多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断され「望むように妊娠できるのだろうか」「妊娠率が下がるのだろうか」と不安を感じる方もいるのではないでしょうか。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方は排卵しにくいことがあるため、無治療では妊娠しにくい傾向があるものの、排卵を促す治療をはじめとする不妊治療を取り入れることで、出産に至る確率は必ずしも低下しないことがわかっています。
この記事では、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における妊娠率・出産率の傾向や妊娠しにくい理由、妊活の進め方について解説します。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の妊娠率について
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は不妊の原因になることが知られており、治療をしない場合は自然妊娠の確率は低くなってしまう可能性があります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の妊娠率を詳しく調べた研究は多くありませんが、ここでは比較的近い指標として累積の出産率を調べた研究の結果を紹介します。
累積出産率とは、調査した期間のうちに実際に出産に至った方の割合です。
スウェーデンの大規模な観察研究では、累積出産率を「自然妊娠のみの場合」と「不妊治療も含めた全体」にわけて比較しています1)。
<1人以上の子どもを出産した方の割合(累積出産率)>
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性45,395人、対照女性217,049人が対象。18歳から開始し最長26年間追跡
自然妊娠のみで比較すると、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のある女性は、そうでない女性よりも累積出産率が低くなっています。長期間追跡しても、自然には妊娠しにくい状態が続くことがわかります。
一方、不妊治療を含めた全体でみると、累積出産率はほぼ同程度です。この研究では、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のある女性の方がわずかに高い結果でした。
必要な治療を受けることで、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のない方と同じように出産に至る可能性が示されています。
妊娠に至るまでの期間は長くなる傾向がある
先述のとおり、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されても妊娠は可能ですし、自然に授かる方も一定数存在します。ただし、多嚢胞性卵巣症候群を診断された方は、授かるまでの妊活期間は長くなりやすいこともわかっています。
同研究では、自然妊娠で最初の出産に至るまでにかかった期間についても比較されていました。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のある女性は、ない女性より約2年長かったと報告されています1)。
また、最初の出産が35歳以降になった女性の割合も集計されており、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のある女性は罹患していない女性の約2倍でした。妊娠までに時間がかかりやすいことを示す結果です。
これらはあくまで統計データであり、必ずしもすべての方に当てはまるものではありません。ただし、妊娠・出産ができるまでに時間がかかる可能性があるため、望むタイミングがある場合には早めに行動を開始した方がよい可能性がある点は理解しておく必要があります。
妊娠を希望する場合、まずはご自身の状態について医師から詳しく説明を受け、必要に応じて治療を取り入れながら妊活を進めましょう。
そもそも多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?なぜ妊娠しにくいのか
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは、妊娠に関連する症状だけを簡易的に説明すると、卵巣の中に育とうとする卵子が多すぎて1個が育ちづらくなってしまう疾患です。生殖年齢にある女性のおよそ6~10%にみられるとされています。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では排卵障害や月経異常を伴うことが多く、不妊の主要な原因として知られています。
日本産科婦人科学会の診断基準では、以下の3項目すべてを満たす場合に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されます2)。
<多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断基準(2024年改訂)>
※LH:黄体形成ホルモン/FSH:卵胞刺激ホルモン/AMH(抗ミュラー管ホルモン)
いくつかの基準を組み合わせて診断されるため、同じ診断でも症状の現れ方や特徴は人によって大きく異なります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が不妊につながる理由
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が不妊の原因になりやすいのは、ほとんどのケースで排卵がうまく起こらないためです。
