最終更新日:
2026-01-29

妊娠を希望しているのになかなか授からない。「不妊症」というと女性側の問題と思われがちですが、実は不妊症の約半数に男性側の要因が関与しています。

男性不妊の原因を調べるには、精液検査やホルモン検査、超音波検査などを医療機関で受けることが重要です。検査によって、妊娠に影響している要因が整理しやすくなり、今後の対応や治療方針を検討する手がかりになります。

本記事では、男性不妊の原因を調べる検査について、内容や受診のタイミング、検査を受けられる場所についてわかりやすく解説します。

男性不妊の主な原因について詳しくは、以下の記事をご覧ください。

男性不妊の原因を調べる主な検査

男性不妊の原因を調べる際には、いくつかの検査を組み合わせて評価します。男性不妊の原因を調べる主な検査を紹介します。

精液検査

精液検査は、男性の不妊検査のなかでも最も重要な検査といえます。採取した精液をもとに、精子の数や動き、形態など、妊娠の成立に直接関わる指標を総合的に評価します。

WHO(世界保健機関)のラボマニュアル第6版では、自然妊娠した男性のデータをもとに基準値が設定されています1)

項目 下限基準値
精液量 1.4mL以上
総精子数 3,900万/射精以上
精子濃度 1,600万/mL以上
前進運動率 30%以上
総運動率 42%以上
正常精子形態率 4%以上


基準値は自然に妊娠できた方のデータから算出された下位5パーセントに相当する数値であり、これぐらいあれば自然妊娠が期待できるという目安です。厳密な限界などではなく、あくまで目安ですので、基準を下回っていても自然妊娠する方がいる一方、基準を満たしていても妊娠に至らない方もいます。

基準値を下回った場合は、原因を整理するためにホルモン検査や陰嚢超音波検査などを追加し、治療や生活改善の方針を検討します。

精子の状態は体調やストレスなどの影響を受けやすく、検査ごとに数値が変動しやすい特徴があります。そのため、初回の結果だけで判断せず、2〜3週間の間隔をあけて複数回検査を行い、総合的に評価することが推奨されています。

精子DNA断片化指数(DFI)検査

精子DNA断片化指数(DFI)検査は、通常の精液検査だけでは把握できない精子の質(DNAの損傷度合い)を調べる検査です。精子の数や運動率、形態に大きな異常がみられないにもかかわらず妊娠に至らない場合や、流産を繰り返している場合に、追加検査として検討されることがあります。

検査では、特殊な染色液を用いて精子を染色し、DNA損傷を受けた精子の割合を測定します。原因不明の不妊や流産を繰り返すケースにおいて、隠れた要因を明らかにできる可能性があります。

DNAの損傷(断片化)は酸化ストレス、加齢、感染症、精索静脈瘤などに加えて、喫煙や肥満、睡眠不足などの生活習慣が要因となって、DNAの二重らせん構造がちぎれて起こります。精子のDNA損傷の程度が高いと、自然妊娠や人工授精での妊娠率の低下や、体外受精後の受精卵の発育不良や流産などが起こりやすくなることが報告されています。一般的に、DFI値が20〜30%が基準値とされていますが、施設によっても判断は異なります。

精子DNA断片化指数(DFI)検査は、現時点では標準的な不妊検査には含まれておらず、保険適用外の自費診療となります。

ホルモン検査(血液検査)

ホルモン検査は、FSHやLH、テストステロンといった精子をつくる働きに関わるホルモンの濃度を測定するための検査です。

FSHとLHは、脳下垂体から分泌され、精巣を刺激するホルモンです。精巣や卵巣を刺激するホルモンの総称をゴナドトロピンといいますが、これらのホルモン値が基準範囲より低い場合、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の可能性が考えられます。脳からの指令が出ないために精巣の機能が低下しているという状態です。

一方、FSHやLHの数値が高い場合は、脳からの指令は出ているものの、精巣自体の機能が低下している可能性が考えられます。無精子症の原因の鑑別の際にも、FSHの値によって、精子の通り道が塞がっている「閉塞性無精子症」か、精子をつくる機能そのものに障害がある「非閉塞性無精子症」かを判断します。

無精子症について詳しくは、以下の記事でも解説しています。

遺伝子・染色体検査(血液検査)

