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最終更新日:
2026-10-27

精液検査で精子の運動率が低いと言われ、「運動率が何%あれば人工授精ができるのか」「このまま人工授精を続けて妊娠できるのか」と不安を感じている方もいるかもしれません。

人工授精を受けるための精子の運動率に、一律の最低ラインはありません。人工授精を検討する際は、運動率の数値に加えて、精子の数や女性の年齢、これまでの治療経過なども考慮します。

この記事では、人工授精の適応となるケースや精液検査の結果の見方、精子の運動率が低い場合の対応、精子の状態を整えるための生活習慣について解説します。

人工授精ができる精子の運動率の最低ラインは定められていない

人工授精を受けるための精子の運動率に、一律の最低ラインは定められていません。運動率が低いことも人工授精の適応となる要因のひとつですが、適しているかどうかは運動率だけでは判断できません。

人工授精では、精液を洗浄・調整して運動している精子を集めてから子宮内に注入します。そのため、精液検査で運動率が低くても、洗浄・調整によって十分な数の運動精子を集められれば、人工授精で妊娠を目指せることがあります。

一方で、洗浄・調整前に得られる運動精子の総数(調整前の総運動精子数)が500万〜1,000万を下回ると妊娠率が大きく下がるため、体外受精への移行が推奨されています1)。ただし、この数値だけで判断するのではなく、女性の年齢や卵管の状態なども踏まえて治療方針を考えます。

精液の状態は体調や検査の時期によって変わるため、1回の検査結果では判断できません。複数回の検査結果をもとに、医師と相談しながら治療方針を検討しましょう。

人工授精が適応になるケース

人工授精の適応となるのは、主に次のようなケースです。

  • 精子の数が少ない
  • 精子の運動率が低い
  • 性交渉や腟内での射精が難しい
  • 子宮の入り口(頸管)の粘液量や状態が原因で、精子が子宮内に進みにくい

人工授精は、洗浄・濃縮した運動性のよい精子を、排卵のタイミングに合わせて子宮内に直接注入する治療法です。濃縮した運動精子を、子宮の入り口を通過せずに卵管に近い場所へ届けられるため、上記のケースでも妊娠を目指しやすくなります。先述のとおり、運動率そのものに一律の最低ラインがあるわけではありません。運動率が低い場合でも、洗浄後に集められる運動精子の数や女性の年齢などを踏まえて、人工授精を行うか、体外受精などほかの治療法を選ぶかを判断します。

なお、人工授精で精子を届けられるのは子宮内までです。その先は精子が自力で卵管まで進み、卵子と出会って受精する必要があるため、洗浄・濃縮後に得られる運動精子がごく少ない場合は、体外受精も検討します。

精子の運動率の基準値は?精液検査の結果の見方

精液検査では、運動率を「総運動率」と「前進運動率」の2つの指標で評価します。総運動率は精子全体のうち動いている精子の割合、前進運動率は精子全体のうち前へ進んでいる精子の割合です。

運動率を含む精液検査の基準値は、以下のとおりです2)。

検査項目 基準値
精液量 1.4mL以上
精子濃度 1,600万/mL以上
総精子数 3,900万/射精以上
総運動率 42%以上
前進運動率 30%以上
正常形態率 4%以上
精子生存率 54%以上

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これらの値は、パートナーが12か月以内に自然妊娠した男性の検査結果のうち、下位5%にあたる値です。妊娠できるかどうかの境目を示すものではなく、基準値を下回っていても自然妊娠に至る場合があります。

検査結果を見る際は、記載されているのが総運動率か前進運動率かを確認し、それぞれの基準値と比べましょう。

また、運動率は精液量や精子濃度とあわせて見ることが大切です。この3つを組み合わせた指標が「総運動精子数(精液量×精子濃度×運動率)」で、1回の射精に含まれる運動している精子の総数を表します。

そのため、運動率が低くても、精液量や精子濃度によっては総運動精子数が保たれていることがあります。

精子の運動率については、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

精子の運動率が低い場合はどうする?

精子の運動率が低い場合は、検査結果やこれまでの治療経過に応じて、以下のような対応を検討します。

  • 再検査を受ける
  • 運動率が低い原因を調べる
  • 不妊治療(人工授精・体外受精など)の進め方を検討する

一般的には、まず再検査を行い、その検査結果に合わせて運動率が低い原因を調べたり、不妊治療の進め方を検討したりします。

どの対応が必要かは、精液検査の結果や女性の年齢などによって変わるため、医師と相談しながら進めていきましょう。

再検査を受ける

精子の運動率が低い結果が出たら、まずは再度精液検査を受けることが推奨されます。精液検査の結果は同じ人でも時期や体調によって変わるため、1回の結果だけでなく、2回以上の結果をもとに判断することが大切です。

精液検査には以下のような注意点があります。

  • 禁欲期間は2〜7日を目安にする
  • 採取してからできるだけ早く提出する(例:2時間以内など、施設の基準に従う)
    • WHOのマニュアルでは、自宅で採取した場合は30分以内、遅くとも50分以内が目安
  • 自宅で採取する場合は、運搬中の温度を20〜37℃(室温〜体温程度)に保つ

なお、禁欲期間や提出までの時間、院内での採取の可否は医療機関によって異なるため、検査を受ける医療機関の案内に従いましょう。

再検査でも運動率が低い場合は、ほかの項目の結果も踏まえ、原因を詳しく調べたり、不妊治療の進め方を検討したりします。

精子の運動率が低い原因を調べる

再検査でも精液検査の結果が基準値を下回った場合は、精液検査のほかの項目の結果などに応じて追加の検査を行います。男性不妊の原因や精子の状態を詳しく調べる検査には、以下のようなものがあります。

