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最終更新日:
2026-08-29

妊娠初期に入ってから、急な眠気やだるさ、つわりのつらさに戸惑い、今までのように仕事ができない自分に、焦りや罪悪感がある方もいるのではないでしょうか。

「休みたいけれど、甘えていると思われたくない」という気持ちで、無理して働き続けてしまうケースも少なくありません。しかし、このような体調の変化は多くの妊婦さんが経験するものであり、体を守るための制度も法律で決められています。

この記事では、妊娠初期に体調が変化する原因、仕事を休んだほうがよい症状の目安、避けた方がよい作業などについて解説します。

妊娠初期に仕事がしんどいと感じるのは自然なこと

妊娠初期は体が大きく変化を始める時期です。「妊娠初期は仕事がしんどい」「仕事に行きたくない」と感じる方もいるかもしれませんが、これは決して特別なことではなく、多くの妊婦さんが経験する自然な体の反応といえます。

厚生労働省が行った調査では、妊娠中に身体的または精神的な症状があったと回答した女性労働者は83.3%という結果がでており1)、妊娠すると何かしらの症状を経験する人がほとんどです。妊娠初期に多くみられる症状としては、つわりのほか、強い疲労感や全身のだるさ、眠気などが知られており、妊娠前と同じペースで仕事を進めるのが難しくなるケースは珍しくありません。

妊娠中の労働生産性の損失割合について調べた研究では、妊娠初期には平均7.39%の生産性損失があるとしており2)、妊娠初期では仕事のパフォーマンスが落ちることは自然なことといえます。

仕事がしんどいと感じるのは、ご自身の頑張りが足りないからではありません。無理をしすぎず、体調に応じて上司や周囲に相談したり、必要に応じて休息を取り入れたりしながら、ご自身のペースで過ごしていくことが大切です。

妊娠初期にしんどい症状が出る原因は?だるいと感じたり、やる気が出ないメンタルになる理由

妊娠初期にしんどいと感じる症状が出る原因は、厳密には症状によっても異なりますが、代表的なものとしてホルモン分泌の変化が挙げられます。

例えば、妊娠初期の疲労感や眠気は、妊娠によるプロゲステロン分泌増加が原因のひとつであることが知られています。プロゲステロンは妊娠前からも分泌されるホルモンであり、眠気のほかにもむくみや食欲増加、イライラなどを引き起こすことが知られています。また、妊娠の成立や継続に大きく関わる役割を持ち、妊娠後は急激に増加するため、疲れた感じやだるさといった体調面の変化、やる気が出ないなどメンタルの症状も含めた変化を感じるケースは少なくありません。

一方で妊娠初期のつわりは、別のホルモンが関与している可能性が知られています。近年では胎児・胎盤由来のGDF15というホルモンの関連が考えられており3)、このホルモンによって吐き気や嘔吐の症状が引き起こされる可能性があります。

ホルモン以外では、子宮が大きくなる影響によって腹痛などの症状が出ることがあり、妊娠初期の症状に対する原因は、妊娠後のさまざまな体の変化が影響しています。

仕事を休んだほうがよい症状の目安

妊娠初期の症状で仕事がつらいと感じる場合、無理をせずに休息をとることが大切です。しかし、実際には「この程度で休んでよいのか」「ほかの人はもっと無理をしているのでは」などと思う人もいるのではないでしょうか。

実際にどのくらいの割合の人が仕事を休んでいるかを調べた調査では、つらかったことがあった人が92%、そのうち仕事を休んだ人が41.9%(調査全体の人数に対しては38.6%)という結果があります4)。この調査は平成19年(2007年)の報告であり、現状では傾向が少し変わっている可能性がありますが、当時でも4割程度の人が経験していることから、妊娠に伴う症状で仕事を休むことは珍しくはありません。

それでも仕事を休むか迷う場合、厚生労働省が作成している「妊娠中の症状等に対応する措置」などを参考にするのもよいでしょう。妊娠初期に関連するものとして、つわりの症状で体重が1週間に2kg前後減少する場合などは、勤務時間の短縮が推奨されています5)

さらに、つわりが悪化した状態(妊娠悪阻)となり、1週間に3~4kgもしくは妊娠前の体重から5%以上の体重減少などがある場合は、休業が推奨され入院が必要なケースもあります6)。このような場合は、体調を優先し仕事を休むようにしましょう。

ほかにも切迫流産と判断される場合などは休業が推奨されます。具体的な症状としては、出血や褐色のおりもの、下腹部の痛みや張りなどがある場合は切迫流産の可能性があるため、受診をするのが安心です。

長く休むことになった場合の傷病手当金

つわりや切迫流産などで長期間仕事を休むことになった場合、健康保険から「傷病手当金」を受け取れることがあります。

連続して4日以上休んだとき、4日目以降について、給与のおおよそ3分の2にあたる額が支給される制度です。「休むと収入がなくなる」と考えて無理を続けてしまう方もいますが、必ずしもそうではありません。

