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最終更新日:
2026-04-16

こんにちは!ORINAS ART CLINIC 胚培養士の中野です。

体外受精では、受精卵を数日間培養し、育った受精卵(胚)を子宮に移植します。培養から5〜6日目まで育った胚を「胚盤胞」といい、胚移植の際にはその状態を「グレード」という指標で評価します。

「グレードが良くないと妊娠できないの?」「数字やアルファベットって何を意味するの?」そんな疑問を患者さんからよくいただきます。

今回は、「胚のグレード」について、培養士の目線でお伝えします。

さっそくですが、胚盤胞クイズです

以下は、実際に評価がわかっている胚盤胞(受精から5~6日目まで成長した卵)の写真です。

この胚盤胞は、どのくらいのステージで、どのようなグレードだと思いますか?

正解は……

……記事の最後でご紹介します。

いきなり問題を出されても、難しいと感じる方がほとんどかと思います。

そこでまずは、胚培養士がどのように胚を観察し、どのようにグレードをつけているのかをわかりやすくご説明します。

そのポイントを知ったうえで、もう一度この胚を見直してみてください。

きっと、最初とは違った見え方になるはずです。

培養士が胚盤胞をどう見ているのか?

では、実際に培養士がどのように胚を観察しているかをご紹介します。

受精した卵(胚)は日々少しずつ分裂しながら育っていきます。4日目頃には細胞同士がぎゅっとくっつき合った「桑実胚(そうじつはい)」という状態になり、5〜6日目になると内側に空洞ができて風船のようにふくらんできます。

これが「胚盤胞」です。

このとき、胚の細胞は次の2つの役割に分かれます。

・赤ちゃんになる部分(内細胞塊:ICM)

・胎盤になる部分(栄養外胚葉:TE)

この2つが、後ほど出てくるグレード評価のポイントになります。

胚盤胞は、培養液の入った小さな容器の中で育てられています。

通常、観察のときには培養器(胚にとっての“お家”で、子宮に近い温度やガス環境が保たれています)から容器を取り出して顕微鏡で確認します。

胚盤胞は立体的でふくらんでいるため、見え方が一方向だけでは分かりにくいことがあります。

そのため、必要に応じて、細いガラスのピペットでそっと転がしながら、さまざまな角度から全体を観察します。

ただし、この方法にはひとつ課題があります。培養器の外に出すことで、温度や環境がわずかに変化し、 胚にとっては負担になる可能性があるという点です。

そこで当院では、「タイムラプスインキュベーター」を使っています。培養器の中にカメラが内蔵されているため、胚を外に出すことなく成長をモニターで追いかけることができます。

「その瞬間の見た目」だけでなく「どう育ってきたか」まで含めて評価できるのが、この装置ならではの強みです。

実際に胚盤胞はどう評価するの?

胚盤胞の評価は、日本を含め多くの施設で「ガードナー分類(Gardner分類)」という方法を用いて行われています1)

2000年にガードナー氏が考案したこの方法は、現在も世界中で標準的な評価方法とされています2)3)

評価は「4BB」というように、1つの数字と2つのアルファベットの組み合わせで表します。

数字が胚盤胞の膨らみ具合(成長ステージ)を、アルファベットがICMとTEの状態をそれぞれ示しています。

<胚盤胞の発育段階2)

ステージ 胚盤胞の発育状態 分類名
1 胚盤胞腔が胚全体の50%未満 初期胚盤胞
2 胚盤胞腔が胚全体の50%以上 胚盤胞
3 胚盤胞腔が胚全体を満たしている 完全胚盤胞
4 胚盤胞腔が初期胚盤胞より大きくなり、透明帯が薄くなった 拡張胚盤胞
5 胚盤胞が孵化中であり、透明帯から脱出しはじめている 孵化中胚盤胞
6 胚盤胞が孵化し、透明帯から完全に脱出した 孵化後胚盤胞

