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胚移植(ET)

最適なタイミングで、子宮というベッドへ。

体外で受精し、培養室で大切に育てられた胚(受精卵)を、子宮の中に戻す処置を「胚移植(ET)」といいます。 これが、不妊治療の最後のステップです。「いつ戻すか」「どの状態で戻すか」は、妊娠率を左右する非常に重要な要素です。

ORINAS ART CLINICでは、子宮内膜の状態を万全に整えた上で移植を行う「凍結融解胚移植」を基本とし、患者様の排卵リズムやリスク因子に合わせて最適な準備方法(ホルモン補充周期または自然周期)をご提案します。

胚移植の種類:まずは「凍結融解胚移植」が基本

大きく分けて「新鮮胚移植」と「凍結融解胚移植」がありますが、当院ではメリットの大きい凍結融解胚移植を第一選択としています。

1. 凍結融解胚移植(現在の主流)

採卵した周期には移植せず、一度すべての胚を凍結保存(全胚凍結)します。 採卵の翌周期以降、子宮内膜を最適な状態に整えてから、胚を融解して移植します。

  • メリット:
    • 採卵の刺激によるホルモンバランスの乱れがリセットされ、子宮内膜が万全の状態(着床の窓が開いた状態)になります。
    • OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクを回避できます。
    • 新鮮胚移植よりも妊娠率が高いことが多くのデータで証明されています。

2. 新鮮胚移植

採卵したその周期(採卵から2〜5日後)に、育った胚をそのまま移植します。

  • メリット: 治療期間が短くなります。
  • デメリット: 卵巣刺激の影響で子宮内膜の状態が万全でない場合があり、妊娠率がやや劣る可能性があります。

凍結融解胚移植の準備方法:ホルモン補充 vs 自然周期

凍結した胚を戻す際、「どうやって子宮内膜を準備するか」にはいくつかの方法があります。 以前はスケジュール調整がしやすい「ホルモン補充周期」が主流でしたが、近年、「自然周期」のメリット(母体合併症の低下など)を示すエビデンスが増えてきており、当院でも積極的に選択肢として提示しています。

1. ホルモン補充周期(HRT)

お薬(貼り薬や飲み薬)でエストロゲンを投与し、排卵を抑えながら人工的に内膜を厚くします。その後、黄体ホルモン剤を開始して着床の準備を整えます。

  • メリット:
    • 排卵日がずれる心配がなく、移植日のスケジュールを決めやすい。
    • 排卵障害がある方でも安定して移植ができる。
  • デメリット:
    • 妊娠10週頃までお薬を続ける必要がある(忘れると流産のリスクがある)。
    • 「黄体(Corpus Luteum)」ができないため、妊娠高血圧症候群などの周産期合併症のリスクがわずかに上昇するという報告がある。

2. 自然周期(NC) / 修正自然周期(mNC)

ご自身の自然な排卵リズムを利用して移植する方法です。排卵によって形成される「黄体」から出るホルモンを利用します。

  • メリット:
    • 周産期合併症のリスク低下: 黄体から分泌される生理活性物質が血管形成などを助け、妊娠高血圧症候群や癒着胎盤のリスクを下げるという最新のエビデンスがあります。
    • 流産率の低下: ホルモン補充周期に比べて流産率が低いという報告もあります。
    • 薬の使用量が少なく、通院終了(卒院)も早くなる傾向があります。
  • デメリット:
    • 排卵日を特定するために頻回な通院が必要になることがある。
    • 排卵がずれると移植日が変更になる可能性がある。

※当院で行う自然周期のバリエーション

  • 完全自然周期: 薬を全く使わず、自身の排卵のみで行う方法。
  • 修正自然周期(mNC): 排卵を確実にするために、hCG注射(トリガー)のみ併用する方法。
  • 排卵誘発併用周期(OI): 排卵が不安定な方に対し、フェマーラ(レトロゾール)や少量の注射を使って排卵を促し、黄体を作ってから移植する方法。PCOSの方などに有効です。

当院で使用する主な薬剤(ホルモン補充周期の場合)

