妊活をはじめたいと思ったとき、「男性は何から取り組めばいいのか」と迷う人は少なくありません。妊娠には男女双方の準備が重要であり、体づくりや生活習慣の見直し、妊娠の仕組みの理解、パートナーとの話し合い、必要な検査の確認など、押さえておきたいポイントは多くあります。
この記事では、男性が妊活でまず取り組むべき基本を整理し、今日から実践できる行動についてわかりやすく解説します。
不妊症の約5割は男性側に原因がある
WHO(世界保健機関)の調査によると、不妊症の原因が男性のみにある割合が24%、男女共に原因がある割合が24%と報告されており、約50%のケースで男性側に何らかの要因があることがわかっています。妊活は女性だけが行うものではなく、男性も検査を受け一緒に取り組んでいく必要があります。
男性側の主な不妊症の要因としては、以下のようなものがあります。
男性不妊について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
男性が妊活をはじめるときの基本
妊活には明確な定義はありませんが、男性の場合も「妊娠に向けて自分の体と生活を整える取り組み全般」を指します。タイミングを合わせて性交渉をとるだけでなく、精子の健康につながる生活習慣の見直し、体の状態を知るための検査、パートナーとの情報共有など、男性ができる妊活はさまざまあります。
ここでは、男性が妊活をはじめるときに押さえておきたいポイントをわかりやすく紹介します。
女性が押さえておきたいポイントは、以下の記事をごらんください。
パートナーと一緒に話し合う
妊活をスムーズに進めるうえで一番大切なことは、パートナーとのコミュニケーションです。妊活中は男女ともに心や体に変化が起きやすくなっています。お互いの気持ちや考えを共有し、同じ目標に向かって協力できるコミュニケーションをとりましょう。
以下のようなテーマで話し合う時間をつくってみてください。
- 本当に子どもが欲しいのか、何人欲しいのか
- 妊活に対するお互いの気持ち
- いつ頃から妊活を本格的にはじめたいか
- 検査を受けるならいつ頃にするか
食生活を見直す
精子の質を保つためには、特定の食品に頼るのではなく、全体的にバランスの良い食生活を続けることが大切です。近年の研究でも、健康的な食習慣が精子の健康に役立つ可能性が示されています。
ただし、個々の食品や栄養素が精子の質に影響したり妊娠率を明確に改善したりするという確実なエビデンスはまだありません。
以下で紹介する栄養素は、精子の健康に良い影響を与える可能性が研究で示されているものです。これらの摂取により妊娠率が必ず向上するわけではなく、あくまでバランスの良い食事全体が大切です。
一方、妊娠率の改善や精子の質との関係は明確にはなっていませんが、日々の健康を保つためにも摂取を控えめにしたい以下のような食品もあります。
- ソーセージやベーコンなどの加工肉
- 飽和脂肪酸が多い食品(バター、ラードなど)
- 砂糖の多い飲料・菓子
食事だけで栄養を補うのが難しい場合には、女性だけではなく男性も妊活向けのサプリメントを活用しましょう。
適度な運動と休養をとる
適度な運動は、精子に良い環境づくりにつながります。週3〜4回、1回30〜60分程度の軽めの有酸素運動を続けることで、精子の濃度や生存率、形が改善されることが示されている研究もあります1)。
一方、過度な運動は逆効果となる可能性があります。週10時間を超える激しいトレーニングは、体内の酸化ストレスを増加させ、精子のDNAにダメージを与える可能性があると報告されています。
また、睡眠不足も不妊につながる要因のひとつです。就寝前のスマートフォンの使用を控える、寝室の温度や照明を調整するなど、眠りやすい環境づくりを心がけましょう。
禁煙・節酒
喫煙と過度な飲酒も、精子の質を低下させる要因のひとつです。
タバコに含まれる有害物質は、精子の数を減らし、運動率や正常な形の精子の割合を低下させることにつながります。妊活をはじめるときは禁煙に取り組みましょう。
過度なアルコール摂取も、精子の質に悪影響を及ぼします。習慣的に飲み過ぎてしまう場合は、妊活を機に飲酒量の見直しも検討してください。
精巣をあたためすぎない
精子をつくる精巣は、熱に弱い性質を持っています。正常な機能を維持するには、精巣の温度を体温よりも低く保つ必要があるため、日常の習慣に気をつけることが大切です。
*)下着と座位に関しては大きな影響はないとする報告もあり、専門家の間でも意見が分かれています。
日々の暮らしのなかでの小さな心がけが、精子にとって快適な環境を保ちます。できることから意識して行ってみましょう。
定期的に射精する
妊娠を目指す場合、適度な射精習慣も大切になります。
禁欲期間が長すぎると、酸化ストレスによるダメージが蓄積され、精子の運動能力低下やDNA損傷の増加を招く可能性があります。短い禁欲期間(1日程度)の方が、精子のDNA損傷が少なく、運動性が向上することが報告されています。さらに、連日の射精でも精子の質は正常範囲を維持することが示されています。
高頻度の射精では、1回あたりの精液量や精子濃度は減少しますが、精子の質(DNA損傷の少なさ)は向上します。正常な精子数がある男性であれば、毎日の射精でも妊娠率に悪影響はないと考えられています。
一方で、精液検査を受ける際は、WHO(世界保健機関)の推奨に従い、検査前2〜7日の禁欲期間をとる必要があります。これは検査結果を標準化し、正確な評価を行うためのもので、日常的な妊活における最適な射精頻度とは異なります。
