最終更新日:
2026-03-19

無精子症と診断されると、「子どもは望めないのでは」と不安になってしまう方は少なくありません。

無精子症にはいくつかの種類があり、それによって原因や治療の選択肢は異なります。治療を経て妊娠や出産につながる可能性があるケースもあるため、まずはこの記事で知識を得て、全体像をつかんでおくことが、次のステップを考えるうえでの出発点になります。

この記事では、無精子症の定義と種類、検査・診断の流れ、治療と妊娠の可能性について解説します。

無精子症とは

無精子症とは、精液中に精子が確認できない状態を指し、大きく「閉塞性無精子症」と「非閉塞性無精子症」に大別されます。

精子自体はつくられているが、射精されるまでの通り道が塞がっているために精液中に精子が見つからないのが「閉塞性無精子症」、精子をつくる機能そのものに問題があるのが「非閉塞性無精子症」です。無精子症かどうかの判断の仕方については、以下の記事もご覧ください。

閉塞性無精子症

精子は精巣でつくられた後、精巣上体→精管→射精管という経路を通って精液と合わさり、射精されます。閉塞性無精子症は、精巣では精子がつくられているにも関わらず、この経路=精路(せいろ:精子の通り道)が塞がってしまっていて、精液中に精子が出てこれない状態です。

閉塞を引き起こす主な原因は以下のとおりです。

  • 精管の閉塞
  • 精巣上体の閉塞
  • 射精管の閉塞

精管の閉塞は、精路の中でも比較的長い経路を持つ精管が、外科的な損傷や先天的な形成不全によって途絶えることで生じます。小児期の鼠径ヘルニア手術の際に精管が損傷したケースや、生まれつき精管が形成されていない先天性両側精管欠損症(CBAVD)がその代表です。

精巣上体の閉塞は、感染症が主な原因です。精巣上体炎(精巣上体への細菌感染)が両側に及ぶと、炎症後の瘢痕組織によって精路が塞がれることがあります。

射精管の閉塞は、精路の出口付近に生じる閉塞です。前立腺内を走る射精管が、嚢胞(のうほう)による圧迫や、尿道炎・前立腺炎などの炎症によって狭窄・閉塞するケースがあります。

非閉塞性無精子症

非閉塞性無精子症は、精子をつくる機能に問題がある状態です。精巣での造精機能(ぞうせいきのう:精子をつくる機能)の低下が原因で、精液中に精子が確認できません。

主な原因は以下のとおりです。

  • 染色体・遺伝子異常
  • 成人後のムンプス精巣炎
  • 停留精巣の既往
  • 精巣捻転の既往
  • 抗がん剤治療・放射線治療の影響

非閉塞性無精子症の原因は、大きく「生まれつきの要因」「後天的な疾患・治療の影響」「原因不明」の3つに整理できます。

生まれつきの要因として最も多いのが、染色体・遺伝子異常です。代表例はクラインフェルター症候群(染色体が通常の46XYではなく47XXYとなる疾患)で、精巣の発達に影響し造精機能が低下します。Y染色体上の精子形成遺伝子の欠失(AZF微小欠失)も同様の原因になります。

後天的な要因としては、成人後のおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)による精巣炎、幼少期の停留精巣や精巣捻転の既往のほか、がん・白血病などの治療で使用する抗がん剤や放射線治療の影響が挙げられます。これらはいずれも精細管にダメージを与え、精子をつくる機能を低下させます。

なお、検査を行っても原因が特定できない特発性のケースも少なくありません。

無精子症は妊娠できないわけではない

無精子症とは、精液中に精子が確認できない状態です。しかし、これは「精子が体内に存在しない」あるいは「妊娠の可能性がない」という意味ではありません。

閉塞性無精子症であれば、精子をつくる機能は保たれていることが多いので、閉塞部位を手術で修復できれば精液中に精子が戻ることがあり、その後の自然妊娠も視野に入ります。修復が難しい場合でも、精巣から直接精子を採取するTESEという手術をして顕微授精に進む方法があります。

非閉塞性無精子症は、造精機能の低下が原因であるため、閉塞性と比べて状況はより複雑です。ただし、精巣内のごく一部の精細管で精子がつくられていることがあり、顕微鏡手術(マイクロテセ;micro-TESE)によって精子を見つけられた場合は、顕微授精へと進むことができます。

