精液が出ない、あるいは以前より少なくなったと感じると、「年齢のせいではないか」と不安になる方も少なくありません。
たしかに、精液量や精子の状態は加齢とともに変化する傾向があります。しかし、精液が出ない・少ないと感じる原因は年齢だけとは限りません。射精障害や生活習慣、薬剤の影響など、複数の要因が関わっている可能性があります。
本記事では、年齢と精液の変化の関係を整理したうえで、「出ない」と「少ない」の違い、射精障害の種類や原因、検査の内容について解説します。
精液が出ないのは年齢の影響?
精液量や精子の状態は加齢とともに変化する傾向があります。
精液量は35.5歳ごろから減少が顕著になるとの報告があり1)、精子数も年齢とともに減少する傾向があるとされています。
そして、動いている精子の割合を示す運動率は、5年ごとに1.2%低下するとの報告があり2)、さらに、活発に前へ進む精子の割合を示す前進運動率は、50歳以上の男性では40〜50歳の男性と比べて、半分程度にまで低下する傾向があるとされています3)。
加えて、精子のDNA損傷の程度を示すDFIも年齢とともに上昇する傾向があり、50歳以上では30歳未満と比べて4.58倍高いとの報告もあります4)。
このように、加齢は精液量だけでなく、精子の数・動き・遺伝情報の安定性といった複数の側面に影響する可能性があります。
精液量の正常値とは
WHO(世界保健機関)の基準では、精液量の正常下限値は1.4ml以上とされています5)。この数値は自然妊娠に至った男性の下位5%を基に設定された参考値です。あくまで目安であり、この数値以下でも自然妊娠するケースはありますし、基準を満たしていても妊娠が難しい場合もあります。
また、精液量は体調や禁欲期間、ストレスなどの影響を受けやすいため、1回の結果だけで正常かどうかを判断することはできません。
精液が「出ない」と「少ない」は原因が異なる
精液が出ないと感じている状態でも、以下の2つに分けて考えることができます。
- 射精そのものが起こっていない、または精液が体外に出ていない状態
- 射精は起こっているが、量や勢いが低下している状態
この違いによって、背景や対処の方向性は異なります。自分の状態がどちらに近いのかをまずは確認しましょう。
射精障害とは
射精障害とは、射精の過程に何らかの問題が生じている状態の総称です。代表的なものには以下があります。
- 無射精:射精そのものが起こらない状態
- 逆行性射精:精液が膀胱側に逆流し、体外にほとんど出ない状態
- 膣内射精障害:マスターベーションでは射精できるが、膣内での射精が困難な状態
- 射精機能低下:射精はできるが、精液の量や勢いが低下している状態
それぞれ原因や治療方針が異なるため、症状のタイプを整理することが重要になります。
精液が出ない場合に考えられる原因
精液がまったく出ない場合、射精の仕組みに問題があるケースと、精液が体外に出ないケースがあります。原因はひとつとは限らず、神経や前立腺の状態、薬剤の影響など、さまざまな要因が関わっていることがあります。
ここでは代表的な「無射精」「逆行性射精」「膣内射精障害」について解説します。
無射精
無射精とは、射精そのものが起こらない状態を指します。
原因は以下のようなものがあげられます。
- 神経系の障害(糖尿病による神経障害、多発性硬化症、脊髄損傷など)
- 前立腺や精路の問題(前立腺がんや前立腺肥大症の手術後、精路の閉塞など)
- ホルモンの異常(低テストステロン血症など)
- 薬剤の影響(前立腺肥大症治療薬・抗精神病薬・麻薬系鎮痛薬・抗てんかん薬など)
ひとつだけではなく、複数の要因が重なって生じるケースも少なくありません。薬剤については自己判断で服薬を中止・減量することは避けてください。
逆行性射精
逆行性射精とは、射精は起こっているものの、精液が尿道から体外へ出ず、膀胱側へ逆流してしまう状態です。
糖尿病による末梢神経障害や、前立腺の手術後の影響、薬剤の副作用(前立腺肥大症治療薬・抗精神病薬・抗うつ薬・一部の消化器系薬)などが主な原因とされています。外見上は「精液が出ない」「極端に少ない」と感じられるため、無射精との区別が難しいことがあります。薬剤については自己判断で服薬を中止・減量することは避けてください。
