黄体機能不全という言葉を聞いて、「妊娠しにくいのでは」「流産しやすいのでは」と不安になった方もいるのではないでしょうか。基礎体温をつけているなかで高温期が短いことに気づき、気になっている方もいるかもしれません。
黄体機能不全は、排卵後にできる黄体の働きが十分でない状態を指します。妊娠に関わるプロゲステロンが不足することで、妊娠しにくくなったり、妊娠を維持できなかったりするのではないかと考えられてきました。
一方で、黄体機能不全を確実に見分ける検査は今のところなく、基礎体温やプロゲステロンの値だけで判断することはできません。また、黄体機能不全そのものが不妊や流産を引き起こしているとも、証明されていません。
この記事では、黄体機能不全の考え方や妊娠への影響、原因となり得る病気・状態、検査方法、治療について詳しく解説します。
黄体機能不全とは?現時点では診断方法が確立していない
黄体機能不全とは、排卵後に卵胞から変化してできる黄体が分泌するプロゲステロン(黄体ホルモン)の量が不足したり、分泌される期間が短かったりする状態を指します。プロゲステロンは十分に出ていても、子宮内膜がうまく反応しない場合も含めて考えられています。
プロゲステロンには子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に整える働きがあるため、この働きが不十分だと妊娠に影響するのではないかと考えられてきました。
米国生殖医学会(ASRM)は、黄体期(排卵から次の月経までの期間。基礎体温では高温期にあたります)が10日以下の場合を黄体機能不全の目安のひとつとしています。ただし、妊娠に問題のない女性でも黄体期が短い周期は珍しくなく、黄体期が短いことが長い目で見て妊娠のしやすさを下げるとは限らないことも報告されています1)。
上記のような点もあり、黄体機能不全を確実に診断する方法は、現時点では確立していません。以前は基礎体温の高温期が短いことや、血液中のプロゲステロン値が低いことなどから判断されていました。しかし、プロゲステロンは数時間のうちに値が大きく上下するため、採血した時間によって結果が変わります。そのため、1回の測定値だけで黄体機能を評価するのは難しいとされています。
さらに、黄体機能不全そのものが不妊(流産)を引き起こしているとは証明されておらず、治療の有効性も確立していない、というのが米国生殖医学会の見解です1)。
黄体機能不全の自覚症状はある?
黄体機能不全には、はっきりとした自覚症状がないことがほとんどです。気づくきっかけとしては、次のようなものがあります。
- 基礎体温の高温期が短い(10日以下)
- 月経周期が短い(24日以内で次の月経が来る「頻発月経」)
- 妊活をしているが、なかなか妊娠しない
高温期が短くなると、排卵から次の月経までの期間が短くなるため、月経周期も短くなります。ただし、こうした変化は黄体機能不全以外の原因でも起こり、妊娠に問題のない方でもみられることがあります。気になる変化が何周期も続く場合は、医療機関で相談してください。
黄体機能不全でも妊娠できる?妊娠継続への影響は?
