精子症かどうかは、精液の色や量、体つきといった見た目だけで判断することはできません。精子の有無を正確に確認するためには、医療機関での精液検査が必要です。
この記事では、無精子症が見た目で判断できない理由を整理したうえで、無精子症の種類や主な原因、調べ方について解説します。
男性不妊や検査に関して、詳しくは以下の記事をご覧ください。
無精子症かどうかは精液の見た目や体つきでわかる?
無精子症かどうかは、精液の見た目や体つきだけでは判断できません。まず大切なことは、精液と精子は別物だということです。
精子は精巣で作られますが、射出される精液のほとんど(約95%以上)は前立腺や精嚢から分泌される液体です。つまり、私たちが目にする精液の色や量は、精子そのものの状態ではなく、これらの液体の状態を反映しているのです。
そのため、精液が白く濁っていても、その中に精子が全く含まれていないことがあります。逆に、精液が透明に近くても、精子がしっかり存在していることもあります。
無精子症の原因によっては、精巣の大きさや体毛の量などが参考になることもありますが、外見に特別な異常が見られないまま無精子症と診断されるケースも少なくありません。
無精子症かどうかを正確に確認するには、医療機関で精液検査を受けることが必要です。
無精子症の種類と原因
無精子症とは、精液中に精子が全くいない状態のことで、大きく分けて「閉塞性無精子症」と「非閉塞性無精子症」の2つのタイプがあります。
精巣で精子がつくられていても、精子の通り道が塞がっているために、射出される精液に精子が含まれていないものを閉塞性無精子症と呼びます。一方、精子の通り道に異常はないものの、精子をつくる機能が障害されているものを非閉塞性無精子症といいます。
次にあげるものが、無精子症の原因として考えられています。
- 先天的な染色体異常
- 鼠経ヘルニア手術の後遺症
- 精子の通り道がない先天奇形
- 小児期の停留睾丸による精巣機能低下
- 精巣炎や前立腺炎、精巣上体の感染症
- 放射線治療や抗がん剤治療による精巣機能低下 など
男性不妊症の精液検査では、10人に1人ほどの割合で無精子症と診断されていて1)、そのうち約60%は非閉塞性無精子症とされています2)。
無精子症を調べる方法
無精子症かどうかを調べる方法として、精液検査やホルモン検査などがあります。これらの検査を組み合わせて、無精子症のタイプや原因を調べることで、適切な治療方針を立てていきます。
精液検査
精液検査は、男性の妊娠する力を把握できる検査のひとつで、精液量や運動性、精子形態などを評価します。
精子の状態は体調やストレスの影響を受けやすく、検査のたびに数値が変わることがあります。そのため、1回の結果だけで判断せず、複数回検査することもあります。たとえ最初の数値が悪くても、日を改めて検査すると正常値になるケースも珍しくありません。
検査結果は、WHO(世界保健機関)が定めた、以下の下限基準値をもとに評価されます(WHOラボマニュアル第6版)3)。
上記の下限基準値は、自然妊娠できた人の下位5%にあたる数値で、「妊娠できる可能性のある最低限のライン」という意味です。あくまで目安であり、この基準値以下で自然妊娠する方もいれば、基準値を超えていても妊娠が難しい方もいます。
ホルモン検査(血液検査)
精液検査で無精子症が疑われる場合には、原因を調べるために血液検査でホルモン(FSHやLH、テストステロンなど)の値を調べます。
FSHやLHが高値の場合は、精巣に何らかの障害が起きている可能性があります。とくにFSH値は、閉塞性無精子症か非閉塞性無精子症かを見分けるための、大切な手がかりになります。
ホルモン検査で異常が見つかった場合、その原因を特定するためにさらに詳しい検査を行うこともあります。
染色体・遺伝子検査(血液検査)
精液所見で無精子症や高度乏精子症が見られた場合は、血液検査で染色体や遺伝子について調べることがあります。常染色体や性染色体に異常があると、精子の産生が極端に低下することがあります。
代表的な疾患のひとつであるクラインフェルター症候群は、男性の性染色体にX染色体が1つ以上多いことで生じる疾患で、無精子症をともなうことがあります。また、Y染色体微小欠失は、Y染色体長腕のAZF領域に存在する精子をつくる際に関連した遺伝子群に欠失がある遺伝的異常です。これらの疾患は、染色体・遺伝子検査で判明することがあります。
精液検査が受けられる場所
精液検査は、不妊治療クリニックや、不妊症に対応する泌尿器科で受けられます。
不妊治療専門クリニックであれば、男女それぞれの検査に対応しているため、パートナーと一緒に受診しやすいメリットがあります。
一方、男性不妊に特化した泌尿器科では、生殖機能の専門医が在籍している施設もあり、精液検査だけでなく、異常が見つかった場合の精密検査まで対応できることがあります。ただし、すべての泌尿器科で精液検査を実施しているわけではないため、事前に確認しておくと安心です。
無精子症の治療法
無精子症に対する治療は、精子の通り道が詰まっている「閉塞性無精子症」と、精子がうまくつくられない「非閉塞性無精子症」で方法が変わります。
閉塞性無精子症では原因に応じて、詰まった精子の通り道をつなぎ直す手術(精路再建術)や、精巣や精巣上体から直接精子を採取する手術(精巣精子採取術や顕微鏡下精巣上体精子採取術)が検討されます。
非閉塞性無精子症の場合は、顕微鏡をつかって精巣の中を調べる「顕微鏡下精巣内精子採取術(micro TESE)」という手術が行われることがあります。精子をつくる機能が低下していても、ごく一部に精子がつくられている場所が残っていることがあるためです。もし精子が見つかれば、その精子を卵子に直接注入する顕微授精(ICSI)によって、妊娠を目指すことができます。
無精子症の見た目に関するよくある質問
ここでは、無精子症の見た目に関するよくある質問について回答します。
男性不妊の原因になる精索静脈瘤は見た目でわかる?
