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最終更新日:
2026-08-31

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、月経不順や排卵障害、多毛、にきびなどの症状がみられる疾患です。ストレスやうつ、不安などのメンタルヘルスとの関連も報告されており、「ストレスがPCOSの原因になるの?」「PCOSだと精神的に不安定になりやすいの?」と気になる方もいるのではないでしょうか。

現時点では、ストレスがPCOSの原因になることは明らかになっていません。一方で、PCOSの方はうつや不安などの精神的な不調を抱えやすいことが知られています。

この記事では、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とストレスの関係やメンタルヘルスへの影響、治療法などについて詳しく解説します。

なお、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の名称は、PMOS(日本語訳で「多内分泌代謝性卵巣症候群」)に改称されることで国際的合意がされたことが2026年5月に発表されています1)。今後日本の医学界での正式名称が発表される可能性があります。本記事ではなじみのある「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」という表記を使用しますが、今後はPMOSという名称が広まる可能性があります。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?原因と主な症状

日本では、①月経周期の異常、②超音波検査で卵巣に小さな卵胞がたくさん見えること(またはAMHという血液検査の値が高いこと)、③男性ホルモンが高い、多毛などのアンドロゲン過剰の症状がある、あるいはLHというホルモンが高いこと——この3つすべてが当てはまる場合に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されます。国際的には3つのうち2つが当てはまれば診断とする基準が使われており、日本の基準はやや厳格です。

この3つはいずれも、体の中のホルモンバランスの乱れ(黄体化ホルモンの分泌パターンや、インスリンの働きにくさなど)が引き起こした結果です。超音波で卵巣が「多嚢胞性」に見えるのも、この病気の原因ではなく、ホルモンバランスの乱れによって現れた1つのサインにすぎません。

多嚢胞性卵巣症候群という診断は、いくつかの検査結果を組み合わせて判断されるものです。そのため、同じ診断名であっても、実際にあらわれる症状の程度や困りごとは人によって異なります。

具体的な原因や症状の詳細については、次の項目で詳しく解説していきます。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因は、現時点ではっきりと解明されていません。ただし、ホルモンバランスの乱れや遺伝的要因などが複合的に関わっていると考えられています。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、排卵を促す黄体形成ホルモン(LH)の分泌が過剰になり、もう一つの卵胞刺激ホルモン(FSH)とのバランスが崩れることで、卵胞のサイクルが乱れやすくなります。

また、前述のように男性ホルモン(アンドロゲン)も分泌が過剰になり、排卵を妨げ、月経不順やにきび、多毛などを引き起こします。さらに、血糖値を調整するホルモンであるインスリンの働きが十分でない「インスリン抵抗性」があると、男性ホルモン(アンドロゲン)を増加させる要因となります。

このほか、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は血縁者間でみられやすい傾向もあることから、体質的な背景も一因と考えられているのが現状です。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の主な症状

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の主な症状は以下のとおりです。

  • 月経不順、排卵障害
  • 不妊症
  • 多毛、にきび
  • 肥満、体重増加など

症状の現れ方には個人差があり、特に症状がないタイプ、排卵障害が中心のタイプ、男性ホルモンによる多毛やニキビが起きるタイプなどさまざまです。

特に、日本人では月経不順や排卵障害が中心で、多毛や体重増加といった男性ホルモンによる影響は比較的少ないとも言われています。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)はストレスと関係ある?原因との関連と精神状態に与える影響

現状では多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因にストレスが関わっていることは確認できていません。

これまでの研究で、ストレスに伴う交感神経の働きが卵巣機能に影響し、排卵の乱れや卵巣の嚢胞形成に関与する可能性が報告されていますが2),3)、これらは主に動物実験や限られた研究に基づく内容であり、人において因果関係が確立されているわけではありません。

先述の通り、多嚢胞性卵巣症候群の原因は現在でも明確になっていない部分があり、ストレスが影響を与える可能性があるか結論が出ていない段階といえます。

一方で、多嚢胞性卵巣症候群によってストレスを感じたり、精神状態に影響を与える可能性が知られています。

多嚢胞性卵巣症候群とメンタルヘルス・うつ病

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、多毛症や月経不順、不妊症といった身体的な症状に加えて、女性にとって心理的な負担も感じやすい疾患です。こうした負担が積み重なり、うつ病や不安といった精神症状のリスクが高まる傾向にあることが知られています。

例えば、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方を対象とした30件の研究を統合した調査では、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方はそうでない方と比べて、中等度から重度のうつ症状がみられる割合が約4倍高く、不安症状がみられる割合が約6.5倍高いことが報告されています4)

また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断された70名を対象とした海外の研究では、不安症の有病率は38.6%、抑うつ症の有病率は25.7%にのぼりました3)。特に、不妊や脱毛症は不安と、ニキビはうつ傾向に関連しているとされています5)

また、57件の研究をまとめた別の調査では、うつや不安に加えて、双極性障害や強迫性障害のリスクもやや高まることが報告されています6)

