体外受精を検討しはじめると、「自分の年齢で、どのくらいの確率で妊娠できるのだろう」と不安に感じる方は少なくありません。
妊娠率は年齢や治療の方法によって異なり、正確なデータを知ることが治療の見通しを立てる第一歩になります。なお、ここでいう妊娠率は治療を受けた方全体の統計データであり、個人の妊娠を保証するものではありません。
この記事では、日本産科婦人科学会のデータをもとに年齢別の妊娠率を整理するとともに、新鮮胚移植と凍結融解胚移植の違いや妊娠率に影響する主な要因について解説します。
体外受精の概要と現状
体外受精(IVF; in vitro fertilization)とは、採卵した卵子と精子を体外で受精させ、培養した受精卵(胚)を子宮に移植する治療法です。
日本では広く実施されており、2023年に体外受精を含む生殖補助医療(ART)で誕生した赤ちゃんは85,048人2)と、日本で生まれた子どものおよそ8〜9人に1人にあたります。小学校のクラスに数人はいるという割合ですね。
次にどれくらいの確率で妊娠できるのかを知るために、妊娠率を見ていきましょう。妊娠率は年齢や胚の状態、子宮の環境などによって異なります。まずは年齢別のデータから確認していきましょう。
体外受精を含む生殖補助医療における年齢別の妊娠率
生殖補助医療における妊娠率は、年齢が高くなるほど低下する傾向がみられます。
以下は、日本産科婦人科学会の2023年のデータをもとにまとめた年齢別の妊娠率です2)。
このように、治療周期全体でみると、妊娠に至る割合は30代半ばから少しずつ下がりはじめ、40代ではその傾向がさらに大きくなっていくことがわかります。
年齢が妊娠率に影響する理由
年齢が上がるにつれて妊娠率が低下しやすくなる背景には、女性の妊娠する力の変化があります。
女性の卵子のもととなる細胞は、胎児期に一生分がつくられます。生まれた後に新たに増えることはないため、加齢とともに卵子の数は少しずつ減っていきます。
また、年齢を重ねると卵子の質にも変化が生じ、受精したあとに胚が育ちにくくなったり、子宮に着床しにくくなったりすることがあります。
さらに、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科疾患が見つかりやすくなる傾向があります。これらは胚の着床や成長を妨げる要因になり得るため、妊娠率にも影響すると考えられています。
新鮮胚移植と凍結融解胚移植の妊娠率の違い
体外受精では胚移植の方法として、採卵後同じ周期で子宮へ戻す「新鮮胚移植」と、一度凍結した胚を融解して戻す「凍結融解胚移植」があります。
日本産科婦人科学会の2021〜2023年のデータでは、移植あたりの妊娠率は凍結融解胚移植が新鮮胚移植を上回っていました。
以下は、日本産科婦人科学会のデータをもとにまとめた年度別の妊娠率です2)3)4)。
ただし、これらの妊娠率はあくまでも「胚移植を実施した周期」を分母にした数値です。採卵から移植に至るまでの過程で中止になったケースは含まれていないため、治療全体の妊娠率とは異なります。また妊娠率というのは、胎嚢が確認された割合(臨床的妊娠率)です。出産に至る生産率はこれより低くなります。
また、新鮮胚移植と凍結融解胚移植では、実施するタイミングや治療を受ける対象の方の状況が異なるため、この数字だけで、どちらが優れているかを一概に判断することはできません。
体外受精の妊娠率に影響する主な要因
体外受精の妊娠率は、年齢だけでなく胚の状態、子宮内膜などの子宮側の環境、不妊に関係する疾患など、さまざまな要因が重なって左右されます。
ここでは、体外受精の妊娠率に関わる主な要因について解説します。
移植する胚の質
体外受精の妊娠率に大きく関わる要因のひとつが、移植する胚の質です。
胚盤胞(受精後5〜6日目に育った胚)の評価には、Gardner分類(ガードナー分類)が広く用いられています。胚の膨らみ具合にくわえ、将来赤ちゃんになる細胞の集まり(内細胞塊)と胎盤のもとになる細胞層(栄養外胚葉)の形態を組み合わせて判定する方法です。
国内の研究では、Gardner分類で発生段階や形態評価が良好な胚盤胞ほど、妊娠率が高い傾向が報告されています1)。
ただし、胚の形態評価だけで妊娠の成否が決まるわけではありません。女性の年齢や胚の染色体、子宮の状態など、複数の要素が影響します。胚のグレードは、あくまで判断材料のひとつと捉えることが大切です。
子宮内膜の状態
胚が子宮に着床するためには、子宮内膜が適切な状態に整っていることが大切です。子宮内膜の状態や移植のタイミングが合っていないと、胚が着床しにくくなるため、結果として妊娠率にも影響します。
胚移植では、移植する胚の発育段階に合わせて時期を調整します。自然周期では排卵日、ホルモン補充周期では黄体ホルモン開始日などを目安に、子宮内膜が胚を受け入れやすい時期を見極めて行われます。
婦人科疾患の有無
体外受精の妊娠率には、婦人科疾患の有無が影響する場合があります。
代表的なものとして、子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症などがあげられます。
このような疾患が見つかった場合は、必要に応じて手術や薬物療法などの治療をしたり、体外受精の進め方を調整することで、妊娠を目指しやすくなることがあります。
気になる自覚症状があれば、早めに専門医へ相談することをおすすめします。
体外受精の妊娠率に関するよくある質問
ここでは体外受精で妊娠する確率に関するよくある質問に回答します。
体外受精の妊娠率は病院によって違いますか?
