排卵誘発剤はなぜ必要?注射や内服の種類と副作用やリスク、治療の進め方を解説
排卵誘発剤を処方されると、「副作用が心配」「本当に必要なの」「赤ちゃんに影響はないの」と不安を感じる方は少なくありません。
排卵誘発剤は、不妊治療において排卵を助け妊娠の可能性を高める重要な役割を果たします。ただし薬である以上使用に際して注意すべき点もあるため、メリットだけでなくリスクも理解することが大切です。
この記事では、不妊治療における排卵誘発剤の役割やリスク、治療の進め方について解説します。
妊娠に向けてなぜ排卵誘発剤が必要なの?
排卵誘発剤を使う目的として、以下のように分類されます。
・卵胞の発育を助け、排卵の時期を整える
・採卵に向けて多くの卵子を育てる
タイミング法や人工授精などの一般不妊治療では、「卵子・卵胞の発育を助け、排卵の時期を整える」目的で使われることも多くなります。自然では卵子が育ちにくく排卵しづらい場合に、排卵誘発剤によって卵子を十分に育てたのち、最適な時期に性交渉や人工授精を行うことで妊娠率向上を目指します。
一方、体外受精(c-IVF)や顕微授精(ICSI)の生殖補助医療(ART)では、「採卵に向けて多くの卵子を育てる」目的が主となります。体外受精や顕微授精では、一度の採卵(卵巣から卵子を取り出す処置)で数個から10個前後の卵子を得るために排卵誘発剤を使います。採卵数を増やすことで、妊娠につながる胚を得られる可能性が高まるだけでなく、凍結保存し次の周期に移植する胚も確保することが可能となります。
自然排卵との違い
自然排卵は、脳から分泌されたホルモンが卵巣を刺激することで起こります。卵胞の育ち具合や排卵時期は周期によって前後することもあり、排卵日の予測が難しいケースは少なくありません。
排卵誘発ではこのホルモンの働きを薬によって補います。薬の作用により、卵胞の発育を助けながら排卵のタイミングを整えることが可能となります。
排卵誘発剤が直接的に卵子の質を低下させるという明確な根拠はありません。薬が行うのはあくまでホルモンを補い排卵を助けることです。
ただし薬である以上、副作用リスクも伴います。必ず起こるものではありませんが、納得して不妊治療を受けるためには、体への負担や起こりうるリスクも把握することが大切です。
排卵誘発剤の種類:内服薬と注射薬について
排卵誘発剤には内服薬と注射薬があり、作用する場所や作用の仕方が異なるものがあります。
内服薬は、脳に働きかけ卵胞の発育や排卵に必要なホルモン分泌を促します。一方、注射薬は主に卵胞の発育や排卵を直接促すホルモンが作用します。
主な内服薬と注射薬の違いは以下のとおりです。
タイミング法や人工授精などの一般不妊治療では、内服薬から開始することが多く、以下のようなタイミングで内服薬から注射薬への切り替えが検討されます。
- 内服薬を使用しても、卵胞が十分に育たない場合
- 排卵が得られても妊娠に至らない場合
- 治療をステップアップするタイミングと判断された場合
一方、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療では、最初から注射薬を使う前提でスケジュールを組むことも少なくありません。どのような薬を使って治療を進めるかは医療機関からの説明を確認し、自身の希望と合った方法を相談しながら選択しましょう。
排卵誘発剤を使わずに妊娠を目指す方法もある?
