胚盤胞移植を控えている時期や移植後から判定日を待つ期間は、「着床のために何かできることはないか」と思う方もいるのではないでしょうか。
インターネット上には、着床率を上げる食べ物や行動などさまざまな情報がありますが、なかには医学的根拠がはっきりしないものも含まれます。
実際には、着床率は特定の行動で大きく変えられるものではありません。着床に向けて大切なのは、根拠のある情報を確認したうえで、心身ともに無理なく過ごすことです。
本記事では、着床に関わる要素を整理したうえで、着床のために生活の中で意識できることと、医療機関で検討されるアプローチについて解説します。
胚盤胞移植の着床率に関わる要素
着床の成立には、以下2つの要素が関わります。
- 胚の状態
- 子宮内膜の状態
どちらも一時的な生活習慣でコントロールできるものではなく、双方の相互作用も重要です。一方が整っていても、片方が整っていなければ着床は難しくなります。
胚の状態
胚の状態は「グレード(見た目の発育状態)」と「質(染色体の状態など)」の2つの側面から評価されます。
グレードは発育状態を数字と文字で示したもので、良好なグレードほど妊娠率が高い傾向がありますが、あくまでも見た目の評価です。低グレードでも妊娠・出産に至っている例はあります。
一方、染色体の状態は外見からは分からないため、見た目が良好でも染色体に異常があれば着床しにくくなることがあります。何度か移植しても着床しない場合は、染色体を調べる検査が検討されることもあります。
胚側の状態について、詳しくは以下の記事もご覧ください。
子宮内膜の状態
子宮内膜の状態も、着床に関わる重要な要素です。胚に問題がなくても、子宮内膜が胚を受け入れやすい状態でなければ着床にはつながりません。
子宮筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮の形態異常など、物理的に着床を妨げる要因がある場合は着床しにくくなります。慢性子宮内膜炎や子宮内フローラ(細菌バランス)の乱れも、着床に影響する要因です。
また、着床するためには移植のタイミングも重要です。子宮内膜が胚を受け入れられる期間は限られており、「着床の窓」と呼ばれています。一般的に排卵の5日後(120時間後)頃とされますが、個人差もあります1)。標準的なスケジュールで移植しても着床しない場合は、着床の窓がずれている可能性も考えられます。
子宮内膜側に原因が疑われる場合は、検査や治療が提案されることがあります。
着床に向けて意識したい生活ポイント
胚盤胞移植の着床率は、特別なことをして大きく変えられるものではありません。とはいえ、移植前後の過ごし方を心配する方は多いものです。
移植前の体調管理と移植後の過ごし方について整理します。
移植前から当日までに整えたいこと
移植前に意識したいのは、質のよい睡眠やバランスのよい食事など体調管理を続けることです。
その他、具体的なポイントは以下のとおりです。
移植後から判定日までの過ごし方
移植後は、医師から特別な指示がない限り、普段どおり過ごしてください。移植直後に安静にした人と活動した人との間で妊娠率に差はなかったとする報告もあり5)、過度に安静にする必要はありません。
以下の表では、基本的な過ごし方と気をつけたい点・工夫できることを整理しました。
移植後は上の表を参考に、無理のない範囲で普段どおり過ごしてください。判定日までの期間はささいな体調変化にも不安を感じやすいものですが、心配なことは一人で抱えず医師に相談してください。
仕事との調整が必要な場合は、厚生労働省が作成している「不妊治療連絡カード」を活用する方法もあります。治療の状況や配慮してほしいことを職場に伝えるために使えるため、必要であれば主治医に記入を依頼しましょう。
胚移植後に起こりうる症状や受診の目安について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
胚盤胞移植と着床率に関するよくある質問
胚盤胞移植の着床率を上げたいと思う方から、よく寄せられる質問にお答えします。
胚盤胞移植後、着床しやすい寝方はありますか?
胚盤胞移植後の寝方が着床率に影響することを示す医学的根拠はありません。寝る向きや姿勢にこだわらず、普段どおり休んでください。
ただし、胚移植直後の過ごし方は医療機関によって案内が異なる場合もあるため、主治医の指示を優先してください。
着床率を上げるストレッチやツボはありますか?
特定のストレッチやツボが着床率を上げるという明確な根拠はありません。
ただし、軽い運動やストレッチは気分転換やリフレッシュにつながります。着床率を直接高めるものではありませんが、リラックスするためにも適度に取り入れてみてください。
30代や40代で胚盤胞移植の着床率・妊娠率は変わりますか?
胚移植における着床率・妊娠率は30代前半から緩やかに下がり、30代後半から急速に低下します7)。年齢とともに卵子の質が低下し、染色体異常が起こりやすくなるためです。
ただし、これはあくまでも統計的な傾向です。着床が成立するかは、胚の状態や子宮内膜の環境によって一人ひとり異なります。自分の状況や見通しについては、担当医に確認してみてください。
院長からのメッセージ
「着床のために何かできることはないか」——この気持ちは、胚移植を控えているすべての方に共通していると思います。情報収集する中で、食べ物や姿勢、ツボなど、さまざまな情報に出会うこともあるでしょう。
正直にお伝えすると、これさえすれば良い、というような生活習慣はありません。着床は胚の状態と子宮内膜の状態、その両方が整って初めて成立するもので、どちらも一時的な行動でコントロールできるものではないからです。
一方で、「できることが何もない」わけでもありません。禁煙は男女ともに妊娠への悪影響が明確で、移植を控えている段階から取り組む価値があります。睡眠やバランスのよい食事は、直接着床率を上げるとは言えませんが、体の状態を整えるうえで意味があります。移植後の安静については、医学的なエビデンスから「過度に安静にする必要はない」というのが現在の標準的な考えです。普段どおりに過ごしてもらって構いません。
それでも何度移植しても着床しないという状況は、精神的に本当につらいものです。そのような場合は、「子宮内膜の側に見直すべき何かがないか」を担当医と一緒に確認してみてください。着床の窓のずれ・慢性子宮内膜炎・子宮内フローラの乱れ・子宮の形態異常など、検査や治療で対応できる要因が見つかることもあります。
一人で答えを探し続けるよりも、担当医に現状を率直に伝えることが次の一歩につながります。
参考文献
1)標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究. 患者さんのための生殖医療ガイドライン. 令和4年度厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業; 2023.
7)日本生殖医学会. Q22. 女性の加齢は不妊症にどんな影響を与えるのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト.
日本産科婦人科学会. 不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR).日本産科婦人科学会ウェブサイト.
東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科/女性外科. 着床不全. 東大病院ウェブサイト.
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