膣内射精障害
膣内射精障害とは、マスターベーションでは射精できるものの、膣内では射精できない状態を指します。
主な要因としては、強い刺激に慣れてしまうなどの不適切なマスターベーション習慣や、心因性の要因、勃起障害などが挙げられます。
年齢そのものよりも、心理的要因や生活習慣が関与しているケースもあり、その状態が続いていると自然妊娠は難しくなることがあります。そのような場合でも、妊娠を諦める必要はありません。精液を採取して子宮内に直接注入する「人工授精(AIH)」や、体外受精・顕微授精といった生殖補助医療を利用することで、性交渉によらない妊娠を目指すことができます。
「性機能に問題があると妊娠できないのでは」と感じてためらっている方こそ、一度専門の医療機関に相談していただくことをお勧めします。
精液が少ない場合に考えられる原因
精液量が少ないと感じる場合、加齢に伴う射精機能の変化のほか、生活習慣や服用中の薬剤、体調などが影響している可能性があります。
射精自体は起こっているものの、分泌量や勢いが低下しているケースが多くみられます。
射精機能低下
射精機能低下とは、射精は起こるものの、精液量や射精の勢いが徐々に低下していく状態を指します。
加齢により、精嚢や前立腺から分泌される液体の量が減少したり、射精時の筋肉の収縮力が弱まったりすることが関係すると考えられています。そのため、「以前より量が少ない」「勢いが弱くなった」と感じることがあります。
また、加齢に伴いオルガスム(絶頂感)が低下することもあり、これも射精機能の変化の一部と捉えられています。
「精液が出ない」状態とは異なり、射精自体は可能である点が特徴です。
生活習慣や薬剤の影響
生活習慣や服用中の薬剤も、精液量や精子の状態に影響を及ぼすことがあります。
<生活習慣との関連>
- 喫煙や過度な飲酒
- 睡眠不足やストレス
- 肥満
これらはホルモンバランスや血流、精子形成に影響を与える可能性があります。
<薬剤との関連>一部の降圧薬、男性型脱毛症治療薬、抗うつ薬、抗精神病薬、前立腺肥大症治療薬、前立腺がん治療薬などには、副作用として性機能や射精に影響を及ぼす可能性があるものがあります。
ただし、自己判断で服薬を中止・減量することは避けてください。持病の治療に必要な薬である場合、中断により症状が悪化するおそれがあります。気になる場合は必ず医師に相談しましょう。
精子の質と生活習慣との関連について、詳しくはこちらをご覧ください。
精液が出ないと感じたときの検査や受診について
精液の状態が気になる場合に行われる基本的な検査が「精液検査」です。精液量、精子濃度、運動率、形態などを測定し、WHOの基準値を参考に医師が総合的に判断します。
また、精液がまったく出ない場合でも、逆行性射精の有無を確認するための尿検査や、ホルモン検査、超音波検査などが行われることがあります。症状に応じて検査内容は変わりますが、精液が出ない状態であっても原因を調べることは可能です。
検査は、不妊治療専門クリニックや泌尿器科などで実施されています。すべての医療機関で対応しているわけではないため、受診前に検査の実施状況を確認すると安心です。症状が気になる場合は、早めに相談することで原因の把握につながります。
治療については、射精障害がある場合でも、医療機関では妊娠に向けた選択肢を提示することができます。精液を採取して子宮内に注入する人工授精や、体外受精・顕微授精といった方法は、性交渉が難しい状況でも妊娠を目指せる手段として確立されています。
「受診しても意味がないかもしれない」と感じている方も、まずは相談だけでも来院していただける環境を整えています。
精液の量に関するよくある質問
精液が出ない・少ないという悩みに関するよくある質問をまとめました。
精液が出ないのは年齢のせいですか?
加齢にともない精液量や射精の勢いが徐々に低下することはありますが、射精そのものが起こらない場合は、年齢以外の要因が関与していることもあります。
特に、急に出なくなった場合や、ほかの症状を伴う場合は、神経や前立腺、薬剤の影響などを含めて確認することが大切です。
年齢による変化なのか、治療が必要な状態なのかを見極めるためにも、自己判断せず医療機関に相談しましょう。
精液が少ないと妊娠に影響しますか?
