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最終更新日:
2026-09-18

不妊治療で体外受精などの生殖補助医療(ART)に進み、採卵の日程が決まると、「採卵はどのくらい痛いのだろう」「麻酔はどんな種類があるのだろう」と不安に感じる方もいるのではないでしょうか。

採卵は、卵巣に細い針を刺して卵子を取り出す処置であるため、多くの医療機関では、局所麻酔や全身麻酔(静脈麻酔)、坐薬などを用いて、一人ひとりの状況に合わせた痛みのコントロールが行われています。

この記事では、採卵にともなう痛みの原因や、麻酔の種類とその特徴、採卵後の痛みの経過や過ごし方などを解説します。

採卵とは?痛みがある理由

採卵とは、腟から卵巣に向けて細い針を刺して卵子を採取する(取り出す)処置のことです。不妊治療としての体外受精に先だって行われます。

お腹の中の臓器である卵巣に直接針を刺す処置であるため、とくに麻酔をしない状態では、個人差はあるものの、痛みを感じやすい傾向があります。

そのため、多くの医療機関では、局所麻酔や全身麻酔(静脈麻酔)、坐薬などを用いて痛みを緩和する工夫がされています。

採卵の痛みへの対策

多くの医療機関では、採卵の痛みを和らげるために、局所麻酔や全身麻酔(静脈麻酔)などを使い分けたり、細い針を使ったりといった対処をしています。ここでは、麻酔の種類ごとの特徴と、針の太さによる痛みの感じ方の違いを解説します。

麻酔の種類について

採卵の際に用いられる麻酔の方法には、局所麻酔と全身麻酔(静脈麻酔)があります。

まず局所麻酔とは、子宮と腟に麻酔薬を注射し、痛みを軽減する方法です。採卵数が少ない場合などに推奨され、意識がはっきりした状態で処置を受けます。採卵後の休憩時間が短時間になるのも特徴です。

一方、全身麻酔(静脈麻酔)は腕に入れた点滴から眠くなる薬を投与し、眠っている状態で処置を受けます。採卵数が多い場合などに選ばれやすく、痛みや恐怖心を感じません。採卵そのものは5〜15分程度で終了しますが、術後は1〜3時間ほど安静が必要です。

採卵数が少ない場合には、患者さんの希望に応じて麻酔を使用せずに採卵を行うこともあります。

また、麻酔とあわせて、あるいは麻酔を使わない場合に、鎮痛薬の坐薬を用いることがあります。処置の前に挿入することで痛みを和らげる方法で、採卵数が少ない場合などに選択されます。

このように、痛みを和らげる方法は一人ひとりの状況に合わせられるよう複数の選択肢が用意されています。安全に採卵を受けることができるよう、事前に医師と相談しながら決めるようにしましょう。

なお、麻酔はいずれの方法にも一定のリスクがあります。静脈麻酔では、薬の影響で一時的に呼吸が浅くなったり、血圧が下がったりすることがあるため、処置中は酸素や血圧を継続的に確認しながら行います。吐き気やふらつきが残ることもあります。局所麻酔や座薬でも、まれに薬に対するアレルギー反応が起こることがあります。

いずれも頻度は高くありませんが、持病やアレルギーのある方、過去に麻酔で具合が悪くなったことがある方は、事前に必ずお伝えください。

ORINAS ART CLINICの採卵術の流れや麻酔の使い分けについては、以下のページをご覧ください。

針のサイズについて

採卵で使用する針の太さは、痛みの感じ方に影響することがわかっています。

海外で行われた95名を対象とした研究では、通常サイズの針(16ゲージ)と先端が細い針(先端20ゲージ・根元17ゲージ)を比較したところ、細い針を使用したグループのほうが、処置中・処置後ともに痛みのスコアが有意に低かったと報告されました1)。(ゲージ数が少ないほど太い針です。)

また、同研究では、治療成績にも両群で大きな差はみられなかったとされています1)。一方、統計的に有意な差ではないものの、細い針のグループでは採卵できた卵子の割合がやや低い傾向もみられています。

採取される卵子は、周囲を卵丘細胞という細胞の層に包まれた状態で吸引されます。この卵丘細胞—卵子複合体は、17ゲージの針の内径に対して4分の1以上の大きさがあるとされており、針の中をまっすぐ通り抜けることができず、内壁に接触しながら移動します。針が細いほど、卵子を包む細胞層を剥がしたり、卵子の殻にあたる透明帯を傷つけたりする可能性が高くなることが指摘されています。また、細い針で吸引するには、より強い圧力が必要になりますが、吸引圧が高くなるほど乱流が生じやすく、これも卵子への負担につながります。

実際に、過去の文献を整理した総説では、太い針と高い吸引圧を用いたほうが卵子の回収率は高くなるものの、その代償として卵丘細胞—卵子複合体が傷つきやすくなると指摘されています。細い針では痛みや出血が少ない反面、処置に時間がかかることも報告されています2)

つまり、針の太さは「細いほどよい」というものではなく、患者さんの負担と卵子への影響のあいだでバランスを取るものです。どの針を使うかは、卵胞の数や過去の採卵の経過なども踏まえて、医療機関が判断しています。

採卵の痛みの程度は?経験者への調査と個人差の影響

採卵の痛みは個人差が大きいものの、麻酔を使わずに行った場合の海外の報告が参考になります。

この調査は、麻酔を使わずに実施された採卵を対象に、痛みを0(痛みなし)から10(耐えられないほどの痛み)までの数値で評価したものです。1〜3点を軽度、4〜6点を中等度から強い痛み、7〜9点を非常に強い痛みと区分したところ、採卵の痛みの中央値は3点(軽度の痛み)でした3)