ステージ1〜3は胚盤胞腔の大きさを、ステージ4〜6は透明帯(胚を包む膜)から胚が脱出していく過程を示しています。ステージ数が大きいほど発育が進んだ状態です。

ICMとTEの観察のコツ

アルファベット部分は、ICM(内部細胞塊)とTE(栄養外胚葉)のグレード(状態)を示しています。

では、実際にどのように観察しているのでしょうか。

このポイントを知っておくと、皆様もグレードの見方がわかるようになるかもしれません。

ICMは胚の内側に集まった細胞の塊で、細胞数が多く密集しているほど高いグレードとなります。TEは胚の外側を取り囲む細胞層で、細胞が細かく均一に並んでいるほど高グレードとされます。

グレードはA・B・Cの3段階です。

  • A:細胞数が多く、密度が高い
  • B:細胞数・密度がAとCの中間
  • C:細胞数が少ない、または密度が低い

特にTEは胚の外側を覆う細胞なので、一部分だけを見るのではなく、全体を立体的に観察することが大切です。

また、胚盤胞の中や外に細胞のかけら(断片)が残っている場合もあるため、本来の細胞と見分けながら、慎重に評価を行っています。

なぜ評価にばらつきが出るの?

胚盤胞の評価には、ある程度のばらつきが出ることがあります。

細胞の状態は胚ごとに異なり、「グレードAとBの間」のような中間的な状態も存在します。

また、胚盤胞は時間とともに変化するため、観察のタイミングによって印象が多少変わることもあります。ただし、大きく異なる評価となることは少なく、多くは隣り合うグレード内での差にとどまります。

だからこそ各施設では、評価基準を統一して画像を使った教育やトレーニングを行い、誰が見ても同じ評価になるよう努めています。

近年ではAIによる評価補助も導入されてきており、より客観的な判断につなげる取り組みも進んでいます。

グレードが良ければ染色体も正常?

「グレードが良ければ、染色体も正常なの?」

これはとてもよく聞かれる質問です。結論から言うと、見た目だけで全てが決まるわけではありません。

胚盤胞のグレードが良いと、染色体が正常である可能性はやや高い傾向があると報告されています4)。ただし、胚盤胞の評価はあくまで目安であり、妊娠の可能性や染色体の状態を正確に予測できるものではありません。

実際には、高グレードの胚でも染色体異常がみられることがあり、逆に低グレードの胚でも正常な場合があります。

つまり、グレードは「見た目の評価」、染色体は「中身の情報」であり、両者はある程度の関連はあるもののイコールではありません。

グレードが低い胚でも妊娠・出産に至っているケースは多くあります。グレードはあくまでも参考のひとつであり、移植するかどうかは、担当医や培養士と相談しながら判断していきましょう。

まとめ&胚盤胞クイズの正解

最後までご覧いただき、ありがとうございます。

最初のクイズの正解をお伝えします。

ステージが「4」でICMは密度と量が多い「A」、TEは密集した細胞が細かく均一に並ぶ「A」で、総合評価は「4AA」でした。

最初に見たときと比べて、少し見え方が変わったのではないでしょうか。

今回お伝えしたように、胚盤胞の評価は、膨らみ具合・ICM(赤ちゃんになる部分)・TE(胎盤になる部分)という複数のポイントを総合的に見て判断しています。

ただし、グレードは大切な指標のひとつではありますが、あくまでも見た目の評価です。染色体の状態や妊娠の結果がすべてグレードで決まるわけではありません。

また、胚が5日目に胚盤胞まで育ったか、6日目だったかという発育のスピードも、評価の参考になる大切な要素です。

気になることや不安なことがあれば、いつでも遠慮なく医師や胚培養士に聞いてみてください。

参考文献

1)標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究. 患者さんのための生殖医療ガイドライン. 令和4年度厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業; 2023.
2) American Society for Reproductive Medicine. Grading scales. ASRM Academy.
3)Gardner DK, Lane M, Stevens J, Schlenker T, Schoolcraft WB. Blastocyst score affects implantation and pregnancy outcome: towards a single blastocyst transfer. Fertil Steril. 2000;73(6):1155–1158. 
4)Capalbo A, Rienzi L, Cimadomo D, et al. Correlation between blastocyst morphology and euploidy. Hum Reprod. 2014;29(6):1173–1181.