このように、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では精神的な不調やメンタル面の落ち込みを抱えやすい傾向があり、疲れやすさや気力の低下として表れることもあります。

精神的な不調が症状の悪化につながるケースも指摘されているため、身体面だけでなく心の状態にも目を向けたケアも重要です。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は治る?状況に応じた改善など

「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は治るのか」「治すにはどうすればいいのか」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。

現段階では多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は完全に治すことは難しいとされており、一人ひとりの症状や状況に合わせた治療で管理していく病気です。

一方で、生活習慣の見直しなど多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に関連する症状の改善やコントロールのために自分自身で取り組める対策もあります。

ここでは、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療として「妊娠を希望する場合」と「妊娠を希望しない場合」に分けて、それぞれ解説します。

妊娠を希望する場合の治療

妊娠を希望する場合は、排卵誘発薬などを用いて排卵を促す治療が中心です。

近年は、レトロゾールという薬剤が排卵誘発剤の第一選択として推奨されており、効果や副作用などによってはクロミフェンという薬剤も検討されます。

レトロゾールやクロミフェンを使っても排卵が起こらない場合で、肥満や耐糖能異常、インスリン抵抗性のいずれかがある方には、これらの内服薬にメトホルミンを併用する方法が検討されます。メトホルミンはもともと糖尿病の治療に使われる薬で、インスリンの効きにくさを改善することで排卵を促します。

ただし、メトホルミンをPCOSの治療として使えるのは、耐糖能異常や糖尿病、肥満を合併している場合に限られます。すべての方が対象になるわけではありません。

排卵誘発剤の内服薬では排卵が起こりにくい場合には、注射薬による排卵誘発や、腹腔鏡にて卵巣に小さな孔を開けて排卵を促す手術などといった選択肢が段階的に検討されるのが一般的です。

これらの治療でも妊娠に至らない場合には、体外受精などの生殖補助医療へ移行するケースもあります。

なお、肥満(BMIが25以上)の多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方には、体重コントロールが排卵誘発剤よりも先行されます。

食事面では、低カロリーかつ高タンパクな食事療法が月経周期の安定や排卵率、ホルモンバランスの改善に役立つとされ、運動を継続的に行うプログラムは体重やアンドロゲン(男性ホルモン)値の低下に役立つといった報告があります。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における妊娠率などについては、以下の記事にて詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。

関連記事:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の妊娠率は?不妊の原因になる理由や妊活の進め方を解説

妊娠を希望しない場合の治療

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方で妊娠を希望しない場合には、それぞれの症状に合わせた治療が検討されます。

月経不順については、子宮内膜を保護する目的で、周期的に黄体ホルモンを補う薬物療法が行われることがあります。排卵が起こらない状態が続くと子宮内膜が厚くなりすぎてしまい、子宮体がんのリスク因子となる可能性があるためです。多毛やニキビといったアンドロゲン過剰による症状に対しては、低用量の経口避妊薬や卵胞ホルモン・黄体ホルモンの配合薬が用いられます。

妊娠を希望しない場合においても、肥満を伴う場合には体重管理を目標とし、運動や食事の見直しに取り組むことが最初のステップです。実際に、肥満を伴う多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方は、体重減少により排卵の再開やホルモンバランスの改善、精神面の安定につながることも報告されています。

PCOSの方は耐糖能異常(血糖値の調節がうまくいかない状態)を合併している割合が高いことが知られており、痩せ型の方でも該当することがあります。生活習慣の見直しだけでは十分に改善しない場合や、耐糖能異常を合併している場合には、メトホルミンという薬の使用が検討されることがあります。

メトホルミンは食欲不振や吐き気、下痢といった消化器の症状が出やすい薬です。まれではありますが、肝臓や腎臓の機能が低下している方では重い副作用が起こることもあるため、使用前には血液検査で状態を確認します。

インスリンの効きにくさを改善するという点では、薬を単独で使うよりも生活習慣の見直しのほうが効果的だったとする研究報告もあります。「薬を飲めば解決する」というものではなく、食事や運動の見直しが治療の土台になります。 

多嚢胞性卵巣症候群に関するよくある質問

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とストレスに関して、よくある質問へお答えします。

Q:多嚢胞性卵巣症候群の多毛は治るのですか?

A:多毛の治療において、すでに生えている毛包そのものをなくすことは難しく、多角的なアプローチで症状をコントロールしていくことが基本的な考え方とされています。

具体的には、生活習慣の見直し、脱毛や除毛といった物理的なケア、新たな毛の成長を遅らせたり抑えたりする薬による治療などの選択肢があります。

Q:10代のころから多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のような症状がありますが、妊娠に影響しますか?