体外受精の妊娠率は、病院ごとに単純に比較できる数値ではありません。治療成績の算出方法は医療機関によって異なり、どのような患者を対象に治療を行ったかによっても結果は大きく変わります。
また、クリニックによって得意とする専門領域も異なります。
数字だけで判断するのではなく、年齢別データの公開状況やクリニックの専門性も考慮しながら、総合的に検討することが大切です。
体外受精と人工授精の妊娠率の違いは?
体外受精は人工授精と比べて、妊娠率が高い傾向にあります。
日本産婦人科医会によると、人工授精の妊娠率は1周期あたり5〜10%程度です5)。一方、体外受精を含む生殖補助医療では、日本産科婦人科学会の2023年のデータで、総治療件数に対する妊娠率が約20.6%と報告されています2)。
ただし、両者では妊娠率の算出方法が異なるため、数値をそのまま比べることは難しい面があります。あくまで全体的な傾向として、体外受精のほうが妊娠率は高い傾向にあります。
体外受精の流産率はどれくらいですか?
生殖補助医療における流産の割合は、年齢別にみると多少のばらつきはあるものの、全体として年齢が高くなるほど上昇する傾向がみられます。以下は、日本産科婦人科学会の2023年のデータをもとにまとめた年齢別の流産率です2)。
このように、流産率は全体として年齢が高くなるほど上昇する傾向がみられます。
なお、各数値は対象となる妊娠数や条件によって変動するため、目安として捉えてください。
院長からのメッセージ
「自分の年齢で、どのくらいの確率で妊娠できるのか」——これは治療を考えはじめた方が必ず気になることだと思います。数字を知ることは、見通しを立てるうえで大切なことです。
ただ、数字を見るときに知っておいてほしいことがあります。記事にある妊娠率は「胎嚢が確認された割合」であり、出産に至る生産率はこれより低くなります。また、これはあくまで全体の統計であり、同じ年齢でも一人ひとりの状況は違います。数字は目安として参考にしながら、自分の状況は担当医と一緒に確認してください。
年齢が上がるにつれて妊娠率が下がっていくことは事実です。ただ、40代でも妊娠・出産に至っている方は実際にいます。統計の数字は「可能性がある・ない」を示すものではなく、「どのくらいの割合で起こるか」を示すものです。
流産率についても、年齢とともに上昇する傾向があります。特に40代では染色体異常の頻度が増えることが背景にあります。流産を経験された方には、それは「自分のせいではない」とお伝えしたいと思います。
妊娠率という数字だけに一喜一憂するよりも、「今の自分の状態で、次に何ができるか」を担当医と話し合うことが、治療を前に進める力になります。数字はあくまで出発点です。その数字を見て、どう動くかは、ご夫婦と医療スタッフが協力して決めていくことです。不安なことはそのまま伝えてください。私達はいつでも遠慮せずに尋ねてほしいと思っています。
参考文献
2)日本産科婦人科学会.2023年体外受精・胚移植等の臨床実施成績.. 日本産科婦人科学会ウェブサイ
3)日本産科婦人科学会.2022年体外受精・胚移植等の臨床実施成績.. 日本産科婦人科学会ウェブサイ
4)日本産科婦人科学会.2021年体外受精・胚移植等の臨床実施成績.. 日本産科婦人科学会ウェブサイ
5)日本産科婦人科医会.10.人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen).公益社団法人 日本産科婦人科医会ウェブサイト
日本産科婦人科医会.16.反復着床不全.公益社団法人 日本産科婦人科医会ウェブサイト