通常、卵巣ではホルモンの働きで1つの卵胞が成熟し排卵します。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、卵巣内で育とうとする卵胞が多すぎて、かえって1つの卵胞が育ちづらくなります。結果、排卵がスムーズにいかなくなり、妊娠に結びつきにくくなるのです。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は卵巣だけの疾患ではなく、全身のホルモンバランスの乱れや代謝異常が関係しています。排卵に関しては、アンドロゲン(男性ホルモン)の過剰分泌を中心に、複数の要因が影響し合って排卵しにくい状態が生まれます。
特にインスリン抵抗性を伴う場合は、排卵障害が悪化しやすくなります。また、卵子の質や子宮内膜が受精卵を受け入れる力(子宮内膜受容能)にも影響し、着床や妊娠維持を妨げる可能性も指摘されています。
不規則でも排卵が起こっていれば、自然に妊娠する可能性はあります。しかし実際には、不定期な排卵時期を特定するのは難しく、望むように授からない方は少なくありません。
排卵の状態を整えるために、まずは生活の中で意識したいポイントについて知り、できることから取り組みましょう。医師のアドバイスのもと、必要な治療を受けることも重要です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の妊活の進め方
妊娠を希望する場合は、「排卵を促すこと」が治療の中心です。排卵が起こりやすくなるように生活習慣を整えつつ、必要に応じて排卵を助ける治療を取り入れます。
早めの妊娠を希望する場合や年齢の影響を考慮する場合は、治療内容を段階的にステップアップしていきます。
生活習慣の改善
まずは、食事や運動習慣を改善することが治療の基本となります。日々の生活を整え、排卵しやすい体づくりを心がけましょう。肥満(BMI25以上)の方は体重管理も重要です。
体重管理
肥満の方は、医師と相談しながら体重管理に取り組みましょう。適切な体重管理により排卵が再開することも報告されており、体のコンディションを整えることが治療の土台となります。
一般的には、3〜6か月で5〜10%を目安に減量を目指します3)。過度な体重減少は排卵障害を悪化させる可能性もあるため、医師の指示を確認しながら適切なペースで進めてください。
なお、減量はあくまで肥満の方が対象であり、やせている方や標準体型の方には推奨されません。適正体重を保ちながら健康管理を意識しましょう。
食事
特定の食事法を取り入れる必要はありません。一部の栄養素に偏ったり、過度に制限したりせず、主食・主菜・副菜をそろえたバランスのよい献立を心がけてください。
体重管理のために、嗜好品の取り方にも気を配るとよいでしょう。「間食は1日1回まで」「夜は控える」など具体的に工夫してみてください。
運動
運動については、以下のペースが推奨されています3)。中強度の運動は自転車や早歩き、高強度の運動はジョギングなどが該当します。
- 体重を維持したい場合:週150〜300分の中強度の運動、または週に75〜150分の高強度の運動
- 体重を減らしたい場合:週250分以上の中強度の運動、または週150分以上の高強度の運動
合わせて、筋力トレーニングを週2回程度行うことも理想とされています。
はじめはハードルが高く感じるかもしれません。まずは毎日10分歩くなど、ご自身のペースでできることからはじめてみましょう。
内服(排卵誘発剤)による治療
生活習慣を見直しても排卵が起こりにくい場合や早めに妊娠を希望する場合は、排卵を促す内服治療(排卵誘発剤)を行います。
排卵誘発剤は、脳の視床下部という部分に働きかけて、排卵に必要なホルモンの分泌を促す薬です。レトロゾールやクロミフェンなどが代表的であり、卵胞の発育を助け、排卵のタイミングを整えていきます。
海外の研究では、排卵障害のある多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性がこれらの薬を用いてタイミング療法を行った場合の妊娠率が報告されています4)。
<排卵誘発剤による妊娠率・排卵率(タイミング療法・6周期までの累積)4)>
薬によって約8割の方が排卵し、一定の割合で妊娠につながることが確認されています。特にレトロゾールでより高い妊娠率が報告されていますが、どちらを選択するかは効果や副作用リスクなどをふまえて医師が判断します。
なお、肥満やインスリン抵抗性、耐糖能異常(血糖値を正常に保つ働きが低下している状態)がある方のうち、排卵誘発剤のみで排卵しない場合は、メトホルミンという飲み薬を併用することもあります。
注射による治療・手術
飲み薬では卵胞が十分に育たない場合や排卵が起こらない場合は、ホルモン注射による治療や「腹腔鏡下卵巣開孔術」という手術が検討されます。
注射による治療
注射による治療では、ゴナドトロピン製剤というホルモン注射が用いられます。ゴナドトロピン製剤にはいくつかの種類があり、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では主にFSH製剤が用いられます。
FSH製剤は、卵胞発育に必要なFSHを補うことで卵巣を直接刺激し、卵胞の発育を促す薬です。自宅で自己注射できるタイプもあり、注射のたびに通院する必要がありません。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方がゴナドトロピン製剤を使用した場合、約68〜91%で排卵が起こり、47〜73%が1〜2年以内に妊娠したとの報告もあります5)。
治療効果が高い一方、副作用にも注意が必要です。卵巣が過剰に反応すると、卵胞が育ちすぎてしまうことがあり、以下のリスクが懸念されます。
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS):卵巣が腫れたり、お腹や胸に水がたまったりする状態
