最終更新日:
2026-02-27

妊活を意識したとき、「精液を増やしたい」と考える方もいるかもしれません。妊活においては精液の量も重要な要素のひとつですが、量があればいいというものではなく、精液の濃度や運動率などの質にも目を向ける必要があります。

この記事では、精液の量と妊娠の関係、精液の量や質に影響する要因、医療機関を受診する目安について解説します。

精液量を増やすのは妊活に良い?知っておきたい前提

精液の量を増やすことが、必ずしも妊娠のしやすさに直結するわけではありません。妊娠には、精液の量だけでなく、精液に含まれる精子の数や動きといった「質」の部分が深く関わっているためです。

WHOラボマニュアル第6版の精液検査データによると、自然妊娠に至った男性の精液量の下限参考値(下5%の人の数値)は1.4mLとされています1)。しかしこの数値自体はあくまで目安であり、この値を下回っていても自然妊娠に至る場合があります。

そのため、量を増やすことだけに注目するのではなく、精液全体の状態を整える視点が大切です。まずは精液や精子の状態に影響する要因から理解していきましょう。

精液の量や質に影響する要因

精液の量や質は一定ではなく、体調や禁欲期間、生活習慣などの影響を受けて変化します。その時々で精液の量が一時的に少なく感じることは珍しくなく、特に異常とするものではありませんが、継続的に少ない場合には背景に生活習慣や何らかの疾患が関係している場合もあります。

体調や禁欲期間による一時的な変化

前回の射精から間隔が長いと、精液の量は増える傾向があると報告されています3)。一方で、禁欲期間が長すぎると精子の動きは低下しやすいことも示されており、禁欲期間を長くすることは必ずしも妊娠に向けて望ましいとはいえません3)

妊活においては、極端に射精間隔を空けるのではなく、無理のない頻度を意識することが大切です。

また、強いストレスや疲労、体調不良なども精子の数や運動率に影響することがあります。一時的な変動であれば過度に心配する必要はありません。

日々の生活習慣や年齢

精子は精巣で約64~74日かけてつくられます(精巣上体でのその後の成熟期間を含めると約3か月)。そのため、食事・睡眠・運動といった日々の生活習慣は、数か月先の精子の状態に影響します。

精液に含まれる精子の数・運動率・形態は加齢とともに低下する傾向があり、35歳を過ぎたころから変化が顕著になるといわれています4)。精液量も加齢とともに緩やかに変化することが報告されており、妊娠を目指すうえでは年齢を意識した対策も重要です。

疾患が原因となるケース

精液や精子の状態に継続的な異常がみられる場合は、背景に疾患が関係していることがあります。

精液量が極端に少ない(1.4mL未満が続く)場合には、逆行性射精(精液が膀胱に逆流する状態)や射精管の閉塞、精嚢の機能不全などが原因として考えられます。

精子数の減少や運動率の低下が問題となる場合には、以下のような疾患が関係していることがあります。

造精機能障害
精巣で精子をつくる働きに問題がある状態です。精子数の減少や運動率の低下、重度の場合は無精子症につながることもあります。なお、精子産生の障害があっても、射精される精液の体積は通常の範囲内であることが多く、見た目では気づきにくいという特徴があります。

精路通過障害
精子の通り道(精巣上体・精管・射精管など)に閉塞がある状態です。精巣で精子がつくられていても、精液中に精子が出てこない閉塞性無精子症を来すことがあります。この場合も、精液の体積は通常保たれることが多く、精液量の変化だけでは判断できません。

精液量・精子数・精子の運動率などを客観的に把握するためには、精液検査が必要です。精液量が少ないと感じる場合だけでなく、妊活を継続しても妊娠に至らない場合には、医療機関への受診を検討してください。

男性不妊について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

精液の状態を良くするための生活習慣

精液量を増やしたいと考える場合も、まず意識したいのは量だけでなく、中に含まれる精子を含めた精液全体の状態を整えることです。

食事、睡眠、運動といった生活習慣は、精液を良好に保つ土台になります。

食事|栄養バランスを意識する

精子の質を保つためには、特定の栄養素に偏らず、さまざまな食品を組み合わせたバランスのよい食事が基本です。主食・主菜・副菜をそろえ、1日3食をできるだけ規則正しくとるようにしましょう。

一部の研究では、ビタミンCやビタミンE、亜鉛などの栄養素が精子機能と関連する可能性が示されています。ただし、特定の成分だけを摂取すれば精液量が増えると断定できるわけではありません。サプリメントに頼りすぎず、食事全体のバランスを整えることが重要です。

また、肥満はホルモンバランスに影響し、精巣機能の低下につながる可能性があります。揚げ物や加工食品など高脂肪の食品を控え、健康的な体重を維持することも大切です。

生活|質の良い睡眠・運動を取り入れる

規則正しい生活習慣も、精液や精子の状態に関わると考えられています。ストレスや睡眠不足が続くと、精子の数や運動率の低下につながることがあります。

運動は、ウォーキングやストレッチなど無理なく続けられる有酸素運動を意識しましょう。運動は一般的な健康維持においても重要で、1週間に150分程度の中強度有酸素運動が推奨されています5)。ただし、過度な激しい運動は逆に精子の質に影響することがあるため、無理のない範囲での継続が大切です。

