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最終更新日:
2026-05-25

体外受精で何度か胚を移植しても妊娠に至らないときには着床障害の関与が疑われます。

着床障害には、受精卵の状態や子宮の環境など、さまざまな要因が関わっています。原因によって必要な検査や治療の方針は異なるため、まずは正確な知識を持つことが大切です。

この記事では、着床障害がどういうものか、原因や行われる検査・治療について解説します。

着床障害とは

着床障害とは、生殖補助医療(ART)で良好な胚を繰り返し移植しても妊娠に至らない状態のことです。「着床不全」や「反復着床不全」と呼ばれることもあります1)

卵管内で卵子と精子が受精して受精卵(胚)ができると、子宮内へと移動した後に子宮内膜にもぐり込むようにして付着(着床)し、妊娠が成立します。体外受精の場合には、胚盤胞という着床の直前の状態まで培養された胚を、胚移植によって子宮内に戻します。自然妊娠や人工授精の場合には妊娠成立しなかったときに、受精・発育・着床のどの段階で止まってしまったのかは分かりませんが、体外受精では着床までの過程を確認することができるのです。

何度か胚移植しても妊娠に至らない場合、着床障害を原因のひとつとして疑うことがあります。

着床障害と判断する移植回数や胚の個数について、現在は明確な定義はありません。一般的には3回程度の良好な胚移植を行っても妊娠しない場合に着床障害が疑われますが、年齢や胚の状態によって判断は異なります。

着床障害が疑われる場合は、ご自身の状況で考えられる原因を整理し、医師とともに検査や治療の必要性を確認していくことが大切です。

着床障害と化学流産の違い

着床障害に近い概念として、化学流産(生化学的妊娠)があります。

化学流産は、妊娠の確認に使われるhCGというホルモンが一時的に検出されたあと、超音波検査で赤ちゃんの袋(胎嚢)が確認される前に妊娠が終了してしまう状態です。健康な若いカップルでも30〜40%程度の頻度で起こるとされているため2)、化学流産になってしまったとしても、すぐに病的な異常と判断して検査や治療を急ぐ必要性は低いと考えられています。

化学流産も着床障害に含まれるという考え方もありますが、この考え方も明確に確立されているわけではありません。

化学流産について詳しくは、以下の記事もご覧ください。

着床障害の原因

着床障害の背景にはさまざまな要因が考えられており、主に胚側の要因、子宮側の要因、免疫に関わる要因などが考えられます。

  • 胚側の問題:染色体異常
  • 子宮側の問題:子宮の形態異常・ポリープや筋腫、腺筋症などの腫瘤・炎症・癒着 など
  • 母体が受精卵を受け入れる免疫の働き(免疫寛容)の異常

胚の染色体異常や免疫の働きのように直接的な治療が難しい要因もあれば、子宮内膜ポリープや子宮筋腫、子宮内膜炎のように治療によって改善が見込める要因もあります。

胚側の問題:染色体異常

着床障害の一因として、受精卵(胚)の染色体異常が挙げられます。見た目が良好であっても染色体に異常があれば、着床や妊娠継続が難しくなります。

染色体異常には程度の幅があり、異常が大きい胚の多くは妊娠に結びつきません。異常が比較的小さい場合、妊娠することがありますがその後発育が止まり、結果として流産となります。

染色体異常の発生には、加齢が大きく関係しています。男性・女性ともに年齢が上がるにつれて精子や卵子の質が低下し、染色体異常のリスクも高まることが知られています。

子宮側の問題

子宮内膜は、胚を受け入れる場所として着床に深く関わります。病気により子宮の形に異常がある場合は、物理的に着床が妨げられることがあります。

炎症や癒着によって子宮内膜の状態が整わないことも、着床が難しくなる要因です。

子宮の形や構造の問題

子宮腔の形や子宮内膜の状態によっては、胚の着床や妊娠成立に影響することがあります。原因となる疾患には、先天的な原因として中隔子宮・双角子宮・重複子宮、そして腫瘤性病変による変形としては子宮筋腫・子宮腺筋症・子宮内膜ポリープなどが挙げられます。

これらの病気は、月経過多や強い月経痛などの症状から気づくこともあります。ただし、自覚症状が乏しいケースもあるため、着床障害が疑われる場合は、再度詳しい検査が提案されることもあります。

検査により病気が見つかった場合、状態によっては手術など適切な処置が推奨されることがあります。

子宮内の炎症

子宮内膜には受精卵を受け入れ、妊娠の成立・維持を支える役割があります。子宮内膜に炎症があると、着床そのものが妨げられてしまう可能性があります。

なかでも慢性子宮内膜炎は細菌感染などが関与し、子宮内膜に炎症が持続する状態です。自覚症状がなく、気づかないまま着床しにくくなっているケースもあります。

子宮への手術や処置の影響

過去の子宮内手術や処置などが原因で子宮内腔に癒着が起こると「子宮腔内癒着症(アッシャーマン症候群)」を発症することがあります。月経量が減少したり、無月経になったりするほか、着床障害による不妊症を引き起こすこともあります。

