ピルを処方された方のなかには、副作用について不安に感じる方もいるのではないでしょうか。インターネットで血栓症が起こる可能性があると知ると、怖くなってしまいますよね。
ピルは女性ホルモンを含む薬であり、ホルモンの作用によって吐き気や不正出血などのマイナートラブルが起こることがあります。さらにごく稀な副作用として血栓症があります。
血栓症はごく稀な副作用ではありますが、放置すると重大な結果に繋がりうるものですので、万が一の際に適切に対応できるよう初期症状を把握しておくことが大切です。
この記事では、ピルの分類を整理したのち、比較的よく起こる副作用と注意が必要な副作用、血栓症の兆候・起こる確率・予防のために意識したいポイントについて解説します。
副作用の傾向はピルの分類によって異なる
ピルには、低用量ピル・超低用量ピル・中用量ピル・アフターピルなどがあり、それぞれ含まれる成分の組み合わせや服用方法、用途が異なります。
低用量ピル・超低用量ピル・中用量ピルは、エストロゲンと合成黄体ホルモン(プロゲスチン)を組み合わせた薬であり、含まれているエストロゲン(主にエチニルエストラジオール)の量によって以下のように分類されています。
- 中用量ピル:エチニルエストラジオール50μg
- 低用量ピル:エチニルエストラジオール30μg程度
- 超低用量ピル:エチニルエストラジオール20μg程度
副作用の出方には個人差があるものの、このエストロゲン量の差によって副作用の傾向にも違いがみられます。
ピルの代表的な副作用である吐き気や頭痛などは、エストロゲンの量に依存して生じやすい症状のため、低用量ピルよりも中用量ピルで現れやすい傾向があります。超低用量ピルは、エストロゲンをさらに減らすことで、副作用を軽減する目的で開発された薬です。
一方、エストロゲンの量が少ないと子宮内膜を維持する力が弱いため、低用量・超低用量ピルでは不正出血が現れやすくなります。
本記事では、低用量ピル・超低用量ピルを中心に副作用を解説していきます。プラノバールなどの中用量ピルの副作用については、以下の記事をご覧ください。
低用量ピル・超低用量ピルの主な副作用
低用量ピル・超低用量ピルの副作用には、比較的よく起こる症状とごく稀ではあるものの注意が必要な症状があります。それぞれで適切な対処法が異なるため、特徴を整理しましょう。
比較的よく起こる副作用:不正出血・吐き気・頭痛など
低用量ピル・超低用量ピルでは、以下のような症状がみられることがあります。
- 不正出血
- 吐き気・むかつき
- 頭痛・倦怠感
- むくみ・乳房の張り
これらは飲み始めに多くみられるものの、時間とともに軽減していく傾向があります。
例として、ルナベル配合錠LDの臨床試験では、副作用発現率が以下のように推移したことが報告されています。
<ルナベル配合錠LDの副作用発現率(月経困難症患者を対象とした国内比較試験)1)>
なかでも不正出血は低用量・超低用量ピルで比較的よくみられる副作用です。ルナベル配合錠LDにおいても服用初期に多くの方が経験していますが、服用を続けるうちに軽減していく傾向がうかがえます。
出血すると不安になる方もいるかもしれませんが、少量であればまずは様子をみましょう。飲み飛ばすとかえって出血しやすくなるため、自己判断で中断しないことが大切です。出血量が多い場合は、念のため医師に相談してください。
吐き気や頭痛もピルで起こりやすい症状ではあるものの、通常これらも一時的な症状です。体が薬に慣れると次第に軽減していくため、まずは3周期程度を目安に様子をみましょう1)。
生活に支障をきたす場合や、3周期を過ぎても症状が続く場合は医師に相談してください。薬の種類や、エストロゲン量を変更することが検討されるケースもあります。
ごく稀だが注意が必要な副作用:血栓症
ピルの副作用で注意すべきものとして、血栓症があります。血栓症とは、血管の中に血のかたまりができる病気です。
血栓症は大きく静脈血栓塞栓症と動脈血栓症に分類されます。
- 静脈血栓塞栓症:下肢などの深い静脈に血栓ができる(深部静脈血栓症)、血栓が流れて肺動脈を詰まらせる(肺血栓塞栓症)
- 動脈血栓症:血栓により動脈が詰まる(脳梗塞や心筋梗塞など)
エストロゲンには血液を固まりやすくする作用があり、服用していない方と比べてこれらの血栓症リスクがやや高まることがわかっています。
発症する確率は低いものの、万が一兆候があらわれたときに適切に対応できるよう初期症状を理解しておくことが重要です。
血栓症の初期症状
血栓症を疑う兆候は、症状の頭文字を用いて「ACHES(エイクス)」で整理されることがあります。
足の静脈に血栓ができた状態を「深部静脈血栓症」といいます。片方の足全体やふくらはぎが急激に赤く腫れあがり、痛みが現れるのが特徴です。
下肢にできた血栓によって肺の血管が詰まると(肺血栓塞栓症)、息苦しさや鋭い胸の痛みなどが引き起こされます。これらの症状が起こった場合、すぐに医療機関を受診し医師の診察を受けてください。