どちらの場合であっても、選択肢や見通しは原因・状態によって大きく異なります。まずは検査で自分の状態を正確に把握することが、次の一歩につながります。

無精子症の検査と診断の流れ

無精子症の診断では、精液検査で精子の有無を確認したうえで、無精子症の種類を見極めるための検査を組み合わせていきます。

精液検査

精液を採取して精子の有無を確認します。なお、精液検査の結果は体調やストレス、検査前の禁欲期間などによって変動するため、複数回の検査で確認するのが一般的です。

ホルモン検査

FSH(卵胞刺激ホルモン)・LH(黄体形成ホルモン)・テストステロンなどの値を測定します。なかでもFSHは閉塞性・非閉塞性を見分ける手がかりになり、閉塞性では基準値内、非閉塞性では高値を示す傾向があります。

染色体検査・遺伝子検査

クラインフェルター症候群などの染色体異常や、Y染色体微小欠失の有無を確認します。主に非閉塞性無精子症の原因を探るうえで行う検査であり、治療方針や精子回収の見通しにも関わります。

超音波検査

精巣の大きさや精索静脈瘤の有無、閉塞部の推定のために検査します。

男性不妊の検査について、詳しくは以下の記事もご覧ください。

無精子症の治療と妊娠の可能性

無精子症の治療は、種類と原因によってその後の方向性や選択肢が異なります。無精子症=妊娠できないというわけではありませんが、すべてのケースで同じ結果が期待できるとは限りません。自分の状態に合った治療の選択肢と、現実的な見通しを医師と確認しながら進めていくことが重要です。

閉塞性無精子症の治療

閉塞性無精子症では、精子をつくる機能は保たれているため、治療の方向性は「通り道を直す」か「精子を直接取り出す」かの2つに大別されます。

通り道を直す方法が、精路再建術です。閉塞している部位に応じて、精管同士をつなぎ直す手術や、精巣上体と精管をつなぐ手術を行います。これらにより精液中に精子が確認できるようになるケースは一定数報告されていますが、閉塞の原因や部位によって結果は異なります。再建が成功し精液中に精子が確認できるようになった場合は、精子の数や運動率に応じて、タイミング法・人工授精・体外受精などの次のステップを医師と検討することになります。

再建が難しい部位や、より早い治療を望む場合は、精子を直接取り出す方法を選択します。TESE(テセ;精巣内精子採取術:精巣を切開して精子を採取)やMESA(メサ;顕微鏡下精巣上体精子吸引術:精巣上体から精子を吸引採取)があり、採取した精子を顕微授精に用います。

非閉塞性無精子症の治療

非閉塞性無精子症では造精機能自体が低下しているため、通り道を直す手術はできません。治療の中心は、精巣内に残っているわずかな精子を顕微鏡で探し出すmicro-TESE(マイクロテセ;顕微鏡下精巣内精子採取術)という手術です。
micro-TESEでは、手術用顕微鏡で精巣内を観察しながら、精子がつくられている可能性のある精細管を選んで採取します。精子をつくっていない精細管は細く透明に近いため、顕微鏡による選別が精子回収率を高めるうえで重要な役割を果たします。非閉塞性無精子症に対する標準的な治療法として位置づけられています。

顕微授精との組み合わせについて

TESEやmicro-TESEで採取された精子は、顕微授精(ICSI)と組み合わせて受精を目指します。顕微授精は、顕微鏡下で精子を1個ずつ卵子に直接注入する方法で、精子の数がごくわずかしかない場合でも受精を試みることができます。

非閉塞性無精子症では、micro-TESEによる精子回収率は原因や状態によって差があり、おおよそ20〜50%程度と施設や原因によって幅があります1)。精子が回収できた場合でも、そこから受精・胚培養・胚移植・妊娠・出産へと至るまでにはさらに複数のステップがあり、結果には個人差があります。「精子が見つかれば妊娠できる」ではなく、「精子が見つかることが出発点」という理解が現実に即しています。

無精子症と診断された後の流れ

実際に治療を進めるにあたっては、医療機関の選び方や費用面の確認など、治療を始める前の実務的な準備が必要です。

医療機関の選択

micro-TESE(マイクロテセ;顕微鏡下精巣内精子採取術)のような専門的な治療を要する場合、実施できる施設が限られます。どこで行われているか、あらかじめ確認しておきましょう。かかりつけクリニックなどから専門施設を紹介してもらうのもひとつの方法です。

費用や助成制度

不妊治療の保険適用が拡大されたことで、精巣内精子採取術や顕微授精などは条件を満たせば保険診療の対象になります。ただし、年齢や回数などの条件があるため、具体的な適用範囲は事前に確認しておきましょう。

治療のスケジュール目安

検査から治療までには時間がかかることが少なくありません。各検査結果が出るまでの期間、手術の予約待ち、パートナー側のスケジュールとの調整なども考慮に入れておく必要があります。

無精子症に関するよくある質問

無精子症に関するよくある質問に回答します。

無精子症と診断される人の割合は?