ただし、勤務先の健康保険(社会保険)に加入していることが条件で、国民健康保険には基本的にこの制度がありません。また、配偶者の扶養に入っている場合も対象外です。申請には医師の証明が必要になりますので、休業が必要と感じたら受診の際に相談してください。

詳しい条件や手続きは、加入している健康保険の保険者にご確認ください。

妊娠初期の仕事で気をつけること

妊娠初期の仕事では、身体面・精神面の両方で無理しすぎないことがポイントです。ここでは、仕事での作業における体への負担で注意したい点や、気持ちの負担の面で気をつけたいことをまとめています。

体への負担を減らす

厚生労働省からの委託サイトである「働く女性の心とからだの応援サイト」では、妊娠中または出産後で負担の軽減が推奨される作業の具体例として、以下が紹介されています7)

  • 重量物を取り扱う作業(継続作業6~8kg以上、断続作業10kg以上)
  • 外勤等、連続的歩行を強制される作業
  • 常時、全身の運動を伴う作業
  • 頻繁に階段の昇降を伴う作業
  • 腹部を圧迫するなど不自然な姿勢を強制される作業
  • 全身の振動を伴う作業 等

上記のような負担がかかるような作業は避けるようにしましょう。職場への説明がしにくい場合や、配慮が得られない場合は、「母健連絡カード」を使用することも選択肢のひとつです。「母健連絡カード」は医師などからの女性労働者への指示を職場の事業主に伝えるためのツールです8)

「母健連絡カード」は、男女雇用機会均等法の指針で定められているツールであり、法律上では事業主が勤務時間の変更や勤務の軽減など必要な措置を講じることが義務付けられています9)。母健連絡カードが提出された場合、会社側はその記載内容に沿った対応を行う必要があります。

気持ちの負担を軽くする

身体的な負担だけでなく、気持ちの面でも負担がかからないよう注意が必要です。妊娠初期ではホルモンバランスの変化があり、精神的にも妊娠前の状態からは変化している可能性があります。

また、身体的な負担から仕事が思うようにできないことや、そのことが原因で周りの人に迷惑をかけているのではないか、というストレスを感じてしまうことがあります。妊娠後は仕事のペースを意識的に変えたり、職場での話し合いの場をしっかり持ったりするなど、できる範囲でストレスを感じにくい環境を目指しましょう。

もし妊娠後にストレスや不安が強くなったり、困った状況になった場合、社外の人に相談することも検討しましょう。近親者や友人、かかりつけ医のほか、居住地の役所・保健所の相談窓口なども選択肢となります。

例として、東京都では「妊娠相談ほっとライン」が用意されており、電話・メールいずれでも相談が可能です。(参考サイト:東京都 妊娠相談ほっとライン

妊娠中に働く人を守る法律や制度には何がある?

妊娠中の働き方は、法律によって支えられています。ここでは、通勤や業務内容の負担軽減、残業や危険作業を断れる権利、不利益な扱いからの保護という3つの観点から解説します。

通勤や仕事内容の負担を減らしてもらえる

妊娠中の女性が医師等から指導を受けた場合、その指導を守ることができるようにするため、事業主は措置を講じる必要がある旨が男女雇用機会均等法で定められています。通勤や仕事の負担が大きいと感じ、会社側からなかなか配慮をしてもらえないような場合は、医師に相談してみましょう。

具体的な手順として、通勤緩和や休憩の延長、勤務時間の短縮などの指導を受けたら、その内容を「母健連絡カード」に記載してもらい、会社に提出します。これにより会社は記載内容に応じた措置をとる必要が生じます。

妊婦健診を受けるための時間を確保してもらえる

会社には、妊婦健診を受けるために必要な時間を確保する義務があります(男女雇用機会均等法第12条)。妊娠23週までは4週間に1回、24週から35週までは2週間に1回、36週以降は1週間に1回が目安とされています。

有給休暇を使わなければならないと考えている方もいますが、そうとは限りません。会社の制度がどうなっているか、まずは確認してみてください。

残業や危険な作業を断れる

妊娠中は、労働基準法により、時間外労働や休日労働、22時から5時までの深夜業を請求すれば免除してもらえるほか、体に負担の少ない業務に変えてもらうよう請求することも認められています。

一方、重いものを扱う作業や有害なガスが発生する場所での作業などは、請求の有無にかかわらず、妊娠中でなくてもすべての女性に禁止されています。

妊娠・出産を理由に不利益な扱いを受けない

妊娠・出産や産休・育休の取得を理由にした解雇、パートへの変更強要、雇い止めは、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法で禁止されています。妊婦健診のために仕事を休んだことや、つわり、切迫流産で休んだことを理由に不利益な扱いを受けることも同様です。

妊娠中から産後1年以内の解雇は、原則として無効になるとされています。また、上司や同僚からの心ない言動を防ぐ措置も、会社に義務付けられています。

妊娠初期の仕事に関するよくある質問

Q:妊娠したことをいつ会社に伝えればいい?