精液量の減少や精子の質の変化は、妊娠に影響する可能性があります。ただし、妊娠の成立は精液量だけで決まるものではありません。精子濃度や運動率、女性側の年齢や健康状態など、複数の要因が関係しています。
男性も年齢とともに精子の質が変化する傾向があり、加齢に伴って流産リスクがわずかに上昇するとの報告もあります。特に45歳以上では妊娠初期の流産率が高まるという研究もあります。
いずれにしても、妊娠に関わる要因は男女双方に関連しているため、どちらか一方の問題として捉えるのではなく、総合的に考えることが重要です。
男性の妊活について、詳しくはこちらをご覧ください。
男性パートナーに検査を勧めるためにはどうすればよいですか?
精液検査に対して心理的なハードルを感じる方は少なくありません。「問題があるかもしれない」という視点ではなく、将来の妊娠や健康を考えるプレコンセプションケアの一環として捉えると、受け入れやすい場合があります。
検査を受けて異常がなければ安心材料になりますし、何らかの所見があった場合も早期に対応の選択肢を知ることができます。
精液が出ない・少ないからといって、直ちに男性不妊を意味するわけではありません。パートナーと情報を共有し、必要に応じて一緒に相談する姿勢が大切です。
Q:性機能に問題があっても、妊娠を目指せますか?
妊娠を目的とした性交渉がプレッシャーになり、うまくいかなくなるという経験は、男性にも女性にも珍しくありません。「排卵日に合わせなければ」という義務感が強くなるほど、心理的・身体的な緊張が生じやすくなります。また、射精障害など性機能に問題があり、「自分では妊娠させられないのではないか」と感じている方もいるかもしれません。
こうした状況でも、妊娠を諦める必要はありません。採精した精液を用いた人工授精(AIH)は、性交渉のプレッシャーとは切り離して妊娠を目指せる方法のひとつです。また、体外受精・顕微授精といった生殖補助医療も選択肢になります。性交渉による妊娠にこだわらなくてよいとわかるだけで気持ちが楽になり、2人の関係が本来の形に戻るきっかけになることもあります。
「こんな相談をしていいのだろうか」と思う必要はありません。性交渉に関わる悩みは、生殖医療の専門家が日常的に対応している領域です。2人だけで抱え込まず、まずはご相談ください。状況に合った方法を一緒に考えることができます。
院長からのメッセージ
「最近、精液の量が減ってきた気がする」「以前より勢いがなくなった」というご相談を、男性の患者さんからいただくことがあります。「年齢のせいだから仕方ない」と思い、そのままにしてしまう方も少なくありません。
たしかに加齢とともに精液量や精子の状態が変化することはあります。ただ、年齢だけが原因とは限りません。神経や前立腺の状態、服用中の薬剤、生活習慣など、対処できる要因が関わっているケースも実際には多くあります。
特に「急に出なくなった」「量が極端に少なくなった」と感じる場合は、逆行性射精のように精液が膀胱に逆流している状態が隠れていることもあります。
妊活中の男女にとって、排卵日に合わせた性交渉が義務のようになり、プレッシャーを感じてしまうことは珍しくありません。ただ、妊娠の方法は性交渉だけではありません。採精した精液を用いた人工授精や、体外受精・顕微授精といった方法は、性交渉によらずに妊娠を目指せる確立された医療です。「妊娠のための性交渉」というプレッシャーから離れることで、2人の関係が本来の形に戻り、むしろパートナーとの関係が改善したとおっしゃるカップルも少なくありません。妊活は2人で取り組むものですが、その方法は1つである必要はないのです。
精液検査は、体への負担がほとんどない検査です。量・濃度・運動率といった複数の指標を同時に確認できるため、「気になっているけど、受診するほどでもないかな」と迷っている方にこそ、まず一度受けてみていただきたい検査です。
女性パートナーの方から「どう勧めればいいかわからない」というご相談をいただくこともあります。「問題があるかもしれない」という切り出し方ではなく、「2人で状況を確認しておきたい」「一緒に選択肢を知っておきたい」という視点でお話しいただくと、受け入れてもらいやすいことが多いように思います。
参考文献
1)~4)・6)・7)一般社団法人日本生殖医学会ウェブサイト







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