最終更新日:
2026-03-14

卵子凍結を検討しはじめたとき、「結局いくらかかるのか」が一番気になる方は 少なくないのではないでしょうか。 調べてみると医療機関ごとに金額が異なり、全体像がつかみにくいと感じることもあります。 

卵子凍結の費用は、採卵時だけでなく、保管を続ける期間や将来の使用時にも発生します。 

本記事では、費用の構造・変動要因・助成制度を整理し、 費用の全体像を把握するための情報をまとめています。

なお、本記事では特定の金額や相場の提示は行っていません。 費用は医療機関・個人の状態・保管期間によって大きく異なります。具体的な金額は、受診する医療機関に直接確認することをおすすめします。

卵子凍結とは

卵子凍結とは、将来の妊娠に備えて卵巣から採取した卵子を凍結保存する方法で、その目的(適応)は大きく分けて2種類あります1)

  • がん治療などで卵巣機能の低下が見込まれる「医学的適応」3)
  • ライフプランに合わせて妊娠の選択肢を残す「社会的適応」3)

凍結した卵子を将来使用する際には、顕微授精や胚移植といった生殖補助医療が必要になります。

卵子凍結は、凍結時だけでなくその後の費用も含めた全体像で考えるとよいでしょう。

卵子凍結にかかる費用の全体像

卵子凍結は以下の3段階で行われ、それぞれの時点で費用が発生します。

  • 採卵・凍結にかかる初期費用
  • 凍結保管を続ける間の更新費用
  • 将来使用する際の費用

卵子凍結の費用というと、採卵凍結時の費用だけに目が向きがちですが、保管中や使用時にも費用が発生する点を押さえておく必要があります。

それぞれの時点でかかる費用について詳しく見ていきましょう。

採卵・凍結にかかる初期費用の内訳

卵子凍結の採卵・凍結時にかかる初期費用の内訳は大きく分けて以下のように分かれています。

  • 事前検査
  • 排卵誘発の投薬
  • 採卵手術
  • 卵子の凍結処理

事前検査では、ホルモン値の測定や超音波検査などを行い、卵巣の状態を確認するほか、術前の検査としてそもそも卵巣刺激をしてよい体調か、採卵手術をしても問題がないかなどを確認します。

その後、排卵誘発剤の内服や注射によって卵巣刺激をすることでできるだけ多くの卵子を育て、それらの卵子が十分に成熟したところで採卵手術を実施します1)

排卵誘発の方法にはいくつかの種類があり、どの方法を選択するかによって通院回数やお薬の量が変わるため、費用にも差が生じます。

また、1回の採卵で目標とする個数に届かなかった場合は、複数回の採卵周期が必要になることもあります3)

採卵回数が増えるほど、その分だけ初期費用の総額も大きくなります。具体的な費用は医療機関ごとに異なるため、複数の施設に事前に確認して比較することも有用です。

凍結保管を続ける間にかかる更新費用

凍結した卵子の保管料は、多くの医療機関で毎年発生します。

保管期間は1年ごとの更新制を採用している医療機関が多く、使用または破棄するまで延長費用がかかり続ける仕組みです。

保管料は凍結容器(ストロー・クライオトップなど)の本数単位で設定されるケースのほか、個数にかかわらず一定額となるケースもあります。

卵子凍結の費用は、時間の経過とともに積み上がる構造です。保管を5年続けた場合と10年続けた場合では、累計の保管料に大きな差が生まれます。

凍結した時点では使用時期が見えないことも多く、保管が長期化するほど初期費用を上回る負担になる可能性も考えておく必要があるでしょう。

凍結した卵子を結果的に使用しなかった場合でも、それまでに支払った保管料が返金されることはありません。

ただし、破棄の意思を医療機関に伝えることで、それ以降の保管料は発生しなくなります。保管を続けるかどうかは、将来設計とのバランスのなかで判断していくことになります。凍結前の段階で「いつまで保管するか」の目安を持っておくことがひとつの考え方です。

保管期間や更新の条件は施設によって異なるため、凍結前に確認しておくと安心でしょう。

将来使用する際にかかる費用

凍結卵子を使用する際には、融解・体外受精(顕微授精)・胚培養・胚移植の各工程に費用がかかります4)

凍結した卵子は、通常の体外受精では受精率が下がる傾向があるため、 多くの場合、顕微授精による受精操作が選択されます3)

受精後は培養を経て着床の直前まで成熟した胚(受精卵)を育て、子宮に移植するという流れになります。

つまり、卵子凍結の費用とは別に、生殖補助医療1サイクル分程度(体外受精~胚移植)の費用が発生すると考えておく必要があります。

また、胚移植で妊娠に至らなかった場合は、再度移植までの工程を繰り返すことになります3)

移植の回数が増えるほど、その分だけ使用時の費用も加算されていく点は事前に把握しておきたいポイントです。

使用時の費用や必要な回数の見通しについて、早い段階で医師に相談しておくと計画が立てやすくなります。

費用が変動する主な要因

卵子凍結の費用総額は、複数の要因がかけ合わさることによって大きく変動します。

  • 採卵時の年齢
  • AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値
  • 凍結した個数による保管料の違い
  • 保管を続ける年数
  • 使用時の胚移植回数