A:海外の調査では、10代の頃に月経周期が長い場合など多嚢胞性卵巣症候群のような所見があった人でも、成人期に子どもを授かる割合は10代の頃に月経周期が順調だった人と大きな差がないことが報告されています7)

月経周期が長い症状があった人の中には、成人するまでに月経周期が整うケースも半数程度みられ、妊娠までにやや時間がかかりやすい傾向はあるものの、治療によって多くの方が出産に至っているとされています。

上記は研究結果の一例ですが、一般的には10代の頃の症状だけで将来を過度に心配する必要はないと考えられており、気になる場合は婦人科で相談してみるとよいでしょう。

Q:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を放置して治ることはありますか?

A:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、放置していて自然に治るものではありません。

むしろ、月経不順などの症状をそのままにしておくと、以下のような健康上のリスクにつながる可能性があるとされています。

  • 子宮体がんなどの発症
  • 糖尿病などの生活習慣病
  • 高血圧などの心血管系の病気
  • 不安や抑うつといった精神面の不調

自覚症状が軽い場合でも、気になる症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。

Q:多嚢胞性卵巣症候群以外で婦人科系の病気とストレスは関係ありますか?

A:婦人科系の病気とストレスは関連が知られているものも少なくありません。

たとえば月経周期異常の原因のひとつとして精神的ストレスが知られており、過度なストレスは月経周期を乱す可能性があります。ほかにも月経前症候群(PMS)の要因のひとつとしてストレスが挙げられています。

ストレスが軽減されることで、症状の悪化を防いだり改善できる可能性もあるため、規則正しい生活リズムや食生活など、自身でできるストレス対策やセルフケアなどを積極的に試していくのも良いでしょう。

院長からのメッセージ

「ストレスのせいでPCOSになってしまったのでしょうか」——PCOSと診断された方から、この質問を受けることがあります。今のところ、ストレスがPCOSを引き起こすという証拠はありません。ご自身の生き方や性格を責める必要はまったくないと、まずお伝えしたいと思います。

一方で、逆向きの関係ははっきりしています。PCOSの方は、うつや不安を抱える割合が高いことが複数の研究で示されています。月経が不順であること、妊娠への不安、多毛やにきびといった見た目の変化。こうしたことが積み重なれば、気持ちが沈むのは自然なことです。これは気の持ちようの問題ではなく、この病気に伴って起こりうる症状のひとつだと考えてください。

治療についても、強調したいことがあります。この記事にあるとおり、肥満や糖代謝の異常を伴う場合には、食事と運動による体重管理が最初の一歩になります。「薬のほうが確実では」と思われるかもしれませんが、インスリンの効きにくさを改善するという点では、生活習慣の改善が薬を上回るという研究報告もあります。体重が5%減るだけでも、排卵の再開やホルモンの改善、そして気持ちの面の改善が期待できます。地味に思えるかもしれませんが、根拠のある方法です。

とはいえ、体重を減らすこと自体が大きなストレスになる方もいます。うまくいかないときは、ひとりで抱えずに相談してください。気分の落ち込みが続いているようなら、そのことも遠慮なく話していただければと思います。

参考文献

1)Teede HJ, Khomami MB, Morman R, Laven JSE, Joham AE, Costello MF, Patil M, Rees DA, Berry L, Cree MG, Zhao H, Norman RJ, Dokras A, Piltonen T; Global Name Change Consortium. Polyendocrine metabolic ovarian syndrome, the new name for polycystic ovary syndrome: a multistep global consensus process. Lancet. 2026 Jun 6;407(10545):2329-2339.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(26)00717-8/fulltext

2)Greiner M, Paredes A, Araya V, Lara HE. Role of stress and sympathetic innervation in the development of polycystic ovary syndrome. Endocrine. 2005;28(3):319-24.
https://doi.org/10.1385/ENDO:28:3:319

3)Toufexis D, Rivarola MA, Lara H, Viau V. Stress and the reproductive axis. J Neuroendocrinol. 2014;26(9):573-586.
https://doi.org/10.1111/jne.12179

4)Cooney LG, Lee I, Sammel MD, Dokras A. High prevalence of moderate and severe depressive and anxiety symptoms in polycystic ovary syndrome: a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod. 2017;32(5):1075-1091.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28333286/

5)Chaudhari AP, Mazumdar K, Mehta PD. Anxiety, Depression, and Quality of Life in Women with Polycystic Ovarian Syndrome. Indian J Psychol Med. 2018;40(3):239-246.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5968645/

6)Brutocao C, Zaiem F, Alsawas M, Morrow AS, Murad MH, Javed A. Psychiatric disorders in women with polycystic ovary syndrome: a systematic review and meta-analysis. Endocrine. 2018 Nov;62(2):318-325.
https://link.springer.com/article/10.1007/s12020-018-1692-3

7)van Hooff MHA, Caanen MR, Peters HE, Laven JSE, Lambalk CB. Adolescent menstrual cycle pattern, body mass index, endocrine and ovarian ultrasound characteristics of PCOS and future fertility, cardiovascular-, and metabolic health: a 25-year longitudinal follow-up study. Hum Reprod. 2025;40(1):138-147.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11700892/