激しい頭痛や意識がもうろうとする状態は、脳の血管に血栓が生じている可能性を示すものです。ただちに救急外来を受診してください。
血栓症は、服用開始から4か月以内に発症しやすいとされています2)。そのため、自己判断で服用を中断したり再開したりすることは避けてください。中断と再開を繰り返すと、リスクの高い時期を何度も作ることになります。副作用がつらい場合も、まずは医師に相談してください。
ピルで血栓症が起こる確率
実際に低用量ピルの服用によって血栓症が起こる頻度は、決して高くありません。
生殖年齢にある女性が低用量ピルを服用した場合、静脈血栓塞栓症の発症頻度は年間10,000人あたり3〜9人とされています2)。
低用量ピルを服用していない方に比べると発症頻度はやや高いものの、割合にすると年間0.03〜0.09%です。産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2023では、以下のような頻度が紹介されており2)、妊娠中や産後の時期と比べてもはるかに低い頻度であることがわかります。
血栓症の副作用が心配で服用をためらう方もいるかもしれませんが、発症頻度を正しく理解し不安を抱えすぎないことも大切です。
実際の発症リスクは、個々の生活習慣や体質、年齢などによって大きく異なります。副作用が出やすい特徴に当てはまらないかをあらためて確認しておきましょう。
ピルによる副作用が出やすい人
ピルを服用する際に注意が必要な背景として、年齢や喫煙習慣、肥満などの体質、現在かかっている病気などが挙げられます。
<服用が禁忌(使用不可)または慎重投与となるケース(一部)2)>
これらに該当する場合、血栓症を含む副作用リスクが高まる可能性があります。このため医師は、問診や検査によってピルを安全に服用できるかを判断したうえで処方しています。
すでにピルの処方を受けた方は、念のため該当する項目がないか確認してみてください。医師に伝えていない項目がある場合、あらためて治療方針を判断してもらいましょう。自己判断で継続したり中止したりせず、気づいた時点で医師の指示を仰ぐことが大切です。
血栓症の早期発見と予防のために|ピル服用中に意識したいこと
ピルによる血栓症を防ぐために、まず注意したいのが喫煙習慣です。喫煙は、ピルの服用に関わらず心臓や血管の病気のリスクを高める重大な要因です。
喫煙している状態でピルを服用すると、血栓の発症リスクが相乗的に高まる可能性があります。喫煙している方は必ず医師に申告してください。
そのうえで、ピル服用中は血栓症の兆候に注意しながら、発症リスクを高めない生活習慣を心がけましょう。
血栓症の兆候に注意する
血栓症を早期に発見するために、初期症状を十分に把握しておきましょう。「ACHES」をもとに起こりうる症状を整理し、兆候が現れた場合は速やかに受診してください。
ピルが処方されると、薬とともにメーカーが作成している「患者携帯カード」を交付してもらえる場合があります。患者携帯カードには、ピル服用中の注意点がまとめられています。気になる体調変化があったときに、カードに記載されている目安と照らし合わせてみてください。
患者携帯カードには、自分がピル服用中であることを医療従事者に知らせる役割もあります。服用状況は医師が血栓症の可能性を踏まえて診察するうえで欠かせない情報です。
婦人科以外の診療科を受診する際は、必ずカードを提示してください。万が一うまく話せないような緊急事態になった場合にも服用状況を伝えられるよう普段から携帯しましょう。
もしカードが手元にない場合は、薬を受け取った医療機関または薬局に問い合わせてください。
こまめに体を動かす・水分をとる
長時間同じ姿勢でいると血栓症が起こりやすくなります。デスクワークが多い場合は、定期的に立ち上がって歩いたり、その場で足踏みしたりしましょう。
長距離のフライトや車移動などで立ち上がることが難しい場合には、座ったままかかとを上下に動かしたり足首を回したりするとよいでしょう。1時間ごとに3〜5分程度が目安です。
こまめに水分をとることも重要です。脱水になると血液が濃縮し、血栓ができやすくなります。のどが渇く前に意識して水分補給してください。
定期的に医師の診察・検査を受ける
ピル服用中は定期的に受診し、服用を続けて問題ないか医師に確認してもらいましょう。
処方時には問題がなかった場合でも、年齢や血圧の推移、体調変化などによりピルの服用が適さなくなるケースもあります。医師は、問診や血圧測定、体重測定などにより、ピルを安全に継続できる状態かを都度判断します。
定期的な診察・検査は、病気の状態を確認するうえでも重要です。半年〜1年に1回は血液検査のほか、乳房・腹部の検査、子宮や卵巣の超音波検査、子宮頸部の細胞診を受けることが推奨されています。
対面診療・オンライン診療を問わず、定期的に体の状態を確認してもらいましょう。
ピルの副作用についてよくある質問
ピルの副作用についてよく寄せられる質問に回答します。
Q:ピルを服用すると太りやすくなるのですか?