精索静脈瘤では、症状が進行すると陰嚢にぶどうの房状のふくらみとして確認できる場合があります。主な症状は、そけい部(足の付け根)の痛みや陰嚢の不快感などですが、無症状であることも少なくありません。
精索静脈瘤は、精巣から心臓へ戻る静脈に逆流が起こり、精索内の静脈がこぶ状に拡張する状態をいいます。精巣の左側に発生するケースが多く、造精機能障害(精巣で精子をつくる力が弱まる)の原因として、約30%に認められます4)。
無精子症かどうかはセルフチェック(簡易検査キット)でわかる?
無精子症かどうかを、セルフチェック(簡易検査キット)だけで正確に判断することはできません。簡易検査キットは、精子の濃度や運動性など一部の項目を目安として確認するもので、医療機関で実施する本格的な精液検査の代わりにはなりません。
気になる症状がある場合や妊娠を希望される場合は、医療機関での精液検査を検討してください。
無精子症でも妊娠できる?
無精子症でも、原因によっては妊娠を目指せる可能性があります。
閉塞性無精子症で閉塞部位が再建できる場合、精路再建手術により精液中に精子が出るようになれば、自然妊娠を目指せる可能性があります。
一方、手術での再建が難しい場合や非閉塞性無精子症の一部では、精巣精子採取術や顕微鏡下精巣内精子採取術(micro TESE)という方法で精子を回収できることがあります。回収した精子をつかって顕微授精を行うことで、妊娠を目指すことができます。
ただし、無精子症の原因や程度、パートナーの年齢など、さまざまな要因によって妊娠できる可能性は大きく変わります。
子どもができにくくなる男性の特徴は?
子どものできやすさは人それぞれで、医学的に完全に解明されているものはありません。
ただし、肥満(BMI25以上)や喫煙、過度なストレス、精巣を温めすぎる習慣などは、妊娠しにくくなる要因になります。これらは精子の数を減らしたり、運動率を低下させたりするなど、精液の状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
精子にとって良い環境をつくるには、適正体重(BMI18.5〜24.9)の維持や禁煙・節酒、精巣を温めすぎない工夫など、生活習慣を整えることが大切です。
院長からのメッセージ
「無精子症かもしれない」と不安に思われて、この記事にたどり着かれた方もいらっしゃるかもしれません。
まずお伝えしたいのは、無精子症かどうかは、精液の見た目だけでは判断できないということです。精液が白く濁っていても精子がいない場合もあれば、透明に近くても精子がいる場合もあります。
正確に確認するためには、医療機関での精液検査が必要です。検査は体調やストレスの影響を受けやすいため、1回の結果だけで判断せず、複数回検査することもあります。最初の数値が良くなくても、日を改めると正常値になるケースも珍しくありません。
もし無精子症と診断されたとしても、タイプによっては治療で妊娠を目指せる可能性があります。閉塞性無精子症では手術で精子の通り道(精路)をつなぎ直すことで自然妊娠ができる可能性がありますし、精路が回復しない場合でもmicro TESEという方法で精子を見つけられることは少なくありません。非閉塞性無精子症でも、micro TESEで精子を見つけられることがあります。
気になる症状がある方、パートナーの妊娠を希望されている方は、まずは検査を受けてみてください。お二人に合った方法を、一緒に考えていきましょう。
参考文献
2)Medhavi Sharma; Stephen W. Leslie.Azoospermia
3)WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen Sixth Edition
Rajasingam S. Jeyendran.ROUTINE SEMEN ANALYSIS
Medhavi Sharma; Stephen W. Leslie.Azoospermia