男性の妊活と加齢の関係
女性同様、男性も年齢を重ねるにつれて精子の質に影響がでる場合があります。
ある研究によると、正常な形をした精子の割合は、30歳以降から減少していくとされています。また、精液量は、平均35.5歳頃から明らかに減りはじめることが報告されています2)。精子の運動能力も年齢とともに衰え、50歳以上では前に進む精子の割合が、40代の半分程度まで低下するという指摘もあります。
男性が妊活をはじめるときに受けたい検査
ここでは、男性の妊孕性(にんようせい:妊娠する力)を調べるために行われる、主な検査について解説します。
精液検査
精液検査では、精液の量や数、形態などを調べ、自然妊娠を目指せる状態かを確認します。精液検査の基準値は、以下のとおりです。
精液検査は、妊娠に向けて受ける男性側の重要な検査です。現状を把握するためにも、検査を検討してみてください。
なお、精液検査の基準値は、自然妊娠できた男性の下位5%にあたる数値で「この数値以上なら自然妊娠の可能性がある最低ライン」という目安になります。あくまでも目安であり、基準値以下でも自然妊娠できる人もいれば、逆に基準値を超えていても妊娠が難しい人もいます。
精子DNA断片化指数(DFI)検査
通常の精液検査では分からない「精子の質」を評価する検査です。精子を特殊な染色液で染めることで、DNAに損傷がある精子の割合を測定します。
DNA損傷のある精子の割合が多い場合、通常の精液検査で正常でも、受精率や妊娠率が低下する可能性があります。原因不明の不妊(着床しない)や不育(流産を繰り返している)の隠れたリスク因子を特定できる可能性があります。通常の精液検査で異常がないのに妊娠しない、もしくは流産を繰り返している場合に勧められる検査です。
保険適用外の自費検査となり、施設により異なりますが、おおよそ1〜2万円程度です。
DFIが高いと診断されたら、精索静脈瘤がある場合は手術の検討、それ以外の場合は、生活習慣の改善(禁煙、ストレス管理、適度な運動)や抗酸化サプリメントの摂取、高温暴露の回避(長時間のサウナや入浴を控える)などが勧められることが多いです。
その他の検査
男性不妊の検査では、精液検査以外にも、血液検査や超音波検査などが行われます。
妊活をはじめる男性に関するよくある質問
ここでは、妊活をはじめる男性に関するよくある質問にお答えします。
Q:自宅で精液検査をする方法はある?
簡易検査キットを利用すれば自宅での精液検査も可能です。ただし、簡易キットでは、不妊要因となりうる指標の全部を調べることはできません。
あくまで簡易検査なので、詳細な分析や医学的なアドバイスが可能な医療機関での検査も検討しましょう。
Q:男性の不妊検査はどこで受けられる?
男性不妊の検査は、不妊症に対応している泌尿器科やクリニックで受けることができます。不妊検査では、精液検査が行われ、精子の数や動く力、形などを調べます。
精液検査で精子の状態に問題が見つかった場合は、さらに詳しい検査(ホルモン検査や陰囊超音波検査など)を行います。
Q:子どもができにくい男性に特徴はある?
子どものできやすさには個人差があり、医学的に明確になっているものはありません。次のような特徴や生活習慣は精子の質を低下させ、妊娠のしにくさにつながる可能性があります。
- 喫煙や過度な飲酒の習慣がある
- 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)や手術、性感染症(クラミジア・淋菌など)の既往がある
- 精索静脈瘤がある(精巣の静脈が逆流して瘤状になる疾患。無症状であることも多い)
気になる点があれば、早めに医療機関への相談を検討しましょう。
院長からのメッセージ
「妊活は女性がするもの」
——そう思っていませんか?恥ずかしながら不妊治療に関わるまでは私自身もうっすらそう思っていました。しかし、実は不妊症の約半数に男性側の要因が関わっています。
妊活において男性にできることは想像以上に多くあります。禁煙、適度な運動、バランスの良い食事といった基本的な生活習慣の改善に加え、意外かもしれませんが、定期的な射精も重要です。最新の研究では、毎日〜2日おきの射精が精子のDNA損傷を減らし、質を高めることが分かっています。
妊活はご夫婦二人の取り組みです。まずは正しい知識を得て、現状を知ることから始めましょう。不安や疑問があれば、遠慮なく専門医に相談してください。
参考文献
1)The effects of three different exercise modalities on markers of male reproduction in healthy subjects: a randomized controlled trial
https://rep.bioscientifica.com/view/journals/rep/153/2/157.xml
2)日本生殖医学会 生殖医療Q&A2025
http://www.jsrm.or.jp/public/document/seishoku_qa_2025.pdf
WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen
https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/343208/9789240030787-eng.pdf