一律の総額を事前に算出することは難しく、初期費用だけを比較しても費用全体の判断にはなりません。

特に影響が大きいのが、採卵時の年齢です。年齢が上がると卵子の質(染色体正常率)が低下するため、妊娠に至るために必要な卵子の個数が増加する傾向があります。その結果、目標個数を確保するために複数回の採卵が必要になるケースが増えます3)

日本生殖医学会の指針では、社会的適応による卵子凍結については、 採取時の年齢が36歳未満であることが望ましいとされています3)。36歳以上でも相談できる場合がありますが、採卵個数や妊娠率への影響については、 個別に医師に確認しましょう。

AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値も採卵個数に影響を与える要素のひとつです。AMHの値が低い場合、1回の採卵で得られる卵子が少なくなる傾向があり、 目標個数に達するまでに複数回の採卵が必要になることがあります。 これが初期費用の総額を押し上げる要因のひとつになります。

卵子凍結は保険適用外|費用負担を抑える方法

社会的適応による卵子凍結は保険適用外の自由診療であるため、費用は全額自己負担となります。ただし、一部の自治体では卵子凍結に対する助成金制度が設けられており、条件を満たせば費用負担を軽減できる場合があります。

ここでは、2026年時点で利用できる主な助成制度を確認していきます。

東京都の助成金制度

東京都では、18歳から39歳までの都内在住女性を対象に、卵子凍結にかかる費用の助成を行っています4)

<助成額4)

  • 凍結時に上限20万円(費用の一部)
  • 次年度以降は保管に関する調査に回答を条件に、1年ごとに一定額を助成

※金額・条件は年度ごとに変更になる場合があります。 最新情報は東京都福祉局の公式ページで確認してください。

利用には、都が開催する説明会への参加と、調査事業への協力申請が必要で、助成はひとりにつき1回限りです。

申請条件の詳細は東京都福祉局の公式ページで最新情報を確認してください。

東京都以外の自治体でも助成が広がっている

卵子凍結に対する助成制度は、東京都だけでなく他の自治体にも広がりつつあります。

山梨県では、動画視聴形式のセミナーを受講と登録施設で卵子凍結を行った方を対象に費用の補助を実施しています5)。大阪府では、プレコン講座の受講とAMH検査を経たうえで、AMH値が一定基準以下と判定された方や早発卵巣不全と診断された方を対象とした助成制度があります6)

このほか市区町村単位で独自の助成制度を設けている自治体もあるため、住んでいる地域の最新情報を確認してください。

卵子凍結の費用に関するよくある質問

ここでは、費用に関して寄せられることの多い疑問に回答します。

卵子凍結は医療費控除の対象となりますか?

国税庁は不妊症の治療費が医療費控除の対象になると公表しています。

社会的適応の卵子凍結については、国税庁から個別の見解は示されていません。不妊治療を目的としない予防的な卵子凍結は対象外とみなされる場合が多く、詳細は税務署または税理士にご確認ください。

一方、医学的適応による卵子凍結の場合は控除の対象となり得ますが、最終的な判断はケースごとに異なります。

適用の可否については、税務署または税理士に確認しておくと安心です。

院長からのメッセージ

卵子凍結の費用について調べはじめると、「結局いくらかかるのか」という答えがなかなか見えてこない、という声をよく耳にします。この記事でも解説しているように、費用が「一律ではない」のは、費用が発生するタイミングが採卵時・保管中・使用時の3段階に分散しており、それぞれの段階で個人差や選択の幅があるからです。

その中でも、専門医の立場からひとつ補足させていただきたい部分があります。費用の中で、特に見落とされがちなのが「保管料の累積」です。凍結した時点では使用時期が見えないことが多く、気づけば保管料の総額が高額になっていた、というケースは珍しくありません。凍結前の段階で、「いつまで保管するか(≒いつ使用するか)」の大まかな見通しを持っておくことは、費用設計のうえで非常に重要です。

また、AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値は「卵子の数の目安」であって、妊娠のしやすさを直接示すものではありません。AMHが低くても卵子の質が良い方はいますし、逆もあります。費用の見通しを立てる意味でも、AMH値だけで判断するのではなく、担当医師と個別の状況をしっかり話し合ってから方針を決めることをお勧めします。

費用は確かに重要な要素ですが、最終的には「この選択が自分のライフプランに合っているか」「自分の求めるライフプランを実現するうえで必要な選択か」という視点で検討いただければと思います。

参考文献

  1. ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ
  2. 倫理委員会報告「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針」
  3. (3)生殖補助医療
  4. 事業の概要|卵子凍結に係る費用の助成|東京都福祉局
  5. 山梨県/卵子凍結支援事業
  6. プレコンセプションケアに取組む女性への支援​ ~大阪府早発卵巣不全患者等妊よう性温存治療助成試行事業について