また、採取した卵子が1個の場合と比べ、2〜5個では0.42点、6個以上でも1.1点高くなる程度でした3)。ただし、この調査は麻酔なしの採卵に同意し、採取する卵胞の数が少ない方を対象にした報告のため、麻酔を使用する場合や採卵数が多い場合には、痛みの感じ方が変わることもあります。

実際に、別の調査では、痛みの感じ方には個人差があり、採取する卵胞の数が多い方や子宮内膜症がある方、出産経験がない方などは痛みを感じやすいとの報告もあります4)

「思ったより痛くなかった」「泣くほど痛かった」と声が分かれるかもしれませんが、痛みの感じ方には個人差があり、さらに麻酔の有無や採卵する卵胞の数によっても変わります。ご自身の状況に合わせて痛みを和らげる方法を医師とともに検討しましょう。

採卵後の痛みはいつまで?|痛みのピークと経過について

採卵の処置の中でも痛みを感じやすいのは、針が腟壁を貫通するタイミングと考えられています3)

採卵後の痛みの経過としては、軽い下腹部の痛みや張りを感じることがありますが、多くの場合は1〜2日程度で自然に落ち着く傾向にあります。

ただし、まれに採卵術後の出血や感染、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などが起こるケースがあります。

お腹の痛みが続く、強い痛みがある、悪化する、発熱がある、息苦しさなどがある場合には、すぐに医療機関を受診しましょう。

採卵後の過ごし方と痛みを長引かせないコツ

採卵を受けた場合、術後は体がしっかり休息をとれる環境が大切です。

とくに静脈麻酔で鎮静薬を使用した場合は、薬の影響が完全に抜けるまでは、めまいやふらつきが残ることもあります。無理に動かず、指示があるまではゆっくり休みましょう。

帰宅後も、当日は激しい運動や長時間の外出は控え、できるだけ体を休める時間を確保しましょう。

また、静脈麻酔で鎮静薬を使用した日は判断力や反応が鈍くなっていることがあるため、車の運転は控えるようにしてください。

しっかり休養をとることを優先し、ご自身のペースで過ごすことを心がけましょう。

その他の採卵に関連する痛みについて

採卵までの過程において痛みを伴う可能性のある処置等についても整理しておきます。

ホルモンの状態を確認する上では、一般的な採血も実施します。また、卵子を育てるために使用する排卵誘発剤では、注射剤も使用することがあります。注射針の痛みが苦手な場合は、事前に伝えておくようにしましょう。

そのほか、卵巣の状態を確認するための経腟超音波検査は、機器を腟内に挿入するため、違和感があるかもしれません。一般的には痛みの少ない検査とされていますが、まれに子宮内膜症や癒着があると痛みを感じるケースがあります。

いずれも事前に伝えておくことで、処置する際に配慮を受けられることがあるため、痛みが心配な場合は、あらかじめ医療機関に相談しておくとよいでしょう。

院長からのメッセージ

採卵を控えた方から「どれくらい痛いですか」と聞かれると、正直なところ答えに迷います。個人差が大きいうえに、麻酔の方法や取れる卵胞の数によっても痛みの感じ方は変わるからです。ただ、ひとつ言えるのは、痛みへの対応は選べるということです。

麻酔を使わない採卵について調べた大規模な研究では、卵胞の数が少ない場合、痛みの程度は10段階で中央値3という結果でした。これは「軽い痛み」に分類される範囲です。一方で、卵胞が多い方、子宮内膜症のある方では痛みを感じやすいことも報告されています。どちらに近いかは、採卵決定時に卵巣の状態を見ればある程度わかります。それに応じて適切な麻酔を選ぶことで痛みの感じ方を最小限にすることが出来ます。

針の太さについても、よくご質問をいただきます。細い針のほうが痛みは軽くなりますが、卵子は周りの細胞に包まれた状態で針の中を通るため、細すぎると卵子側に負担がかかる可能性があります。また細い針での採卵は吸引にも時間がかかるため、トータルの採卵時間が長くなります。このように針の選択一つとっても、痛みだけを基準に決められるものではなく、卵子への影響との兼ね合いで選んでいます。

痛みが怖くて採卵に踏み切れない、という方もいらっしゃいます。その気持ちは当然のものです。ただ、痛みの感じ方は事前の不安の強さにも左右されることがわかっています。何がどう行われるのかを知っておくだけでも、当日の負担は変わってきます。

麻酔の希望、過去に麻酔で具合が悪くなった経験、痛みに対する不安。どれも遠慮なくお話しください。決めるのは一緒でかまいません。

参考文献

1)Buisman ETIA, et al. Effect of needle diameter on pain during oocyte retrieval—a randomized controlled trial. Fertility and Sterility. 2021;115(3):683-691.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7563574/

2)Rose BI. Approaches to oocyte retrieval for advanced reproductive technology cycles planning to utilize in vitro maturation: a review of the many choices to be made. J Assist Reprod Genet. 2014;31(11):1409-1419.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25212532/

3)Magaton IM, et al. Oocyte retrieval of few follicles does not require analgesia: a large-scale multicentre pain analysis. Reproductive BioMedicine Online. 2025;50(3):104696.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40000363/

4)Buisman ETIA, et al. Pain scores during oocyte retrieval for IVF/ICSI: A retrospective cohort study comparing three different analgesia protocols. Journal of Gynecology Obstetrics and Human Reproduction. 2022;51(6):102394.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35487403/