また、帝王切開の経験がある方では、子宮の下部にくぼみが残る「帝王切開瘢痕症」を発症するケースもあります。くぼみに経血や分泌物が溜まることで、着床環境に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

免疫寛容の問題

体には異物を攻撃して身を守る働きがありますが、妊娠時には「免疫寛容」という仕組みが例外的に働きます。免疫寛容とは、本来なら異物となる胚を受け入れる体の反応です。

免疫寛容がうまく働かないと、胚が異物として排除されてしまい、着床しにくくなると考えられています3)

治療として免疫抑制剤などを用いることもありますが、有効性は十分に確認されておらず、医師と相談しながら必要性を検討します。

着床障害が疑われる場合に検討される検査

着床障害が疑われる場合、その原因を探るための検査が提案されることがあります。子宮の形態や内膜の状態、細菌環境、適切な移植タイミングなど、多角的な視点から評価し、適切な治療方針につなげていきます。

着床障害は医学的に解明されていない部分も多く、明確な原因がわからないケースもあります。

検査内容について医師から詳しく説明を受け、必要性や優先度を判断していくことが重要です。

経腟超音波検査・MRI検査

経腟超音波検査とMRI検査は、子宮や卵巣の状態を画像で確認するための検査です。

経腟超音波検査は、細い超音波プローブを腟から挿入して行います。子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、卵巣腫瘍などの病変の有無を確認するほか、卵胞の発育や子宮内膜の厚さの観察にも用いられます。

超音波検査だけでは判断が難しい場合には、必要に応じてMRI検査が用いられます。磁気と電波を使って体内の断面を描き出す画像検査で、子宮筋腫と子宮腺筋症の鑑別や子宮腺筋症の広がり・重症度の評価、子宮奇形の確認などに活用されます。

子宮内膜組織診・子宮鏡検査

子宮内膜組織診は、子宮内膜の組織を採取して顕微鏡で調べる検査です。子宮内膜の状態や炎症の有無などを確認し、慢性子宮内膜炎の評価にも用いられます。

子宮鏡検査は、子宮内腔を内視鏡で直接観察する検査です。子宮口から細いカメラを挿入し、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫、子宮腔内癒着などの異常がないかを確認します。画像検査では見つけにくい子宮内腔の病変を視覚的に把握できる点が特徴です。

子宮内細菌叢検査(EMMA/ALICE)

子宮内細菌叢検査(EMMA/ALICE)は、子宮内膜の組織を採取し、子宮内膜に存在する細菌の種類や割合を調べる検査です。子宮内フローラのバランスが崩れていないか、慢性子宮内膜炎に関連する菌が増殖していないかなどを評価します。

胚が着床しやすい子宮内環境として、細菌のバランスは重要な要素のひとつです。特に乳酸菌の一種であるラクトバチルス属が90%以上を占めている場合に着床率や妊娠率が良好であったとする報告があります3)。ラクトバチルス属が少ない場合は、薬により子宮内フローラを改善する試みが検討されます。

先進医療として認められており、状態に応じて保険診療と併用して検討される検査です。

(※先進医療とは、現段階で保険適用の対象ではないものの、保険適用に向けて評価が進められている高度な医療技術を用いた検査・治療のことです。通常は保険診療と保険外診療の併用はできませんが、先進医療は例外として併用が認められます。)

子宮内膜受容能検査(ERA)・子宮内膜受容期検査(ERPeak)

子宮内膜受容能検査や子宮内膜受容期検査は、子宮内膜の組織を採取し、遺伝子を解析することで「着床の窓」にずれがないかを評価する検査です。

「着床の窓」とは、子宮内膜が受精卵を受け入れられる時期のことであり、限られた期間しかありません。着床の窓には個人差もあり、タイミングがずれると良好な胚を移植しても着床につながりにくくなります。

検査結果をもとに胚移植のタイミングを一人ひとりに合わせて調整することで、妊娠成立の可能性を高めることが期待されます。

なお、いずれも自費診療もしくは先進医療として実施される検査です。

着床障害で行われる治療について

検査により着床を妨げる要因が見つかった場合、妊娠に向けて原因に応じた治療が提案されることがあります。

例えば、子宮筋腫や子宮腺筋症などが認められた場合は、手術やホルモン療法が検討されます。手術する場合は体が回復するまで妊娠を目指せない期間が生じますが、術前に胚を凍結保存し回復後の移植に備える選択肢もあります。

