質の高い卵子を育て、痛みなく採取する。ARTの第一歩。
体外受精(ART)の成功の鍵を握るのは、実は「受精」の前段階にある「卵巣刺激(卵子を育てること)」と「採卵(卵子を採り出すこと)」です。
不妊治療を山登りに例えるなら、採卵は「山頂にある卵子を、安全に麓(ふもと)まで降ろしてくる」ための極めて重要なプロセスです。
精子が自力で山頂まで登るのが難しいなら、私たちが卵子を迎えに行き、地上(培養室)で出会わせてあげればいいのです。この発想の転換こそが、生殖補助医療の核心です。
お一人おひとりの卵巣の状態(AMH)に合わせて最適な方法で卵子を育て、一番良いタイミングで体の外へ取り出す。このプロセスがうまくいけば、その後の受精・培養・移植の成績も自然と向上します。
ORINAS ART CLINICでは、体に負担の少ない刺激法から、一度に多くの卵子を確保する高刺激法まで、あなたにベストな計画を提案します。また、採卵時の「痛み」にも徹底的に配慮しています。
Step 1:卵巣刺激(卵子を育てる)
通常の月経周期では、1ヶ月に1個しか卵子は排卵しません。
しかし、体外受精では妊娠率を高めるために、排卵誘発剤(飲み薬や注射)を使って、一度に複数の卵子を育てることが一般的です。
あなたに合った「刺激法」を選びます
「注射は痛そうだから嫌」「なるべくたくさん採りたい」など、ご希望や体質(AMH値)に合わせて調整します。
| 刺激法 |
特徴 |
向いている方 |
| 高刺激法 (アンタゴニスト法、PPOS法、ショート法) |
【メリット】 一度に多くの卵子(10個前後〜)が採れるため、1回の採卵で凍結胚まで確保できる可能性が高く、妊娠率が最も高い方法です。 【デメリット】 注射の回数が多く、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクがやや高まります。 |
AMHが高く、比較的若い方。 短期間で結果を出したい方。 第2子の分まで貯卵したい方。 |
| 中〜低刺激法 (飲み薬+注射少なめ) |
【メリット】 体への負担や通院回数が少なく、費用も抑えられます。 【デメリット】 採れる卵子の数は少なめ(3〜5個程度)です。 |
AMHが平均的〜やや低い方。 仕事が忙しく通院を減らしたい方。 注射が苦手な方。 |
| 自然周期法 (完全自然・飲み薬のみ) |
【メリット】 体への負担が最も少ない方法です。 【デメリット】 採れる卵子は1〜2個で、採卵キャンセル(排卵済みなど)のリスクもあります。 |
AMHが低い方。 高刺激で良い結果が出なかった方。 体への負担を極限まで減らしたい方。 |
当院で使用する主な薬剤
採卵周期では、人工授精よりも強力な薬剤を使用することがあります。
「育てる」「抑える」「熟成させる」という3つの役割を組み合わせ、採卵までのスケジュールをコントロールします。
1. 卵子を育てるお薬(排卵誘発剤)
卵胞を大きく育て、卵子の数を増やします。
| 薬剤名 |
特徴 |
| ゴナールエフ |
【注射】 世界で広く使われているFSH製剤です。ペン型で自己注射がしやすく、微量な単位調整が可能です。卵胞発育を安定してサポートします。 |
| レコベル |
【注射】 最新の遺伝子組換えFSH製剤です。患者様の「AMH値」と「体重」に基づいて、最適な投与量が決まるペン型注射です。過剰刺激のリスクを抑えつつ、適切な数の卵子を確保することを目指します。 |
| hMG / FSH |
【注射】 卵巣を刺激するホルモン(FSHやLH)を含んだ注射剤です。様々な種類があり、卵巣の反応性に合わせて使い分けます。 |
| フェマーラ / クロミッド |
【飲み薬】 低刺激法などで使用します。注射と併用することで、注射の量を減らす効果もあります。 |
2. 勝手な排卵を防ぐお薬(排卵抑制剤)