黄体機能不全が疑われる場合でも、妊娠・出産に至る方は多くいます。
妊娠に問題のない女性でも、周期によって黄体の働きが弱く見えることは珍しくありません。黄体期が短い周期があっても、1年単位で見ると妊娠のしやすさは下がらなかったという報告もあります2)。
妊娠の継続については、胎盤が十分に育つまでの間、黄体から分泌されるプロゲステロンが妊娠の維持に欠かせないことがわかっています。ただし、先述のとおり黄体機能不全そのものが不妊(流産)を引き起こしているかどうかは、現時点では証明されていません。
原因がはっきりしない流産を3回以上経験した方を対象にした大規模な研究では、妊娠がわかってからプロゲステロンを補っても、出産に至る割合は変わりませんでした3)。一方、妊娠初期に出血があった方を対象にした別の大規模な研究では、全体では差がなかったものの、過去に流産を経験している方に限ると、補充によって出産に至る割合が高くなる傾向がみられました4)。どのような方に補充が役立つのかは、まだ研究が続いている段階です。
甲状腺の病気や高プロラクチン血症など、黄体の働きに影響する病気が見つかった場合は、その病気を治療することで妊娠につながることがあります。基礎体温だけで判断せず、妊娠を希望している方や流産を経験した方は、医療機関に相談しましょう。
黄体機能不全が疑われる場合の原因
黄体機能不全は、主に以下のような要因で起こる可能性が考えられています。
- 黄体から分泌されるホルモンが不足している
- 子宮内膜がプロゲステロンに十分に反応しない
さらにこうした状態が生じる背景の例として、以下のようなさまざまな病気や状態が関わると考えられます。
他にも、肥満・大きな体重減少・摂食障害・ストレスなどが黄体機能不全と関連する可能性が指摘されています。黄体機能不全が疑われる場合は、原因となりうる背景を確認することが大切です。
黄体機能不全ではどのような検査をする?
先述のとおり、黄体機能不全を確実に診断できる検査は、現時点ではありません。
これまで基礎体温、血液中のプロゲステロン値、子宮内膜の組織検査などが提案されてきました。しかし、いずれも妊娠しやすい人とそうでない人を必ずしも見分けられないことがわかっています。そのため、黄体機能不全が疑われる場合の検査は、排卵が起きているか、黄体の働きに影響する病気がないかを確認することが主な目的になります。
プロゲステロン値は短時間で大きく変動し、正常な黄体の働きを示す基準値も決まっていません。そのため、1回の採血で低い値が出ても、それだけで黄体機能不全とは判断できません。国内でも、排卵後1週間ごろ(黄体期中期)にプロゲステロン値を測る意義については、近年否定的な見方が示されています5)。どの検査を行うかは、年齢や妊活の期間なども踏まえて、医師と相談しながら決めていきます。
黄体機能不全が疑われる場合の治療
黄体機能不全が疑われる場合は、背景にある原因や妊娠希望の有無に応じて治療方針を考えます。背景に甲状腺機能の異常や高プロラクチン血症などの病気がある場合は、その治療も検討します。不妊の原因は一つとは限らないため、どのように治療を進めるかは、検査結果や年齢、妊活の経過などを含めて判断されます。
妊娠を希望してタイミング法や人工授精などの一般不妊治療を受ける場合は、黄体機能不全が疑われるときなどに、黄体ホルモン製剤で補う治療や、卵胞の発育を促して黄体の働きを整えることを目指す排卵誘発が検討されることがあります。ただし、黄体機能不全そのものに対する治療効果は確立していません。
一方、体外受精などの生殖補助医療では、採卵や排卵誘発剤の影響などで黄体の働きが低下することがあるため、着床しやすい状態を整えて妊娠の継続を支える目的で、黄体ホルモン補充が一般的に行われます。
いずれの治療も、検査結果や、妊娠を希望する時期などの今後のライフプランもふまえて、医師と相談しながら進めましょう。
黄体機能不全に関してよくある質問
ここでは、黄体機能不全についてよく寄せられる質問に回答します。
Q:黄体機能不全に急になることはある?
A:ストレスや急な体重減少、激しい運動などをきっかけに、黄体の働きが一時的に低下することがあると考えられています。ただし、規則的に月経がある方でも、黄体期の長さやプロゲステロン値は周期ごとに変動するため、1回高温期が短かったからといって、すぐに黄体機能不全とは限りません。
規則的に月経がある女性を最大2周期観察した研究では、黄体期が10日未満の周期は全体の8.9%にみられましたが、2周期続けて短かった方は3.4%にとどまりました6)。
高温期が短い周期や、月経周期が短い状態が続く場合は、排卵障害や甲状腺・プロラクチンの異常などが影響していないか、医療機関へ相談しましょう。妊娠を希望しているものの、なかなか妊娠に至らない場合も相談を検討してください。
Q:食事や生活習慣でプロゲステロンを増やせる?