タイミング法や人工授精では、排卵が規則的に起こっていれば、基本的に排卵誘発剤を使わずに行います。体外受精でも、薬を使用せず本来の月経周期で育った卵子を採卵する「自然周期法」という選択肢があります。
一方、排卵障害がある場合や妊娠の可能性を高めたい場合には、排卵誘発剤の使用が奨められることがあります。生殖補助医療では、採卵回数を減らし、採卵による体や通院負担を抑えるためにも排卵誘発治療が検討されます。
ただし不妊治療は、気持ちの面を優先することも大切です。薬に抵抗がある場合、まずは自然な排卵で妊娠を目指したり、薬の量を抑えたりする方法もあります。
体の状態や年齢、リスクなど懸念点も踏まえ、医師とともに納得できる治療方針を見つけていくことが重要です。
排卵誘発剤の副作用や注意点
排卵誘発は、卵胞の発育や排卵を助けることで妊娠の可能性を高められる治療ですが、使用にあたっては理解しておきたい注意点もあります。
とくに重大な副作用リスクがあるため、受診すべき体調変化の目安は十分に把握しておきましょう。
双子や三つ子など多胎妊娠のリスク
タイミング法や人工授精などの一般不妊治療では排卵誘発剤の使用により、双子や三つ子など多胎妊娠の可能性が高まることが知られています。
通常の自然周期では育った卵子のうち1個だけが排卵されるよう、体内で調整されています。排卵誘発剤を使用するとその調整が効きづらくなり、沢山の卵胞が育って排卵されてしまう可能性が高くなり、多胎妊娠の確率が通常より非常に高くなります。
双胎妊娠では単胎と比べて早産・低出生体重・周産期死亡のリスクが大幅に高まることが複数の研究で示されており、お母さんだけでなく胎児にも大きなリスクを生じます。このため、超音波検査で卵胞の発育が過剰と判断された場合には、その周期の治療を見送ったり治療方針の変更が必要となります。
一方で、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療では、一般的に受精卵(胚)のうちの1個のみを子宮に戻すため、排卵誘発剤による多胎妊娠のリスクは当てはまらないと考えられています。
不妊治療の双子の確率については、以下の記事で詳しくまとめているので合わせてご覧ください。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスク
排卵誘発剤を使用中に注意したいリスクとして、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。OHSSは、排卵誘発剤の影響で多量の卵胞が発育することで卵巣が腫れたり、過剰なホルモン等の作用によってお腹や胸に水がたまるなどの症状が現れる状態です。
重症化すると、腎臓に障害が起こったり血栓ができやすくなったりするなど合併症につながるおそれがあるため、早期に気づき適切に対応することが重要です。
重症例の頻度は排卵誘発周期あたり1〜2%程度とされており、多くは軽症で自然に回復します
以下の症状があらわれた場合は、速やかに医師へ相談してください。
<受診の目安となる症状>
- お腹が張る・ふくらむ
- お腹が痛い
- 吐き気がする
- 息苦しい
- 尿量が少なくなる
- 急激に体重が増えた
とくに多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方やAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が高い方では発症リスクが高いとされています。自分が該当するのか不安な場合は、治療開始前に主治医に確認しておきましょう。
排卵誘発による治療中は、医師が超音波検査などにより卵巣の状態を慎重に観察しますが、気になる症状があれば次の予約を待たず医療機関に相談してください。
そのほか起こりうる体調変化
排卵誘発剤の使用中は、頭痛や吐き気、気分の変化など、一時的に体調変化があらわれることがあります。
<排卵誘発剤で起こりうる主な症状>
- 消化器症状:吐き気・食欲不振・腹部の張り・下痢など
- 精神症状:気分の変化・いらいら・不眠など
- 身体症状:頭痛・だるさ・ほてりなど
- 注射部位の反応:痛み・しこり・赤みなど(注射薬の場合)
軽度で一時的なケースが多いものの、症状の出方や続く期間には個人差があります。
日常生活に支障をきたすほどつらい場合、まずは医師に相談しましょう。医師の判断で用量の調整や別の薬への切り替えが検討されることもありますが、自己判断では中止や減量しないでください。
排卵誘発剤を使っても妊娠しないときはどうなる?
排卵誘発剤を使ったタイミング法や人工授精で妊娠に至らない場合は、3〜6周期を区切りとして薬の変更や治療のステップアップが検討されます。
確実に排卵しているのに妊娠しない場合は、受精や着床など排卵以外の過程に原因がある可能性もあるためです。統計的にも、同じ治療を続けても妊娠率は伸びにくい傾向があります1)。
治療の変更タイミングは、年齢や卵巣の状態などによっても異なります。とくに年齢が35歳以上の方や不妊期間が長い方は、早めに次のステップが推奨されることもあります。
排卵誘発剤に関するよくある質問
排卵誘発剤に関するよくある質問に回答します。
排卵誘発剤を使うと生まれる赤ちゃんに影響はありますか?
