妊娠していることに気づかず、妊娠初期や妊娠超初期にお酒を飲んでしまい、「赤ちゃんに影響があるのではないか」と不安になる方は少なくありません。
妊娠中の飲酒は避ける必要がありますが、妊娠に気づく前の飲酒が必ず赤ちゃんに影響を及ぼすわけではないため、まずは落ち着いて状況を整理し、それ以降のアルコール摂取を避けることが重要です。
この記事では、妊娠初期・超初期に気づかず飲酒してしまった場合の考え方や、アルコールが母体や胎児に与える影響、妊娠に気づいた後の対処法について解説します。
妊娠初期・超初期に気づかず飲酒してしまったけど大丈夫?対処法は?
妊娠に気づかずに飲酒してしまった場合、まずは慌てずに現在の状況を改めて確認する必要があります。ここでは、妊娠初期・超初期における飲酒のリスクの捉え方と、これからの対処法について解説します。
妊娠に気づく前の少量の飲酒であれば、過度に心配しすぎない
妊娠していることに気づかずにアルコールを飲んでしまったという場合でも、必ず胎児に影響が出るわけではありません。過度に心配しすぎないようにしましょう。
少量のアルコール摂取であり、極端な飲酒量でなければ赤ちゃんへの影響を引き起こす可能性は低いと考えられています。とくに妊娠初期のうち、俗に妊娠超初期とされる妊娠3週目前後までの期間は「all or none」と呼ばれる考え方があります。この期間に有害物質などが摂取された場合、影響が大きければ妊娠が継続せず、妊娠が継続した場合には影響がほとんどなかったという考え方です。
また、妊娠中のアルコールの影響についてはさまざまな研究報告がありますが、2020年の日本の妊婦を対象にした研究では、少量の飲酒では一部の先天的な奇形との関連は認められなかったという結果が示されています1)。
ただし、少量のアルコールであれば妊娠しても飲んで良いということではありません。妊娠中に「この量なら安全」という明確な基準はなく、アルコールの悪影響は多くの研究で確認されているため、可能であれば妊活中から飲酒を控えておくのが安全な予防策といえます。
気づいた後にできる対処法はある?
気づいた後にアルコールの影響をなくす方法はないため、それ以降は飲酒をしないようにすることが対処法となります。
また、念のため妊娠期間中に受診する医療機関には、飲酒した時期や頻度、飲酒量といった状況を伝えておくのがよいでしょう。
妊娠中のアルコール摂取はどの時点でも影響の可能性が知られていますが、特に影響が大きいのは妊娠初期の赤ちゃんの器官が形成される時期と考えられています。そのため、妊娠に気づいた直後からすぐに禁酒をするようにしましょう。
妊娠中の飲酒がNGな理由|アルコールが母体や胎児に与える影響
妊婦がお酒を飲むと、アルコールの成分や体内で分解されてできる有害な物質が胎盤を通過し、赤ちゃんの細胞の増殖や発達を阻害してしまいます。ここでは、母体や赤ちゃんにどのような影響をもたらすのか解説します。
流産や妊娠高血圧症候群などのリスク
妊娠中の飲酒は、流産や死産、早産のリスクを高める要因になります。また、母体への影響として、妊婦の血圧が上昇する妊娠高血圧症候群や、赤ちゃんに酸素や栄養を送る胎盤が出産前に剥がれてしまう常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)など、命に関わる重篤な合併症との関連も指摘されています。
胎児性アルコール症候群(FAS)のリスク
胎児性アルコール症候群(FAS)とは、妊娠中のアルコール摂取により、赤ちゃんに発育の遅れや中枢神経障害、特徴的な顔貌などがみられる状態です。FASには、主に以下のような特徴があります。
- 発育の遅れ:子宮内での発育遅延、低体重や低身長
- 中枢神経障害:発達の遅れ、精神的遅滞、筋緊張の低下など
- 特徴的な顔貌:小頭症、短い眼瞼裂(目が短い)、鼻と上唇の間が平坦、薄い上唇など
日本における胎児性アルコール症候群の頻度は、「アルコール関連神経発達疾患」「アルコール関連先天奇形」を合わせても1万人に1人程度とされていますが、発症した場合には赤ちゃんの発育や神経発達に大きな影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中の飲酒は避ける必要があります。
胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)のリスク
前述したFASの診断基準をすべて満たさなくても、アルコールの影響によって生じるさまざまな症状や障害の総称を「FASD(胎児性アルコール・スペクトラム障害)」と呼びます。
特徴的な顔貌など見た目の特徴や成長の遅れが目立たない場合でも、成長するにつれてADHD(注意欠如・多動症)やうつ病などの精神的な問題が明らかになることもあります。
現時点でFASDを根本的に治す治療法は確立されていないため、妊娠中の飲酒を避け、予防することが重要です。
妊娠初期のアルコールについて実際の影響は?
妊娠初期のアルコールについて、実際にどの程度の影響があるのか調べた研究報告があります。
アメリカで実施された調査では、5,353人の調査対象者のうち49.7%が妊娠初期に飲酒し、12.0%が流産したという結果が示されています。また、最終月経から5~10週目の飲酒は自然流産リスクの増加と関連し、飲酒が1週間続くごとに飲酒しない人と比較して自然流産のリスクが8%増加したという結果も報告されています2)。
この結果からは、妊娠5週目からは明確に流産のリスクが増加する可能性があること、さらに1週続くごとに流産のリスクが増えていくことが想定されます。例えば、妊娠6週よりも7週、8週まで飲酒が続くほどリスクが高まる可能性があるため、やはり妊娠に気づいた時点でなるべく早く飲酒をやめることが重要と考えられます。
妊娠と飲酒に関するよくある質問
Q:妊活中もアルコールを控えるべき?