A:食事や生活習慣だけで、プロゲステロンの分泌量を大きく増やすことは難しいとされています。ただし、食事や運動、睡眠などの生活習慣を整えることは、ホルモンが本来の働きをしやすい状態を保つことにつながります。
特に、体重の大きな変化や過度な運動、ストレスなどは、排卵や黄体の働きに影響することがあります。適正な体重を保つ、運動量と食事量のバランスを整える、ストレスをためないといった点を意識しましょう。
月経周期の乱れや妊娠のしにくさが気になる場合は、医師に相談しましょう。
女性ホルモンに関するセルフケアや治療法については、以下の記事で詳しく解説しています。
院長からのメッセージ
「高温期が短いので、黄体機能不全ではないでしょうか」というご相談をよくいただきます。基礎体温を丁寧につけている方ほど、グラフの小さな変化が気になるものだと思います。
ただ、黄体機能不全は、医学的にも扱いの難しい病態です。黄体機能不全であると確実に診断する方法はまだなく、それ自体が不妊や流産を引き起こしているとも証明されていません。妊娠に問題のない方でも高温期が短い周期はよくあり、1年単位で見ると妊娠のしやすさは変わらなかったという研究もあります。一度グラフが短かったからといって、「妊娠しにくい体なのだ」と思い詰める必要はありません。
一方で、高温期が短い周期や月経周期の乱れが、何周期も続く場合は、その背景を調べる意味があります。プロラクチンというホルモンが高い、甲状腺の働きが弱いといったことは血液検査でわかり、治療によって排卵の状態が整うことがあります。大切なのは「黄体機能不全」という名前そのものより、その奥に治療できる原因が隠れていないかを確かめることです。
なお、体外受精では、採卵や薬の影響で黄体の働きが弱まりやすいため、黄体ホルモンを補うのが一般的です。これは「黄体機能不全だから」ではなく、治療の一部として行うものです。
気になる方は、基礎体温の記録を持って一度ご相談ください。記録をどう読むかを、一緒に確認していきましょう。
参考文献
1)Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Diagnosis and treatment of luteal phase deficiency: a Committee Opinion. Fertil Steril. 2026;126(4):633-639.
https://www.asrm.org/practice-guidance/practice-committee-documents/diagnosis-and-treatment-of-luteal-phase-deciency-a-committee-opinion/
2)Crawford NM, Pritchard DA, Herring AH, Steiner AZ. Prospective evaluation of luteal phase length and natural fertility. Fertil Steril. 2017 Mar;107(3):749-755.
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(16)63022-4/fulltext
3)Coomarasamy A, Williams H, Truchanowicz E, Seed PT, Small R, Quenby S, Gupta P, Dawood F, Koot YE, Bender Atik R, Bloemenkamp KW, Brady R, Briley AL, Cavallaro R, Cheong YC, Chu JJ, Eapen A, Ewies A, Hoek A, Kaaijk EM, Koks CA, Li TC, MacLean M, Mol BW, Moore J, Ross JA, Sharpe L, Stewart J, Vaithilingam N, Farquharson RG, Kilby MD, Khalaf Y, Goddijn M, Regan L, Rai R. A Randomized Trial of Progesterone in Women with Recurrent Miscarriages. N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2141-8.
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1504927
4)Coomarasamy A, et al. A Randomized Trial of Progesterone in Women with Bleeding in Early Pregnancy. N Engl J Med. 2019;380(19):1815-1824.
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1813730
5)日本産婦人科医会. 3.内分泌異常. 日本産婦人科医会ウェブサイト
https://www.jaog.or.jp/note/3.内分泌異常/
6)Schliep KC, Mumford SL, Hammoud AO, et al. Luteal phase deficiency in regularly menstruating women: prevalence and overlap in identification based on clinical and biochemical diagnostic criteria. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99(6):E1007-E1014.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4037737/








