「産婦人科なのに、なぜ甲状腺を調べるの?」と疑問に思われるかもしれません。
甲状腺ホルモンは、身体の代謝を活発にする「元気の源」のようなホルモンですが、実は卵胞の成熟や妊娠の維持、そしてお腹の赤ちゃんの脳の発達に極めて重要な役割を果たしています。
不妊治療において特に見逃されがちなのが、自覚症状がほとんどない「潜在性甲状腺機能低下症」です。
これを放置したままでは、排卵障害や着床不全の原因になるだけでなく、流産率が上昇したり、胎児の発達に影響を及ぼしたりするリスクがあります。
ORINAS ART CLINICでは、妊娠を望むすべての方にスクリーニング検査を推奨しています。
理由は大きく分けて2つあります。
甲状腺ホルモンが不足すると、プロラクチンというホルモンの分泌異常を引き起こし、排卵障害や黄体機能不全(着床しにくい状態)の原因となります。また、甲状腺機能異常は流産や早産のリスクを高めることが多くの研究で報告されています。
妊娠初期(12週頃まで)の胎児は、自分で甲状腺ホルモンを作ることができません。脳や神経の発達に必要なホルモンを、すべてお母さんからもらっています。
この時期にお母さんのホルモンが不足していると、赤ちゃんの知能発達や神経発達に影響が出る可能性が指摘されています。
ここが最も重要なポイントです。
一般的な健康診断で「異常なし」と言われても、妊娠を目指す場合は不十分なことがあります。
米国甲状腺学会(ATA)などのガイドラインでは、妊娠希望者や妊娠初期においては、より厳格なコントロール目標としてTSH(甲状腺刺激ホルモン) 2.5μIU/mL以下が推奨される場合があります。
当院でもこの基準を参考に、個々のリスク因子(抗体の有無など)を考慮しながら、必要に応じて早期の治療介入を行っています。
甲状腺ホルモン(FT4)は正常範囲内ですが、脳からの指令ホルモン(TSH)が高くなっている状態です。
自覚症状(寒がり、むくみ、便秘など)はほとんどありませんが、卵巣機能や妊娠予後には悪影響を及ぼすため、不妊治療においては治療対象となります。
潜在性よりもさらに進んで、甲状腺ホルモン(FT4)そのものが基準値より低くなっている状態です。自己免疫疾患である「橋本病(慢性甲状腺炎)」が原因であることが多く、女性に非常に多い病気です。
強い倦怠感や身体の冷え、むくみなどの症状が出ることがあります。不妊や流産の原因となるだけでなく、妊娠中の胎児の発育にも強く影響するため、必ずお薬での治療が必要です。
ホルモンが過剰に出ている状態です。生理不順や無月経の原因になるほか、妊娠高血圧症候群や、胎児への影響(甲状腺機能異常)のリスクがあります。
採血のみで詳しく調べることができます。
検査で異常が見つかった場合でも、過度に心配する必要はありません。適切に管理すれば、安全に妊娠・出産が可能です。
不妊原因の精査として行う場合、保険適用となります。
Q. 薬はずっと飲み続けなければなりませんか?
A. 潜在性低下症の場合、出産が終わるまで内服を続けていただくことが多いです。産後はホルモン値が戻ることがあり、休薬できるケースもあります。医師と相談しながら調整します。
Q. ヨード(海藻類など)の摂取は控えた方がいいですか?
A. 日本人は普段の食事(昆布だし、海苔など)から十分すぎるほどのヨードを摂取しています。過剰摂取は逆に甲状腺機能を低下させることがあるため、昆布エキスの入ったサプリメントや、うがい薬の頻用などは避けた方が無難ですが、神経質になりすぎる必要はありません。