- 多胎妊娠:双子や三つ子が生まれること
これらのリスクを抑えるため、医師は卵巣の状態を観察し、注射の量を少しずつ調整しながら慎重に治療を進めます。
特にOHSSは、重症化すると腎障害や血栓症などの合併症につながる可能性もあるため、体調変化に気をつけながら治療を受けましょう。
排卵誘発剤について詳しくは、以下の記事もご覧ください。
手術による治療(腹腔鏡下卵巣開孔術)
注射による治療でも排卵が起こらない場合や、薬では卵胞が育ちすぎてしまう場合は、手術療法が選択肢となります。腹腔鏡下卵巣開孔術は、卵巣の表面に小さな穴を開けることで排卵を促す治療法です。
手術を受けた方のうち64%で排卵が再開し、52%が術後1年以内に妊娠したとの報告もあります3)。
薬による治療と比べて、出産に至る割合は同等またはやや低くなりますが、OHSSや多胎妊娠のリスクが抑えられる特徴もあり、状態によって提案されることがあります。
生殖補助医療(ART)
内服や注射で排卵を助けても妊娠に至らない場合は、生殖補助医療へのステップアップが検討されます。
- 体外受精(c-IVF):卵子を体外に取り出し、精子と受精させたのち、受精卵を子宮に戻す方法
- 顕微授精(ICSI):顕微鏡を用いて、1個の精子を細いガラス針で卵子の細胞質内に直接注入し、受精させる方法
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性が生殖補助医療を受けた場合、罹患していない女性よりも妊娠率がやや高かったとする研究結果もあります6)。
その理由として、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方は排卵刺激に対する反応がよく、一度の採卵で複数の卵子を得やすいことが挙げられます。たくさんの卵子が得られれば、状態のよい胚を選んで移植できるため、妊娠につながりやすくなります。
一方、OHSSのリスクも懸念されます。回避するために、胚移植では一度胚を凍結して別の周期に戻す方法(凍結融解胚移植)が推奨されることもあります。
不妊治療では、安全性を確保しながら妊娠を目指していきます。希望する場合、医師とよく話し合いながら、ご自身にとって望ましい治療方針を見つけていきましょう。
体外受精や顕微授精について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という名前が変わるかもしれません
2026年5月、世界56の医療・患者団体が参加した国際会議で、PCOSの名称を「PMOS(ピーモス)」に変更するという合意が、世界的に権威のある医学誌The Lancetで発表されました。
そもそも「多嚢胞性(たのうほうせい)」という言葉は、卵巣に小さな袋(嚢胞)がたくさんある状態を指していますが、この嚢胞は実際には発育途中の卵胞であり、病的なものではありません。PCOSはホルモンバランスの乱れやインスリン抵抗性など全身に関わる病態であるにもかかわらず、「多嚢胞性卵巣」という名前から「卵巣だけの病気」と誤解されやすいという問題がありました。
新しい名称PMOSは「多内分泌代謝性卵巣症候群」と訳せます(*今後日本の医学界での正式名称が発表される可能性があります)。この名前は、ホルモン(内分泌)と代謝の両方の問題を抱えた疾患である、という本質をより正確に表しています。
現在は移行期間中であり、日本の診療ガイドラインへの正式な反映はこれからです。本記事ではなじみのある「PCOS」という表記を引き続き使用していますが、今後「PMOS」という名称が広まっていく可能性があります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の妊娠率に関してよくある質問
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の妊娠率に関連してよく寄せられる質問に回答します。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合、流産率は上がりますか?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方は、流産率が高い傾向があるといくつかの研究で示されています。病態そのものが流産率を高めるとの報告もあれば、インスリン抵抗性や肥満といった状態が流産リスクに関係するとの報告もあります。
ただし、流産の主な原因は受精卵の染色体異常であり、これは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で特別に起こるというわけではなく健康な方であっても起こりうるものです。
肥満やインスリン抵抗性を伴う場合は、改善することで流産率が下がる可能性も示されているため、妊娠前から健康管理を意識しましょう。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)だと障害児が生まれる確率が上がりますか?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と赤ちゃんの健康リスクについては、いくつかの研究結果があります。
先天的な体の異常(先天奇形)を調べた研究では、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の有無で有意な差は認められなかったとの報告があります。
自閉症スペクトラム障害や注意欠如・多動症などについては、発症リスクが高いとする文献もありますが、あくまでも関連性を示すものです。遺伝や肥満、妊娠合併症などの関与も指摘されているため、過度に心配する必要はありません。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)治療中は性行為をしてもいいですか?