妊活中は絶対にやめるべきと言えるほどの根拠は現状ありません。しかし、一部の研究結果では妊娠率が下がることも報告されており、排卵障害やホルモンバランスの乱れ、月経周期の異常、卵管での精子輸送の妨げなどが可能性として考えられています。
妊活中もアルコールを控えることで、女性の場合は、妊娠に気づかない時期の飲酒を防げるというメリットもあります。また、男性も、過度な飲酒が精子の状態に悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、パートナーと一緒に取り組むことが望ましいといえます。
妊活中にお酒をやめるべきかについては、以下の記事で詳細をまとめているのであわせてご覧ください。
Q:妊娠初期に飲酒をしたら、赤ちゃんが発達障害になりますか?
先述の胎児性アルコール症候群(FAS)や胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)では、発達障害に関連する発達の遅れや学習・行動面の問題などがみられることがあります。ただし、妊娠初期にアルコールを飲んだからといって、赤ちゃんが必ずFASやFASDになるわけではありません。
海外の研究では、妊娠中にアルコールを摂取した女性の67人に1人が、FASの子供を出産すると推定する結果があり、妊娠中の飲酒が必ずFASとつながるわけではないことがわかります3)。
一方で、妊娠中の飲酒については「この量や頻度であれば安全」といえる明確な基準はありません。赤ちゃんに発達障害などの影響が生じる可能性をできるだけ抑えるためにも、妊娠に気づいた時点で飲酒をやめることが重要です。
Q:出産後、授乳中に飲酒できますか?
授乳中も原則として飲酒は避けるようにしましょう。
母親が飲んだアルコールは、飲んだ量に応じて母乳にも移行します。肝臓の発達が未熟な乳児が母乳からアルコールを摂取すると、発育に悪影響を与える可能性があります。また、飲酒によってプロラクチン(母乳をつくるホルモン)の分泌が抑えられ、母乳の分泌が低下することも知られています。
Q:少量のお酒は体にいいと聞いたことがあります。妊娠中でも同じですか?
「少量のアルコールは心臓に良い」とする研究結果が過去に報告され、広く信じられてきた時期がありましたが、これは現在の医学的見解では否定されています。
2018年に世界195か国のデータを解析した大規模研究(Lancet誌・GBD 2016 Alcohol Collaborators)では、すべての飲酒量に対して健康リスクがあると報告されており、「健康への影響を最小化するアルコール摂取量はゼロ」という結論が示されています。過去に「少量なら安全」あるいは「体に良い」とされてきた知見は、飲酒習慣や健康状態など他の要因を十分に制御できていなかったことによる誤解だった可能性が指摘されています。
とりわけ妊娠中は、母親が摂取したアルコールは胎盤を通じて胎児の血中にも同じ濃度で移行します。成人と異なり、胎児の肝臓はアルコールを分解する能力がほとんど発達していないため、母親が「少量」と感じる量でも、胎児にとっては解毒できない状態が続きます。「一般的な成人にとっての少量」は妊娠中の胎児には当てはまらないのです。
妊娠中のアルコール摂取について「この量なら安全」と言える基準は現時点で存在しません。妊娠がわかった時点から、どの量であっても飲酒は避けてください。
院長からのメッセージ
妊娠に気づく前にお酒を飲んでいた——そのことを後から知って後悔しているという方からの相談を受けることがあります。まず伝えたいのは、過度に心配し過ぎず、気づいた今日から飲まないこと。それが確実に取れる適切な行動です。
「アルコールは少量なら大丈夫」「お酒は適度なら体にいい」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。一般的な成人の心疾患予防に関する古い研究でそのような報告があった時期がありましたが、現在の大規模な研究ではその考えは否定されており、現在はすべての飲酒量に対して健康リスクがあるとされています。
さらに妊娠中は影響が大きくなります。母親が飲んだアルコールは胎盤を通じて赤ちゃんの血液にも入りますが、赤ちゃんの肝臓はアルコールを分解する力がほぼありません。成人に「少量」であっても、赤ちゃんにとっては全量が解毒できない状態です。
「この量なら安全」という明確な基準は現在の医学にはありません。これは「少量でも必ず問題が起きる」という意味ではありませんが、「安全と言える量がわからないから、どの量も避ける」という判断が正しいということです。
今後の経過について心配なことがあれば、次の受診時に遠慮なく話してください。
参考文献
1)Kurita H, Motoki N, Inaba Y, Misawa Y, Ohira S, Kanai M, Tsukahara T, Nomiyama T; Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group. Maternal alcohol consumption and risk of offspring with congenital malformation: the Japan Environment and Children's Study. Pediatr Res. 2021 Aug;90(2):479-486.
https://www.nature.com/articles/s41390-020-01274-9
2)Sundermann AC, Velez Edwards DR, Slaughter JC, Wu P, Jones SH, Torstenson ES, Hartmann KE. Week-by-week alcohol consumption in early pregnancy and spontaneous abortion risk: a prospective cohort study. Am J Obstet Gynecol. 2021 Jan;224(1):97.e1-97.e16.
https://www.ajog.org/article/S0002-9378(20)30725-0/fulltext
3)Popova S, Lange S, Probst C, Gmel G, Rehm J. Estimation of national, regional, and global prevalence of alcohol use during pregnancy and fetal alcohol syndrome: a systematic review and meta-analysis. Lancet Glob Health. 2017 Mar;5(3):e290-e299. doi: 10.1016/S2214-109X(17)30021-9. Epub 2017 Jan 13. Erratum in: Lancet Glob Health. 2017 Mar;5(3):e276.
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S2214-109X(17)30021-9
4)GBD 2016 Alcohol Collaborators. Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. Lancet. 2018;392(10152):1015-1035.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(18)31310-2/fulltext







