どもの先天異常の割合が、自然妊娠と比べて約1.2倍だったとする結果も報告されています7)。ただし、この解析に含まれた研究は数が限られ、方法や質にもばらつきがあります。また、人工授精を受ける方はもともと妊娠しにくさを抱えていることが多く、治療そのものではなく、不妊の背景にある体の状態が結果に影響している可能性もあります。こうした点から、人工授精そのものがリスクを高めているとは言えません。

一方、ダウン症などの染色体の異常は、治療の方法にかかわらず、母親の年齢が上がるにつれて起こりやすくなることがわかっています。

Q:人工授精だと流産の確率は高くなる?

A:年齢などの影響を考慮した研究では、人工授精で妊娠した場合と、治療をせずに妊娠した場合で、妊娠初期の流産リスクに差は認められなかったという報告があります8)。

妊娠初期の流産の主な原因は、受精卵の染色体異常です。流産の確率には母親の年齢も関係しており、年齢が上がるにつれて高くなる傾向があります。

Q:二人目の妊活でも人工授精の妊娠確率は変わらない?

A:一人目を妊娠できた場合でも、二人目の妊活で同じ妊娠率が見込めるとは限りません。人工授精の妊娠率は自然妊娠の確率と同様に年齢の影響を受けるため、一人目のときより年齢が上がっている分、確率が下がる可能性があります。

また、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が妊娠に影響する場合や、授乳にともなうホルモンの影響で排卵の再開が遅れる場合もあります。

二人目がなかなか妊娠しない場合は、一人目のときの治療歴に加え、現在の年齢や体の状態をふまえて医師に相談することが大切です。

Q:子宮内膜症や卵管閉塞は、人工授精の妊娠確率に影響する?

A:子宮内膜症や卵管閉塞などの疾患は、人工授精の妊娠率に影響することがあります。

人工授精は、少なくとも片側の卵管が通っていることを確認したうえで行う治療です。片側の卵管が詰まっていても、もう一方が通っていれば人工授精を行うことができます。

しかし、両側の卵管が詰まっている場合は、人工授精を行っても卵子と精子が出会えないため、体外受精が検討されます。

また、中等度から重度の子宮内膜症や、重度の卵管障害がある場合は、人工授精の妊娠効果は期待しにくいとされています。

疾患の程度によって適した治療は変わるため、主治医と話し合いながら方針を決めていきましょう。

院長からのメッセージ

「人工授精の妊娠率は1回あたり5〜10%です」とお伝えすると、「そんなに低いのですか」と驚かれる方が少なくありません。ただ、この数字は、なかなか妊娠に至らない方を対象にした治療の成績です。人工授精が手助けするのは精子を子宮の中に届けるところまでで、その先の受精や着床は体の中で起こります。1回で結果が出なくても、それだけで治療が合っていないということにはなりません。

一方で、人工授精には、回数を重ねるほど妊娠する方が増えるという面と、ある回数を超えると効果が頭打ちになるという面の両方があります。当院では、35歳未満で不妊期間が1年未満の方は6回程度まで、それ以外の方は3〜6回程度を目安にしています。38歳以上の方や、35〜37歳で不妊期間が1年以上の方には、早めに体外受精を検討することをお勧めしています。

ただし、これはあくまで目安です。卵管や精子の状態、卵巣の予備能によっては、最初から体外受精をお勧めすることもありますし、お二人のご希望をうかがったうえで、もう少し人工授精を続けることもあります。

大切なのは、何回まで続けるかを、始める時点でお二人で相談してある程度決めておくことです。「次こそは」と回数を重ねるうちに時間だけが過ぎてしまうことは、できるだけ避けたいと考えています。治療の区切りについても、遠慮なくご相談ください。

参考文献

1)日本生殖医学会. 生殖医療Q&A Q10:人工授精とはどういう治療ですか?. 日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa10.html

2)Custers IM, Steures P, Hompes P, et al. Intrauterine insemination: how many cycles should we perform? Hum Reprod. 2008;23:885-888.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18263638/

3)Dovey S, Sneeringer RM, Penzias AS. Clomiphene citrate and intrauterine insemination: analysis of more than 4100 cycles. Fertil Steril. 2008;90(6):2281-2286.
https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2007.10.057

4)日本生殖医学会. 生殖医療Q&A Q8:不妊症の治療にはどんな方法があり、どのように行うのですか?. 日本生殖医学会ウェブサイト.
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa08.html

5)Agarwal A, Gupta S, Du Plessis S, et al. Abstinence Time and Its Impact on Basic and Advanced Semen Parameters. Urology. 2016;94:102-110.
https://doi.org/10.1016/j.urology.2016.03.059

6)American Society for Reproductive Medicine(米国生殖医学会). Intrauterine Insemination (IUI)(子宮内人工授精). ReproductiveFacts.org.
https://www.reproductivefacts.org/news-and-publications/fact-sheets-and-infographics/intrauterine-insemination-iui/

7)Chaabane S, Sheehy O, Monnier P, et al. Ovarian Stimulation, Intrauterine Insemination, Multiple Pregnancy and Major Congenital Malformations: A Systematic Review and Meta-Analysis- The ART_Rev Study. Curr Drug Saf. 2016;11(3):222-261.
https://www.eurekaselect.com/article/76839

8)Brandes M, Verzijden JC, Hamilton CJ, et al. Is the fertility treatment itself a risk factor for early pregnancy loss? Reprod Biomed Online. 2011;22(2):192-199.
https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2010.10.013