検査 内容
陰嚢超音波検査 ・精巣の大きさや内部、周りの血管の状態を調べる
・精索静脈瘤の診断に用いられることが多い
ホルモン検査(血液検査) ・精子づくりに関わるホルモン(FSH・LH・テストステロン)の値を調べる
・精子の数が少ない場合などに検討される
遺伝子・染色体検査(血液検査) ・精子をつくる機能に影響する、生まれつきの染色体や遺伝子の異常を調べる
・無精子症や、精子の数が極めて少ない場合などに検討される
精子DNA断片化指数(DFI)検査 ・精子のDNAが傷ついている度合いを調べる
・精子の数や運動率に大きな異常がないのに妊娠に至らない場合などに検討される

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検査で原因が見つかった場合は、手術や薬など、原因に応じた治療も選択肢となります。たとえば、男性不妊の原因として多い精索静脈瘤では、手術によって精子の状態が良くなることがあります。

原因を詳しく調べることで、治療で精子の状態の改善を目指せるのか、人工授精や体外受精を選ぶほうがよいのかを判断しやすくなります。

男性不妊の検査については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

不妊治療(人工授精・体外受精など)の進め方を検討する

妊娠を目指す場合は、精子の数や女性側の検査結果などに応じて、人工授精や体外受精が選択肢になります。

運動率が低くても人工授精で妊娠を目指せる場合はありますが、精子の数や運動率が著しく低い場合などは、はじめから体外受精を検討することもあります。

すでに人工授精を受けている場合は、3〜6回程度を目安に、妊娠に至らなければ体外受精へのステップアップを検討します。女性の年齢や不妊の期間、精子の状態によっては、より早い段階での移行を検討することもあります。

精子の状態を整えるために見直したい生活習慣

精子の運動率を含め、精子の状態を整えるために見直したい主な生活習慣は、以下のとおりです。

取り組み ポイント
食生活を見直す ・特定の食品に頼らず、栄養バランスのよい食事を続ける
適度な運動と休養をとる ・軽めの有酸素運動を習慣にし、激しすぎるトレーニングは避ける
・睡眠不足やストレスが続くと、精子の質に影響することがある
禁煙・節酒をする ・喫煙は精子の運動率を低下させる
・過度な飲酒も精子の質に悪影響を及ぼす可能性がある
精巣を温めすぎない ・長時間のサウナや熱いお風呂、膝の上でのノートパソコンの使用などを控える
定期的に射精する ・禁欲期間が長すぎると、精子の運動能力が低下する可能性がある

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精子は約74日かけてつくられるため、生活習慣を見直した効果が精子の状態に表れるのに、数か月かかる場合があります。すぐに結果が出なくても焦らず続けていきましょう。

男性の妊活については、以下の記事でも解説しています。あわせてご覧ください。

人工授精と精子の運動率に関してよくある質問

人工授精と精子の運動率に関して、よくある質問についてお答えします。

Q:精子の運動率が基準を下回っていても自然妊娠を目指せますか?

A:精子の運動率が基準値を下回っていても、自然妊娠できる可能性はあります。精液検査の基準値は、パートナーが12か月以内に自然妊娠した男性の下位5%にあたる値のため、これを下回っていても自然妊娠に至る方はいます。

ただし、運動率が基準値を大きく下回っている場合や、精子の数などほかの項目も低い場合は、自然妊娠が難しくなる可能性があります。そのため、検査結果をもとに医師と相談しながら、不妊治療の選択肢も含め今後の妊活の進め方を考えていきましょう。

院長からのメッセージ

精液検査の結果を見て、「運動率が低いけれど、人工授精はできるのでしょうか」と相談されることがよくあります。運動率は人工授精を考えるうえで大切な指標ですが、運動率だけで人工授精ができるかどうかが決まるわけではありません。

当院では、精液の量や精子の濃度、運動率をかけ合わせた「総運動精子数」を重視しています。洗浄前の総運動精子数が500万以下の場合は、人工授精で妊娠に十分な数の精子を届けることが難しいため、体外受精や泌尿器科での詳しい検査をご提案しています。

精液の状態は体調や時期によって大きく変わります。1回の結果だけで判断せず、原則として1か月以上あけて2回検査を行い、その結果をもとに治療方針を考えます。数値が大きく基準を下回っているときは、男性不妊を専門とする泌尿器科の受診をおすすめすることもあります。

また、人工授精を続ける回数も大切なポイントです。女性の年齢や不妊の期間によっては、数回で体外受精を検討したほうがよい場合もあります。人工授精を続けるか迷ったときは、これまでの結果を振り返りながら、一緒に次の一歩を考えていきましょう。

精子は2か月以上かけてつくられるため、禁煙や睡眠など生活習慣の見直しは、すぐに結果が出なくても続けることに意味があります。ご夫婦で取り組んでいただければと思います。

参考文献

1)Ombelet W, Dhont N, Thijssen A, et al. Semen quality and prediction of IUI success in male subfertility: a systematic review. Reprod Biomed Online. 2014;28(3):300-309.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24456701/

2)World Health Organization. WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen. 6th ed. World Health Organization; 2021. p.213.
https://iris.who.int/server/api/core/bitstreams/4038e736-37b3-4064-a39a-60475e0ccecc/content