遺伝子・染色体検査は、精液検査で無精子症や精子数が極めて少ない状態が確認された場合に、原因をさらに詳しく調べるために行われる検査です。染色体の構造や遺伝子に、生まれつきの異常が存在しないかを確認します。

特定の染色体や遺伝子に異常がある場合、精子をつくる機能が大きく低下していることがあります。代表的なものとして、クラインフェルター症候群やY染色体のAZF領域欠損があげられます。

男性の性染色体は母由来のX染色体と父由来のY染色体の組み合わせであるXYという形式ですが、クラインフェルター症候群ではXXYやXXXYのように男性の性染色体にX染色体が通常より多く存在することで、精巣機能の低下などの症状を引き起こします。

AZF領域はY染色体の長腕という部分に位置し、精子形成に重要な役割をもつ遺伝子が集まっている部分です。AZF領域欠損は無精子症患者の5~10%に見られると言われています。AZFはさらにa,b,cの3つの領域に分けられ、特にaやbに欠損があると、精子がほとんど、あるいは全くつくられない状態になります。AZF-cのみの欠損であれば、ほとんど問題がない場合もあり、無精子症と診断された後もTESE(精巣内精子回収術)という手術で精子が回収できる可能性があります。

陰囊超音波検査

陰囊超音波検査は、超音波を用いて陰囊内の状態を詳細に観察する検査です。体に負担をかけることなく、精巣の大きさや内部構造、周囲の血管の状態などを詳しく調べることができます。

視診や触診だけでは判断が難しい異常を見つけやすく、精子をつくる精巣そのものに問題がないか、精子の通り道に異常が疑われないかを確認する目的で行われます。

特に、男性不妊の原因として頻度の高い精索静脈瘤は、陰囊超音波検査によって診断されることが多く、精液検査で異常がみられた場合の精密検査として広く用いられています。

男性不妊の検査を受けるタイミング

年齢とともに、徐々に精巣の機能は低下します。具体的には、精子の数や運動性が低下したり、DNAの損傷が増えたりすることが知られており、妊娠のしやすさに影響を及ぼす可能性があります。

一方で、加齢による影響の程度には大きな個人差があり、年齢が高くても精子の状態が良好な男性も少なくありません。だからこそ、妊娠を希望して1年以内に妊娠に至らない場合は、年齢にかかわらず検査を受けることが推奨されます。特に、パートナーが35歳以上の場合は、半年を目安に早めの受診を検討しましょう。

男性不妊の検査ができる場所

男性不妊の検査は、泌尿器科または不妊治療を専門とするクリニックで受けられます。受診先によって対応できる検査内容や専門性が異なるため、目的に応じて選ぶことが大切です。

泌尿器科で検査を受ける

生殖医療を専門とする医師が在籍する泌尿器科では、精液検査に加えて、ホルモン検査や超音波検査など、異常が見つかった際の詳しい検査まで対応できる場合があります。ただし、すべての泌尿器科で精液検査を実施しているわけではないため、事前確認を行なったほうがよいでしょう。

不妊治療専門クリニックで検査を受ける

不妊治療を専門としているクリニックでは、男女双方の検査や治療を同時に進められる体制が整っていることが多く、パートナーと一緒に通院しやすい点が特徴です。検査後に治療が必要になった場合も、スムーズに次のステップへ進みやすいでしょう。

受診先を選ぶ際は、対応している検査内容、専門性、通院のしやすさを基準に、自分たちの状況に合った医療機関を検討することが重要です。

男性不妊検査の保険適用について

男性不妊の検査は、不妊の診断・治療を目的として医師が実施したかどうかで、保険適用か自費かがわかれます。

妊娠を希望して一定期間妊娠に至らない場合に行う血液検査、超音波検査などは、保険診療として実施されることがあります。一方で、精液検査については、無症状の方を対象にする検査のため、多くの場合は保険適用外です。

また、精子DNA断片化指数(DFI)検査や一部のホルモン検査(エストラジオールなど)は、現行制度では保険適用外となり、自費診療です。これらは、通常の検査で原因が特定できない場合に追加で行われる検査です。

助成金が使えるケース

自治体によっては、保険医療機関で実施された不妊検査・治療を対象に助成制度が設けられています。

ただし、将来の妊娠に備えて自主的に受けるブライダルチェックは、原則として助成の対象外です。助成の可否は、検査内容ではなく「目的」と「制度上の位置づけ」で判断されます。

助成制度の条件や内容は自治体ごとに異なり、変更されることもあるため、最新情報は公式サイトで確認してください。

男性のブライダルチェックについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。

男性不妊や検査に関するよくある質問

男性不妊や検査に関するよくある質問について回答します。

男性不妊の検査は自宅でもできる?