睡眠は成人(18〜64歳)では1日6時間以上を目安に、できるだけ一定の就寝・起床リズムを保つことが望ましいとされています

行動|精巣を温めすぎない

精巣の働きは、体温よりも2〜3℃低い環境がよいとされています。長時間高温にさらされると、精子をつくる過程に影響を及ぼす可能性があります。

日常生活では以下の点に気をつけましょう。

  • 長時間のサウナや熱いお風呂を控える
  • 膝の上でノートパソコンを使用しない
  • 締めつけの強い下着を履かない
  • 長時間座り続けないようにする

精巣を必要以上に冷やす必要はありませんが、熱がこもりにくい環境を意識することが大切です。

その他|禁煙・節酒

タバコに含まれる有害物質は、精子の数や動きに悪影響を及ぼします。 精子のDNAを傷つけ、変形した精子を増やすことも知られているため、妊活中は禁煙しましょう。

過度な飲酒も、男性ホルモンの分泌を抑え、精子の形成を妨げることがあります。飲酒習慣がある場合は、量や頻度を見直すことも検討しましょう。

精液の量や質を調べる方法

精液や精子の状態に不安がある場合は、精液検査を受けてみるとよいでしょう。

精液検査では精液量に加え、精子の濃度や運動性、形態といった質の部分も確認し、精液や精子の状態を客観的に把握できます。男性の妊娠する力を知るうえで大切な検査です。

精液の異常は、勃起不全や射精障害などの性機能に問題がなくても起こることがあり、見た目や自覚症状だけでは気づきにくい特徴があります。

精液検査で早めに精子の状態を把握できれば、原因に応じた対策や治療へつなげやすくなります。問題がないとわかれば、より前向きに妊活に取り組めるでしょう。

精液検査は、不妊治療専門クリニックや男性不妊を扱う泌尿器科で受けられます。男性のみで受けるなら泌尿器科、パートナーと一緒に受けるなら不妊治療専門クリニックなど、自分の状態に合った相談先を選択しましょう。

検査内容や費用について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

精液検査を受けるタイミングの目安

精液量が少ないと感じる場合や、「増やさなければならないのでは」と不安が続く場合は、早めに検査を受けることも選択肢のひとつです。

精液の量や見た目だけで妊娠の可能性を判断することはできません。中に含まれる精子の状態を数値として把握することで、今後の方針を具体的に検討しやすくなります。

なお、射精時の痛みや陰嚢の違和感などの症状がある場合は、妊活の有無にかかわらず受診を検討してください。また、停留精巣や精巣の手術歴、精巣炎などの既往がある方は、妊活を始める前に状態を確認しておくと安心です。

男性不妊の検査を受ける前の基礎知識について、詳しくは以下の記事もご覧ください。

精液についてよくある質問

精液を増やしたいと考える方から、よく寄せられる質問に回答します。

精液を増やすために溜めた方がいいですか?

妊活において、精液量を増やす目的で長期間射精を控えることが必ずしも望ましいとは限りません。

禁欲期間が長すぎると、精液量は増える傾向がありますが、一方で精子の運動率が低下しやすいことや、精子のDNA損傷が増える可能性が報告されています。逆に、禁欲期間が短い場合は精液量は少なめでも、DNA損傷が少ない可能性が示唆されています。

射精頻度に明確な正解はありませんが、極端に長期間溜め込むのではなく、無理のないペースで継続することを意識してください。

精液が多ければ多いほど妊娠しやすいですか?

精液量が多いほど妊娠しやすいとは限りません。

妊娠の成立に重要なのは、精液量そのものよりも、精液中に含まれる総精子数や運動率などの質の要素です。精液量が多くても精子濃度が低ければ総精子数は十分でない場合がありますし、逆に量がやや少なくても濃度が保たれていれば問題ないこともあります。

量や見た目だけで精液の状態を判断することはできません。不安がある場合は、精液検査で客観的に確認しましょう。

院長からのメッセージ

「精液を増やせば妊娠しやすくなるのでは」と考える方は少なくありません。その気持ちはとても自然なことで、妊活に真剣に向き合っているからこそ湧いてくる疑問だと思います。

実は精液の大部分は前立腺や精嚢から分泌される液体であり、精子そのものは全体のごくわずかです。妊娠に関わるのは精液量よりも、精液の中にいる精子の総数や動き(運動率)、形態といった「質」の部分です。

量が少ないかもと思っていても、検査してみると精子の状態に問題がないこともよくありますし、逆に量が多くても精子の質が十分でない場合もあります。見た目や感覚だけでは、精液の状態を判断することはできないのです。

精子は精巣でつくられるまでに約64〜74日かかります。食事・睡眠・禁煙といった日々の習慣が、数か月後の精子の状態に反映されます。「今日から何かを変えることが、数か月後の妊活に直結する」と思うと、少し前向きに取り組めるのではないでしょうか。すぐに結果が出なくても、継続することに意味があります。

心配な気持ちが続くときは、精液検査で現状を数値として把握してみてください。問題がなければ安心して妊活を続けられますし、何か気になる点があればその段階で対策を考えることができます。「知ること」が、前向きな次の一歩につながります。

参考文献

1)World Health Organization. WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen. 6th ed. World Health Organization; 2021.

2)Alahmar AT. The effects of oral antioxidants on the semen of men with idiopathic oligoasthenoteratozoospermia. Clin Exp Reprod Med. 2018;45(2):57-66.

3)Lo Giudice A, Asmundo MG, Cimino S, et al. Effects of long and short ejaculatory abstinence on sperm parameters: a meta-analysis of randomized-controlled trials. Front Endocrinol (Lausanne). 2024;15:1373426.

4)一般社団法人日本生殖医学会. ウェブサイト.

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