A:ピルを服用すると体重が増えたと感じる方もいますが、脂肪が直接増えるという医学的な根拠はありません。
ただし、エストロゲンには体内に水分やナトリウムを貯め込む作用があり、むくみの影響で体重が増えたように感じる場合があります。また、黄体ホルモンの影響で食欲が増すこともあり、それが体重増加につながるケースも考えられます。ピルの種類ごとに出現する副作用の傾向は異なるため、気になる症状がある場合は医師に相談してください。
過度に心配する必要はありませんが、急激な体重増加やあまりにもむくみがひどい場合は、念のため医師に相談してください。
Q:副作用が心配な場合も、ピルを服用したほうがよいでしょうか?
A:月経困難症や子宮内膜症など治療目的によっては、まずは医師の指示のもと服用することが望ましい場合もあります。
ピルの処方は、治療によって得られるメリットと副作用のリスクを照らし合わせて判断されます。特に血栓症については実際の発症頻度は高くはないため、メリットが上回ると判断される場合もあります。
副作用には個人差があり、実際に服用してみなければ現れるかどうかわからない部分もあります。症状が気になっても続けるうちに軽減する場合も多いため、まずは服用して様子をみるのも方法のひとつです。吐き気や頭痛については、薬の種類や用量を変更することで軽減されるケースもあります。
どうしても抵抗がある場合は、ひとりで悩まず医師に相談してください。
Q:ピルを長く飲んでいると、妊娠しにくくなりますか?
A:そのような事実は確認されていません。
22の研究・約15,000人を対象とした解析では、避妊法をやめてから12か月以内に妊娠した方の割合は約83%と報告されています。この割合は、ホルモン法と子宮内避妊具などの他の方法との間で差がなく、ピルを服用していた期間の長さによっても変わらないことが示されています3)。
服用をやめた直後の数か月間は、周期が整うまで少し時間がかかる方もいますが、一時的なものです。長期の服用が妊娠のしやすさを損なうという根拠はありません。
なお、月経困難症や子宮内膜症の治療としてピルを使用している場合、服用を続けること自体が病気の進行を抑えることにつながります。妊娠を希望する時期については、自己判断で中止せず担当医とご相談ください。
院長からのメッセージ
外来で「ピルを長く飲んでいたのですが、妊娠しにくくなっていませんか」と尋ねられることがよくあります。結論からお伝えすると、その心配は不要です。避妊法をやめた女性を対象とした研究をまとめた解析では、中止から12か月以内におよそ8割の方が妊娠しており、服用していた期間の長さによる差も認められていません。ピルを飲んでいた年数が妊娠のしやすさを左右することはありません。
むしろ逆の側面もあります。月経困難症や子宮内膜症でピルを使っている方の場合、ピルは症状をやわらげるだけでなく、病気の進行を抑える役割も担っています。子宮内膜症は妊娠のしにくさに関わる病気ですので、将来の妊娠を考えている方にとって、治療を続けること自体に意味があります。「妊娠したいから今のうちにやめておこう」という自己判断は、かえって遠回りになることがあります。
血栓症については、この記事にあるとおり頻度は決して高くありません。ただ、飲んだり飲まなかったりを繰り返すことは避けてください。血栓症のリスクは飲み始めの数か月に高く、中断と再開を繰り返すと、その高い時期を何度も作ることになります。また、喫煙されている方は必ず申告してください。ピルと喫煙が重なると、リスクは大きく上がります。
参考文献
1)ノーベルファーマ株式会社. ルナベル配合錠 安全性の概括評価. 医薬品医療機器総合機構ウェブサイト.
https://www.pmda.go.jp/drugs/2013/P201300063/620095000_22500AMX008350_G100_1.pdf
2)日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編 2023.
3)Girum T, Wasie A. Return of fertility after discontinuation of contraception: a systematic review and meta-analysis. Contracept Reprod Med. 2018;3:9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30062044/




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