基本的には、治療中に性行為が制限されることはありません。
性行為が多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を悪化させることはなく、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が原因で、性行為時に痛みや出血などが引き起こされることもないと考えられます。
ただし、排卵誘発の薬によってOHSSの兆候が認められた場合は、数日間性交を控えるよう案内されることがあります。治療中は体調変化に注意し、医師の指示を確認しながら妊娠を目指していきましょう。
院長からのメッセージ
PCOSと診断されたとき、「もう妊娠できないのかもしれない」と感じる方がいます。その不安はよくわかります。ただ、PCOSは「妊娠できない病気」ではありません。
PCOSの本質は、排卵がうまくいきにくい状態です。排卵が起こりにくいため自然妊娠には時間がかかりやすいのですが、適切な治療で排卵が起こるようになれば、妊娠・出産できる可能性は十分あります。実際に、不妊治療を含めた出産率を比較した大規模な研究では、PCOSのある方もない方もほぼ同等という結果が出ています。
治療の流れとしては、まず生活習慣の見直しから始まり、必要に応じて排卵誘発剤、注射、体外受精とステップアップしていきます。PCOSの方は排卵刺激に対する反応がよく、採卵では複数の卵子が得やすい特徴があります。一方でOHSSのリスクもあるため、卵巣の状態を見ながら慎重に進めます。
「何から始めればいいか」「自分の場合はどのくらいかかるのか」——そういう疑問は、ぜひ受診の場で聞いてください。PCOSの状態にも個人差があり、一人ひとりに合った治療方針があります。
最後に少しだけ。2026年に入り、PCOSは国際的に「PMOS」という新しい名前に変わりつつあります。名前が変わる理由のひとつは、この病気が卵巣だけの問題ではなく、ホルモンや代謝など全身に関わる状態だということが、以前より深く理解されてきたからです。診断名や呼び方が変わっても、あなたの体で起きていることの本質は変わりません。一緒に向き合っていきましょう。
参考文献
1)Persson S, Elenis E, Turkmen S, et al. Fecundity among women with polycystic ovary syndrome (PCOS)—a population-based study. Hum Reprod. 2019;34(10):2052-2060.
https://academic.oup.com/humrep/article/34/10/2052/5556931
2)日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会. 本邦における多囊胞性卵巣症候群の診断基準の検証に関する小委員会, 松崎利也, ほか. 多囊胞性卵巣症候群に関する全国症例調査の結果と本邦における新しい診断基準(2024)について. 2024.
https://www.jsog.or.jp/news/pdf/PCOS1_20231204.pdf
3)日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会. 本邦における多囊胞性卵巣症候群の治療指針の検証に関する小委員会. 本邦における多囊胞性卵巣症候群の治療指針(full version). 2025.
https://www.jsog.or.jp/news/pdf/PCOSshishin_20250717.pdf
4)Amer SA, Smith J, Mahran A, Fox P, Fakis A. Double-blind randomized controlled trial of letrozole versus clomiphene citrate in subfertile women with polycystic ovarian syndrome. Hum Reprod. 2017;32(8):1631-1638.
https://academic.oup.com/humrep/article/32/8/1631/3897382
5)日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 編. 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2026. 日本産科婦人科学会
6)Xie N, Zhao W. Adverse pregnancy and perinatal outcomes in women with polycystic ovary syndrome undergoing assisted reproductive technology: a systematic review and meta-analysis. Front Med (Lausanne). 2025;12:1656389.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12549646/