卵子が十分に育つ前に排卵してしまう(キャンセルになる)のを防ぐためのお薬です。刺激法によって使い分けます。
| 薬剤名 |
特徴 |
| デュファストン ヒスロン |
【飲み薬】 「PPOS法」という刺激法で使用します。飲み薬で排卵を抑えられるため、通院や注射の負担が少ないのが特徴です。黄体ホルモン剤。 |
| ルトラール |
【飲み薬】 「PPOS法」という刺激法で使用します。強力な黄体ホルモン剤で、しっかりと排卵を抑制します。※自費診療のみでの使用となります。 |
| ガニレスト セトロタイド |
【注射】 「アンタゴニスト法」で使用します。卵胞が大きくなってから数回注射し、即効性のある排卵抑制効果を発揮します。GnRHアンタゴニスト製剤。 |
| スプレキュア (ブセレリン) |
【点鼻薬】 「ショート法」や「ロング法」などで使用します。毎日点鼻することで、自身のホルモン分泌を調整し、予期せぬ排卵を抑えます。(※トリガーとして使う場合とは作用機序が異なります)GnRHアゴニスト製剤。 |
| レルミナ |
【飲み薬】 注射のガニレストと同様の効果を飲み薬で得られます。即効性があり強力に排卵を抑えます。GnRHアンタゴニスト製剤。※自費診療のみでの使用となります。 |
3. 卵子を成熟・排卵させるお薬(トリガー)
採卵の36時間前(2日前)に使用し、卵子の最終的な成熟(受精できる状態にすること)を促します。
| 薬剤名 |
特徴 |
| オビドレル(HCG) |
【注射】 卵胞に直接作用して、確実に卵胞の最終的な成熟を促します。リコンビナントhCG製剤。 |
| スプレキュア (ブセレリン) |
【点鼻薬】 卵胞成熟をさせるホルモンの分泌を促すことで、間接的に卵胞の最終的な成熟を促します。より自然な形でのホルモン分泌が期待できるため、OHSSリスクがある場合などに使用します。GnRHアゴニスト製剤。 |
Step 2:採卵術(卵子を採り出す)
卵子が十分に育ったら、いよいよ採卵です。
超音波モニターを見ながら、腟内から卵巣に向けて細い針を刺し、卵胞液ごと卵子を吸引します。
「痛み」への配慮
当院では、採卵数や患者様のご希望に合わせて麻酔を使い分け、「眠っている間に終わる」「痛くない」採卵を心がけています。
- 静脈麻酔: 点滴で眠くなるお薬を使います。完全に眠っている間に終わるため、痛みや恐怖心を感じません。(※採卵数が多い場合におすすめ)
- 局所麻酔: 子宮と腟に麻酔をします。意識はありますが、針を刺す痛みは軽減されます。(※採卵数が少ない場合など)
- 無麻酔: 無麻酔で行うことも可能です。最も短時間で終わり点滴なども不要なため負担が少なく、採卵数が少ない場合には痛みも最小限です。
手術の時間と流れ
- 所要時間: 採卵自体は5分〜15分程度で終了します。
- 安静: 術後は院内のリカバリールーム(ベッド)で1〜2時間ほどお休みいただき、体調に問題がなければ帰宅できます。局所麻酔や無麻酔の場合、休憩時間は短時間で大丈夫です。
リスクと副作用:OHSS(卵巣過剰刺激症候群)
卵巣刺激によって多数の卵胞が育つと、卵巣が腫れてお腹に水が溜まる「OHSS」という副作用が起こることがあります。
重症化すると入院が必要になることもありますが、当院では以下の対策でリスクを最小限に抑えています。
- AMHに基づいた薬剤調整: 事前にリスクを予測し、薬の量を調整します。
- 全胚凍結の推奨: 採卵した周期には移植せず、一度すべての受精卵を凍結して卵巣を休ませることで、OHSSの重症化を防ぎ、妊娠率も高めます。
- トリガー(排卵させる薬)の工夫: OHSSのリスクが少ないお薬(GnRHアゴニスト点鼻薬)を使用します。
- 予防薬の処方(カベルゴリン): OHSSのリスクが高いと判断された場合、血管の透過性を抑えて腹水が溜まるのを防ぐお薬(カベルゴリン)を処方します。