ホルモン補充周期では、お薬の力で着床環境を人工的に作り出します。 自分のホルモンが出ない状態で移植を行うため、妊娠判定日(および妊娠成立後)まで、指示通りにお薬を続けることが非常に重要です。

1. 子宮内膜を厚くするお薬(卵胞ホルモン剤)

生理開始頃から使用を始め、子宮内膜を厚く育てます。

薬剤名 特徴
エストラーナテープ 【貼り薬】 下腹部や臀部に貼るパッチタイプのお薬です。2日に1回張り替えます。皮膚から直接吸収されるため、肝臓への負担が少なく、安定した効果が得られます。
ル・エストロジェル 【塗り薬】 腕や太ももに塗るジェルタイプのお薬です。テープでかぶれやすい方などに使用します。1日1回〜数回塗布します。

2. 着床を助け、妊娠を維持するお薬(黄体ホルモン剤)

内膜が十分に厚くなったら、このお薬を追加して「着床できる状態」へと変化させます。移植後も妊娠維持のために不可欠です。

薬剤名 特徴
ワンクリノン ウトロゲスタン ルテウム 【腟座薬】 腟内に直接挿入するお薬です。子宮に高濃度のホルモンを直接届けることができるため、着床環境を整える効果が非常に高いのが特徴です。 ※種類によって1日1回〜3回と使用回数が異なります。ライフスタイルに合わせて選択します。
デュファストン ルトラール 【飲み薬】 内服の黄体ホルモン剤です。腟座薬の補助として使用したり、ホルモン値によっては単独で使用したりすることもあります。

移植の手順と痛みについて

胚移植は、採卵とは違って痛みはほとんどありません。 麻酔も不要です。人工授精と同じような処置と思っていただければ大丈夫です。

Step 手順
1 内診と同じ格好で内診台に上がります(スカートは履いたままで結構です)。
2 腟内を洗浄し、細く柔らかいガイドカテーテルを子宮内に挿入します。
3 培養士が融解した胚を細いカテーテルにローディングします。
4 経腟超音波モニターで確認しながら、子宮の奥の最適な位置に胚をそっと置きます。
5 カテーテルを抜き、胚が残っていないかを確認して終了です。所要時間は5〜10分程度です。

着床を助けるオプション技術

アシステッドハッチング(AHA:孵化補助法)

受精卵は「透明帯」という殻を破って外に出る(孵化する)ことで着床します。 凍結・融解した胚や、高齢の方の胚は、この透明帯が硬くなっていることがあります。そこで、レーザーで透明帯に小さな穴を開けたり薄くしたりして、孵化しやすくする技術です。

高濃度ヒアルロン酸含有培養液

移植の際に、ヒアルロン酸を多く含んだ培養液を使用することで、胚と子宮内膜の接着を助け、着床率を向上させることが期待できます。

上條 慎太郎
ORINAS ART CLINIC 院長

「おかえりなさい」の瞬間を、万全の状態で。

胚移植は、培養室で育った赤ちゃんの種が、お母さんのお腹の中に帰ってくる感動的な瞬間です。

私たちは、この瞬間のために準備を重ねてきました。 採卵周期の疲れが残った内膜に戻すのではなく、一度リセットして、「ふかふかのベッド」を用意してあげてから戻す。 それが、遠回りのようでいて、実は妊娠への一番の近道(凍結融解胚移植)なのです。

また、移植方法についても、以前はお薬でコントロールする「ホルモン補充周期」が一般的でしたが、最近の研究ではご自身の排卵リズムを活かした「自然周期」の方が、妊娠中の合併症が少ないというデータが出てきています。 「スケジュールが合わせやすいから」という理由だけで決めるのではなく、お一人おひとりの体質やリスクを考慮し、母子ともに安全な出産に繋がる方法を一緒に選びましょう。

移植の痛みはほとんどありません。モニターで、胚が子宮の中に戻っていく様子を白い光としてご自身でも確認いただけます。 リラックスして、お迎えしてあげてください。

ORINAS ART CLINIC 院長

上條 慎太郎