市販の簡易検査キットを使えば、自宅で精子の有無や数、運動率など一部の項目を確認できます。ただし、精子の形態や質(DNAの状態)までは評価できず、不妊の原因を詳しく調べることはできません。またその結果についての医師の診断を受けることもできません。

精子の正確な状態を把握するには、医療機関での精液検査が欠かせません。貴重な時間を無駄にしないためにも、泌尿器科や不妊治療を専門とするクリニックへの受診を検討しましょう。

男性の不妊検査で異常が見つかった場合は?

検査で異常が見つかった場合、原因が特定できるかどうかによって治療方針が変わります。

原因が明らかな場合は、手術や薬物療法など原因に応じた治療を行います。たとえば、精索静脈瘤では手術により精子の状態が改善し、妊娠につながるケースがあります。無精子症では、精子の通り道の手術や精巣から精子を回収する方法(micro TESEなど)が検討され、精子が得られれば顕微授精が可能です。

一方、原因が特定できない場合は、精液所見やパートナーの状況に応じて、人工授精や体外受精、顕微授精などの不妊治療が選択されます。

男性不妊検査とブライダルチェックの違いは?

男性不妊検査とブライダルチェックは、目的と受けるタイミングが異なります。

男性不妊検査は、妊娠を希望して一定期間妊娠に至らない場合に行い、不妊の原因を調べて治療につなげるための検査です。

一方、ブライダルチェックは、将来の妊娠に備えて現在の体の状態を確認する予防的な検査で、結婚前後や妊活を考え始めた段階で受けられます。

精液検査など共通する検査項目はありますが、原因を調べて治療する検査か、将来に備えて状態を知る検査かが大きな違いです。

男性不妊の要因になる生活習慣はある?

日常的な生活習慣が、男性の生殖機能に影響することがあります。

精巣は体温より2〜3℃低い環境が適しているため、サウナや熱い湯船に長時間浸かる習慣は、精子をつくる力を低下させるおそれがあります。

喫煙は男性ホルモンの分泌低下や血流悪化を招き、勃起機能や精子の質に影響します。過度な飲酒も、精子の数や質を下げる要因の一つです。また、肥満の男性では、精子の運動率低下や形態異常が増える傾向が報告されています。

妊娠を希望する場合は、禁煙・節酒、体重管理、体を温めすぎない工夫など、生活習慣の見直しも重要です。

妊娠しやすい生活習慣については、以下の記事もご覧ください。

院長からのメッセージ

「妊活は二人で取り組むもの」——頭ではわかっていても、男性側の検査は後回しにされがちです。しかし、不妊症の約半数に男性側の要因が関わっており、検査を受けることで適切な対策が見えてくることも少なくありません。

男性不妊の検査で最も重要なのは精液検査です。採取した精液から、精子の数、運動率、形態を評価します。検査自体は痛みを伴わず、体への負担もありません。

「検査を受けるのが不安」「何か見つかったらどうしよう」という気持ちは自然なことです。しかし、現状を正確に把握することで、適切な対策や治療方針が見えてきます。原因がわかれば、生活習慣の改善だけで妊娠につながるケースもあります。

まずは一度医療機関に足を運んで相談をしていただくだけでも、妊活の大切な第一歩となります。

参考文献

1)World Health Organization. WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen. 6th ed. World Health Organization; 2021.
日本産科婦人科学会.不妊症.日本産科婦人科学会ウェブサイト

American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility. Practice Committee Documents. ASRM

日本泌尿器科学会,日本生殖医学会.2024年版男性不妊症診療ガイドライン

日本生殖医学会.一般のみなさまへ

日本産婦人科医会.(3)男性不妊症の検査・診断

こども家庭庁.男性不妊について

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