無精子症は決して珍しい疾患ではありません。一般男性の約100人に1人が無精子症であると報告されています2)。男性不妊の検査として精液検査を受けた方に限ると、およそ10人に1人の割合で無精子症と診断されるとのデータがあります3)

「まさか自分が」と感じる方も多いのですが、数字で見るとそれほど例外的な状況ではないことがわかります。気になる場合は、まず精液検査を受けることが出発点になります。

生活習慣が原因になる?

喫煙や過度の飲酒、肥満や長時間の入浴、強いストレスなどが精液所見に影響を与える可能性が指摘されています。ただし、無精子症の主な原因は染色体異常・疾患の既往・先天的な精管の欠損など、生活習慣とは独立した要因であることがほとんどです。「生活習慣が悪かったから無精子症になった」と自分を責める必要はありません。

ただし、精液所見の維持や改善という観点では、喫煙や過度の飲酒を控える、適度な運動を心がけるといった基本的な生活習慣の見直しが意味を持つ場面はあります。治療と並行して、できる範囲で取り組むのがよいでしょう。

自然妊娠の可能性はゼロ?

無精子症と診断された場合、精液中に精子が確認できない状態では、性交渉による自然妊娠は現実的ではありません。

しかし、「自然妊娠は難しいが、妊娠・出産を目指す方法がある」というのが現在の医療の立場です。閉塞性であれば精路再建によって状況が変わる場合があり、非閉塞性であってもmicro-TESEで精子が見つかれば顕微授精へと進めます。「自然妊娠はできない=子どもを持てない」ではありません。

パートナーとはどのように話し合えばよいですか?

無精子症の診断は、本人だけでなくパートナーにとっても動揺をともなう出来事です。「自分のせいで申し訳ない」と一人で抱え込んでしまう方も多いのですが、治療はふたりで進めるものです。

まずは検査結果や治療の選択肢を、できる限りふたりで共有することから始めましょう。医師の説明をともに聞くだけでも、情報の解釈のずれを防ぎやすくなります。

「どこまで治療を続けるか」「治療以外の選択肢をどう考えるか」という重い話題は、一度の会話で結論を出す必要はありません。それぞれのペースで気持ちを確認しながら方向性を探っていくこと自体が、長い治療の過程での支えになります。

院長からのメッセージ

無精子症という診断を受けたとき、「もう自分には子どもは無理なのでは」と感じる方は少なくないと思います。ただ、この記事でも整理されているように、無精子症にはいくつかの種類があり、種類によって治療の選択肢は大きく異なります。

検査の結果が「無精子症」であっても、それは「体の中に精子が全く存在しない」という意味ではありません。

閉塞性無精子症であれば、精子がつくれるけれど運べないだけなので、運ぶ経路を修復したり、精子をつくっている精巣から直接回収する手術(TESE)をすれば、精子が回収できる可能性は比較的高いとされています。

非閉塞性無精子症でも精巣内のごく一部で精子が作られていることがあり、顕微鏡手術(micro-TESE)によって精子を見つけられる場合があります。染色体検査の結果などでも、精子の回収率は大きく異なります。

ただし、精子が回収できるかどうかは術前に確実に予測できるものではなく、原因や個々の状態によって結果は異なります。この点は、過度な期待にも過度な諦めにもならないよう、担当医師から丁寧に説明を受けることが非常に重要です。

男性不妊の治療はパートナーの治療スケジュールとの調整が必要になる場面も多く、二人で情報を共有しながら進めることが、長い治療過程での支えになります。

まずは男性不妊を専門とする泌尿器科を受診し、どのタイプの無精子症かを正確に把握するところから始めることをお勧めします。

参考文献

1)東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター(泌尿器科). 非閉塞性無精子症.
2)Sharma M, Leslie SW. Azoospermia. StatPearls [Internet]. 2023.
3)日本泌尿器科学会. パートナーがなかなか妊娠しない.