A:会社への妊娠報告の時期について、法律上の決まりはありません。

妊娠初期は外見の変化がなく周囲が気づきにくいため、無理をしてしまいがちです。「安定期になってから話そう」と考える人は少なくありませんが、妊娠初期は体調が急に変わることもあるため、早めに伝えておくと何かあったときに相談しやすいでしょう。

Q:残業が続くと、流産のリスクは上がりますか?

A:残業自体が直接の原因で流産に至るとは言い切れません。

日本で行われた調査では、就労している妊婦は就労していない妊婦に比べて出血や下腹部痛などの症状が出る切迫流産のリスクが高い傾向が確認されています。しかし、実際に流産するリスクには明確な差がなかったとしています10)

ほかにも過去の複数の研究を統合した分析では、妊娠中の長時間労働と流産の関連について、明確な因果関係は確認されていません。ただし、週40〜52時間を超えるような労働は流産リスクをわずかに高める可能性がある点と、夜勤を含む働き方ではリスクが高いことが報告されています11)

なお、妊娠初期の流産の多くは受精卵側の要因によるもので、働き方や本人の行動によって防げるものではありません。休業が勧められるのは、症状を悪化させないためであり、「休まなかったから流産した」ということではないという点は知っておいてください。

妊娠初期の流産については、以下の記事でも解説しているのであわせて参考にしてください。

院長からのメッセージ

妊娠が確認できた方の多くが、そのあとすぐに直面するのが仕事との折り合いです。当院に通っておられた方からも、「体がつらいのに、まだ誰にも言えていない」というお話をよく伺います。

まずお伝えしたいのは、妊娠初期のしんどさは気の持ちようではないということです。プロゲステロンをはじめとするホルモンが急激に変化する時期で、眠気やだるさ、吐き気は体に起きている実際の変化です。前と同じように働けないことに、うしろめたさを感じる必要はありません。

そのうえで、覚えておいていただきたい制度がふたつあります。

ひとつは母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)です。医師が記入して職場に提出すると、会社は記載内容に沿った対応をとる義務が生じます。口頭では伝えにくいことも、書類なら伝わります。当院でも発行できますので、必要なときはお声がけください。妊婦健診を受けるための時間を確保することも、会社の義務として定められています。

もうひとつは傷病手当金です。つわりがひどくて長く休まざるを得ないとき、給与の3分の2程度が健康保険から支給される制度があります。「休むと収入がなくなる」と思い込んで無理を続ける方がいますが、そうとは限りません。

不妊治療を経てようやく授かった方ほど、「ここで無理をして何かあったら」という不安と、「休みたいと言えない」という気持ちの間で揺れておられます。どうか一人で抱え込まず、担当の医師に相談してください。

参考文献

1)働く女性の身体と心を考える委員会(監修).働きながら安心して妊娠・出産できる職場づくりのために 中小企業における母性健康管理ガイドブック.平成30年度厚生労働省委託「母性健康管理推進支援事業」,一般財団法人女性労働協会,2019.
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/assets_rn/pdf/chusho/guidebook_h30_all.pdf

2)中村康香,廣田光紀,和田彩,長坂桂子,武石陽子,川尻舞衣子,吉沢豊予子.就労初妊婦における労働生産性とワークエンゲイジメントの特徴─非妊娠女性および妊娠時期と雇用形態による比較─.日本母性看護学会誌.2021;21(2):19-26.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsmn/21/2/21_19/_pdf/-char/ja

3)Fejzo M, Rocha N, Cimino I, et al. GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy. Nature. 2024;625(7996):760-767.
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06921-9

4)女性労働協会. 事業所における妊産婦の健康管理体制に関する実態調査報告書.
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/document/data/0_5_5.pdf

5)厚生労働省. 母性健康管理に関する用語辞典 つわり. 働く女性の心とからだの応援サイト
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/glossary/symptom01.html

6)厚生労働省. 母性健康管理に関する用語辞典 妊娠悪阻. 働く女性の心とからだの応援サイト
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/glossary/symptom02.html

7)働く女性の心とからだの応援サイト. 妊娠中又は出産後の症状に対応する措置.
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/glossary/base08.html

8)働く女性の心とからだの応援サイト. 母健連絡カード.
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/renraku_card/

9)雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律. e-GOV法令検索ウェブサイト
https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113

10)Suzumori N, Ebara T, Matsuki T, Yamada Y, Kato S, Omori T, et al. Effects of long working hours and shift work during pregnancy on obstetric and perinatal outcomes: A large prospective cohort study—Japan Environment and Children's Study. Birth. 2020;47(1):67-79.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7065104/

11)Bonde JP, Jørgensen KT, Bonzini M, Palmer KT. Miscarriage and occupational activity: a systematic review and meta-analysis regarding shift work, working hours, lifting, standing, and physical workload. Scand J Work Environ Health. 2013 Jul;39(4):325-34.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3699369