排卵誘発剤の使用そのものが、赤ちゃんの障害や発達に直接悪影響を及ぼすという直接的な根拠はありません。
単胎児に限定した場合、自然妊娠で生まれた子と不妊治療(排卵誘発治療を含む)で生まれた子で、発達に差は認められなかったとする報告もあります2)。
ただし、排卵誘発剤の使用により多胎妊娠となった場合には、早産や低出生体重のリスクが大幅に高まります。これらは赤ちゃんの発育に影響する要因のひとつとされています。
排卵誘発剤が直接赤ちゃんの障害・発達リスクを上げるわけではありませんが、多胎妊娠が起こる可能性については主治医と相談しながら治療を進めることが大切です。
排卵誘発剤を使うと太りますか?
排卵誘発剤に脂肪そのものを増やす作用はなく、排卵誘発剤で肥満になることはありません。
ただし、ホルモンバランスの変化により体に水分がたまりやすくなり「太った」と感じる方もいます。黄体ホルモン薬も補充する場合は、その影響でむくみやすくなることもあります。しかしこれは一時的な変化であり1~2週間で改善します。
あまりにも急激に体重が増える場合は、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の兆候であるおそれもあります。「短期間で大幅に体重が増えた」「むくみがひどい」といった場合は医師に相談してください。
タイミング法で排卵誘発剤を使っても妊娠しないケースはありますか?
排卵誘発剤を用いても、必ず妊娠につながるとは限りません。妊娠が成立するためには、排卵の有無だけでなく卵管や子宮の状態、そして精子の状態なども関わります。
卵管が詰まっていると精子が卵子までたどり着けず、子宮内膜に異常があれば着床がうまくいかないこともあります。精子の数や動きなど、男性側に原因があるケースも少なくありません。
医療機関では、これらの要因を確認しながら治療方針を検討します。原因が特定できない場合や、タイミング法で妊娠に至らない場合でも、人工授精など次のステップへ進むことで妊娠できる可能性があります。治療の方向性は、主治医と一緒に考えていきましょう。
院長からのメッセージ
「排卵誘発剤を使うと体に負担がかかるのでは」「自然のほうが赤ちゃんに良いのでは」という不安は、患者さんから本当によく聞きます。その気持ちはとてもよく理解できますし、安易な薬の使用は私自身も好みません。
まず少し整理すると、排卵誘発剤が行うのはホルモンの働きを補うことです。排卵が不安定な方には排卵を助け、体外受精では複数の卵子を育てるために使います。薬が卵子の質を直接下げるという根拠はありません。
一方で、薬である以上リスクはあります。タイミングや人工授精で最も注意が必要なのは多胎妊娠です。自然排卵であれば1つずつに調整されている排卵が、薬を使うことで2つ3つと増えてしまい、双子や三つ子などのリスクとなります。「2人くらい子供が欲しいから双子がいいです」と言われることもあるのですが、双子の周産期リスクは5〜10倍になると報告されているため、双子以上のリスクが高い場合には治療をキャンセルする必要があります。そのため、薬を使うべきか否かについては慎重な判断を要するのです。
そして体外受精の排卵誘発で注意が必要なのがOHSSです。お腹の膨らみ・急激な体重増加・尿量の減少といった症状が出たときは、次の予約を待たずに連絡してください。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方やAMHが高い方はリスクが高いため、治療前に担当医に確認しておくと安心です。
排卵誘発剤を使っても妊娠しない場合は、排卵以外の部分に原因がある可能性があります。卵管・着床・精子の問題など、確認すべき要因はほかにもあります。同じ方法を長く続けるよりも、一定の期間を区切って次のステップを検討することが、結果的に妊娠への近道になることがあります。
不安なことや疑問があれば、処方された薬の目的から確認させてもらいます。「なぜこの薬なのか」を理解してから治療を受けるほうが、精神的な負担も少なくなります。
参考文献
1)一般社団法人日本生殖医学会. Q8.不妊症の治療にはどんな方法があり、どのように行うのですか?. 日本生殖医学会ウェブサイト.
日本産科婦人科学会.不妊症.日本産科婦人科学会ウェブサイト.
標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究. 患者さんのための生殖医療ガイドライン. 令和4年度厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業; 2023.
あすか製薬株式会社.ゴナドトロピン注用5000単位添付文書.
厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS). 厚生労働省ウェブサイト.


