胚移植後から判定日の間は、「今の時期に着床は起きているのかな」「この症状は着床のサインなんだろうか」と、期待と不安を感じる落ち着かない時期ですよね。
移植後にみられる体調変化は、着床が関係することもありますが、移植に関わる処置や薬の影響でも起こることがあります。そのため、症状だけで着床を判断することはできません。
判定日までの経過をみるうえでは、体調変化が起こる背景を理解することが役立ちます。この記事では、胚移植後に着床が起こる時期や仕組み、体調変化との関係について解説します。
胚移植後に着床が起こる時期の目安
受精から着床までにはおよそ7日かかるとされます。移植時点の胚の成長段階から考えると、着床がはじまる時期の目安は以下のとおりです1)。
- 初期胚移植(培養開始後2〜3日目の胚):移植後およそ4~5日
- 胚盤胞移植(培養開始後5〜6日目の胚):移植後およそ1~2日
初期胚移植では、子宮に戻したあとに胚盤胞まで成長してから着床するため、着床までに日数がかかります。一方、胚盤胞移植ではすでに着床する直前まで育った胚を移植するため、比較的早く着床がはじまると考えられます。
胚移植1回あたりの妊娠率
2023年の体外受精・胚移植等の臨床実施成績によると、胚移植1回あたりの妊娠率(全国集計)は以下のとおりです2)。(なお、この数値は妊娠反応が確認された割合であり、出産まで至った割合はこれよりも低くなります。)
- 凍結融解胚移植:約40.5%
- 新鮮胚移植:約23.1%
凍結融解胚移植が新鮮胚移植よりも妊娠率が高い背景には、子宮内膜の状態を整えやすいことなどが関係していると考えられます。
着床が成立するまでの流れ
胚移植には、主に2つの方法があります。
- 新鮮胚移植:採卵したその周期に胚を移植する方法
- 凍結融解胚移植:採卵した胚を一度凍結保存してから別の周期に融解して移植する方法
胚移植後、子宮内の胚盤胞は透明帯と呼ばれる薄い膜から孵化した後、以下3つの段階を経て着床に進みます。
- 近づく(接近):孵化した胚盤胞が、子宮内膜の表面に接近する
- くっつく(接着):子宮内膜に近づいた胚盤胞は、内膜の表面と結合する
- 入り込む(侵入):胚盤胞が子宮内膜の中へと入り込む
その後、胚が母体の血液供給を受けられる状態になると着床が成立します。この過程が順調に進むためには、胚側と子宮側それぞれの状態が整っている必要があります。
着床に関わる条件
着床の成立には、胚の状態と子宮内膜の状態、どちらも整っていることが必要です。胚の状態としては、胚の成長具合や染色体異常の有無が大きく関わっています。子宮内膜の状態としては、内膜の厚さや形、炎症の有無のほか、移植の時期が胚を受け入れられる受容期に合っているかということも重要です。
着床にはこれらの要素が複合的に関わっており、胚のグレードや子宮内膜の厚さだけで着床のしやすさを判断できるわけではありません。
胚の状態やグレードについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
着床の成立は症状で判断できる?
移植後に下腹部の違和感や少量の出血などがみられることはありますが、体調変化で着床の有無を判断することはできません。これらの変化は、着床にともなって生じる可能性がある一方で、治療の影響でも起こりやすいためです。
また、着床していても特に変化を感じない方もいます。判定日までは妊娠のごく初期にあたるため、目立った変化を感じないことは珍しくありません。
妊娠判定は、胚移植後10日目〜2週間後頃に血液検査で行います。それまでの時期は、検出する尿中hCGが十分ではなく、市販の検査薬では正確な結果が得られない可能性があります。決められた日に受診して、正確な判定を受けてください。
なお、出血量が増える、発熱がある、強い腹痛がある場合は、判定日を待たず速やかに受診してください。
胚移植後から判定日までの過ごし方
胚移植後は、医師から特別な指示がない限り、基本的には普段どおりに過ごしてかまいません。過度な安静は必要とされておらず、無理のない範囲で日常生活を続けることが基本です。ただし、激しい運動や肉体労働については、控えるよう案内されることがあります。
判定日までの期間は、結果を待つことによる緊張や不安を感じやすい時期でもあります。仕事に不安がある場合は、厚生労働省が作成している「不妊治療連絡カード」を活用し、職場に配慮を求めるのも選択肢です。
身体的な変化だけでなく、精神的な負担も大きい時期です。無理をせず過ごすことを心がけてみてください。
胚移植後の着床に関するよくある質問
胚移植後の着床に関するよくある質問についてお答えします。
Q.症状がない場合、着床していない可能性がありますか?
症状がないからといって、着床していないとは限りません。判定日までは妊娠のごく初期にあたるため、目立った変化がみられないこともあります。また、妊娠初期症状のあらわれ方には個人差があり、症状が出ないこともあります。
Q. 判定日より前に市販の妊娠検査薬を使ってもいいですか?
判定日前に市販の妊娠検査薬を使っても、正確に判断できないことがあります。
移植後まもない時期は、検査薬が反応するホルモン(hCG)がまだ十分に分泌されておらず、妊娠していても市販の妊娠検査薬では陰性と出る可能性があります。
また、排卵を促す薬(hCG製剤)を使用している場合は、薬の影響で妊娠していなくても陽性と出ることがあります。
正確な判定は、決められた日に医療機関で受けるのが確実です。
Q.移植後の出血は着床のサインですか?
移植後の出血は、必ずしも着床のサインとは限りません。出血が起きる原因には、移植処置の影響やホルモン剤の影響も考えられます。量や色などの特徴で区別するのも困難です。
少量の出血であれば様子をみてかまいませんが、出血量が多い場合は判定日を待たず医師に相談してください。
院長からのメッセージ
胚移植後から判定日までの期間は、患者さんにとって本当に落ち着かない日々だと思います。「今ごろ着床しているのかな」「この症状は何かのサインかな」と、身体の変化に敏感になるのは当然のことです。
ただ、正直にお伝えすると、症状だけで着床の有無を判断することは医学的には不可能です。移植後に感じる体の変化のほとんどは、黄体ホルモン剤の影響や移植処置の刺激によるものでもありえるものです。症状があるから着床している、症状がないから着床していない、という関係は成り立ちません。
着床というのは、胚盤胞が子宮内膜に近づき、くっつき、内膜の中へと入り込んでいくプロセスです。この過程は数日かけてゆっくり進んでいきます。この過程は、体の外から見ても何も分からない時間なのです。判定日は、このプロセスが完了した後にhCGというホルモンが血液中に検出できるレベルに達するタイミングに設定されています。尿中に出てくるhCGは血中よりもさらに少ないため、それより前に市販の検査薬を使っても、正確な結果は出ません。
移植後は基本的には「普段どおりに過ごしてください」とお伝えしています。過度な安静が妊娠率を上げるというエビデンスはなく、無理に動かないことが逆にストレスになる方もいます。できるだけいつもの生活リズムを保ちながら、判定日を迎えていただければと思います。
参考文献
1)標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究. 患者さんのための生殖医療ガイドライン. 令和4年度厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業; 2023.
2)日本産科婦人科学会. 2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績. 2025.
獨協医科大学埼玉医療センターリプロダクションセンター. 体外受精・顕微授精について. 獨協医科大学病院ウェブサイト.