慢性子宮内膜炎や子宮内細菌のバランスの乱れが疑われるときは、抗菌薬や乳酸菌製剤による治療が検討されます。その他、移植タイミングを調整したり着床を助ける医学的技術を取り入れたりすることで、妊娠を目指す方法もあります。

着床障害の原因はひとつとは限らず、複数の要因が重なっているケースもあります。治療法についてもまだ確立されていないものもあれば、先進的な医療技術ではあるものの保険適用とならないものもあります。

大切なのは、提案される治療について有効性と必要性を理解し、納得して選択することです。医師とともに治療法を整理し、望ましい方針を検討していきましょう。

着床障害に関するよくある質問

ここでは、着床障害に関するよくある質問について回答します。

着床障害と言われたら、次に何をすればいいですか?

考えられる原因からどのような対処をするかを医師とともに決めることになります。着床障害の背景にはさまざまな原因が考えられ、提案される対応は一人ひとり異なります。ご自身の状況を把握したのち、追加検査の必要性と今後の方針を整理します。

提案された検査・治療の費用面についても確認しましょう。保険適用となるものもあれば、自費診療や先進医療として実施されるものもあります。金銭的な負担も確認しながら、納得できる方針を見つけていくことが重要です。

着床障害は治りますか?

原因が明らかな場合は、治療によって着床しやすい状態に整えられる可能性があります。

子宮の病気が物理的に着床を妨げていると考えられるケースでは、適切な治療により妊娠しやすくなることがあります。「着床の窓」のずれが疑われる場合は、検査をもとに胚移植の時期を調整する方法もあります。

一方、胚の染色体異常のように根本的な治療が難しい原因もあります。免疫の働きが関わるケースなど、まだ研究段階のアプローチ法もあります。

お二人の状況によって提案される対応は異なります。治療内容について十分に理解したうえで選択していくことが大切です。

着床しなかった受精卵はどこに行き、どうなりますか?

着床しなかった受精卵は、月経または消退出血とともに体外へ排出されます。

妊娠が成立しなかった場合、厚くなった子宮内膜が剥がれ落ち月経が開始します。ホルモン補充を行っている場合は、薬を中止することで内膜が維持されなくなり消退出血が起こります。

血液に混じった小さな受精卵を肉眼で確認することはできませんが、子宮内膜が作り替えられるサイクルの中で自然に排出されていきます。

着床障害の検査は保険適用されますか?

着床障害が疑われた場合に行われる検査は、すべてが一律に保険適用されるわけではありません。

子宮鏡検査や超音波検査など医師が必要と判断した場合に保険適用で実施される検査もあれば、ERA検査やEMMA/ALICE検査など先進医療として位置づけられている検査もあります。

先進医療は保険適用外の技術として保険診療に上乗せして受けるものであり、先進医療にかかる費用は自己負担となります。

ただし、自治体によっては保険診療による不妊治療と併用して先進医療を受けた場合に、費用の一部を助成する制度を設けている場合があります。制度の有無や条件は自治体によって異なるため、お住まいの地域の情報を確認しましょう。

東京都の助成制度については、以下の記事で解説しています。

院長からのメッセージ

何度移植しても妊娠に至らないとき、「自分の体に何か大きな問題があるのでは」と感じてしまう方は多いです。着床障害という言葉が重くのしかかることもあると思います。

まず整理しておきたいのは、着床障害は「1つの病気」ではなく、「複数の原因が絡み合った状態」だということです。胚の染色体状態・子宮の形や炎症・着床のタイミング・免疫の働きなど、さまざまな要因が考えられます。そのため、どの検査をするかは一人ひとりの状況によって異なります。

子宮内膜受容能検査や子宮内細菌叢検査などの検査は着床障害のアプローチとして注目されていますが、すべての人に有効とは限らず、エビデンスがまだ発展途上のものも含まれています。「やれることはすべてやりたい」という気持ちは理解できますが、必要性・有効性・費用を担当医と整理してから判断することが大切です。

子宮筋腫や慢性子宮内膜炎など、治療で改善が期待できる原因が見つかることもあります。「原因がわからない」まま移植を繰り返すより、一度立ち止まって状態を見直す機会として捉えてもらえると、次のステップが見えやすくなります。

着床障害の原因がまだわかっていない部分は多いですが、対応できることもあります。一人で抱え込まず、現状を一緒に整理していきましょう。

参考文献

1)日本産婦人科医会.16.反復着床不全(RIF)について.日本産婦人科医会ウェブサイト.

2)日本産婦人科医会.1.生化学的妊娠(Biochemical pregnancy)の扱い方.公益社団法人日本産婦人科医会ウェブサイト.

3)標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究. 患者さんのための生殖医療ガイドライン. 令和4年度厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業; 2023.

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