妊娠を希望する場合、妊娠1か月以上前から葉酸を意識して摂取することが推奨されます。葉酸は、食事に加えて、吸収率の高い葉酸サプリメントを併用することで、効率よく摂ることができます。
この記事では、葉酸の基本的な働きや必要な理由、妊活のときの摂取推奨量について解説します。
妊活で大切になる栄養素「葉酸」とは?
葉酸は赤ちゃんの正常な発育に必要な栄養素です。赤ちゃんの重要な器官が形成される時期は、妊娠反応がでる前から始まっているため、妊活中から継続的に摂取しておくことが重要です。
ここでは葉酸の働きや必要とされる理由を説明します。
葉酸の基本的な働き
葉酸は水溶性ビタミンで、ビタミンB群の一種です。たんぱく質の合成など全身の細胞の増殖と関わっているほか、ビタミンB12とともに赤血球を作るので「造血のビタミン」とも呼ばれています。
葉酸は体内で欠かせない必須栄養素です。
妊活中や妊娠時に葉酸が必要な理由
赤ちゃんの重要な器官が形成され始めるのは妊娠4週頃(生理28日目頃)で、この時期は多くの人が妊娠に気がついていません。
葉酸は全身の細胞の増殖と関わっているため、妊娠4~6週頃の脳や脊髄を作る神経管が形成される時期に葉酸が足りていないと、二分脊椎(にぶんせきつい:脊髄が完全に閉鎖しない状態)や無脳症(むのうしょう:脳の一部や全てが欠損した状態)といった神経管閉鎖障害の発症リスクを増えることにつながります。
そのため、厚生労働省は、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、十分な葉酸摂取を推奨しています。
必要な葉酸の摂取量
令和5年国民健康・栄養調査によると、日本の成人女性の1日あたりの葉酸摂取量は20〜29歳で220μg、30〜39歳で219μg、40〜49歳で239μg1)です。妊娠していない成人女性に推奨される葉酸摂取量が1日240μgであるため、特に20〜30代の女性では推奨量がやや不足している状況です。
一方、妊娠を考えている女性においては、追加で葉酸の摂取が推奨されます。葉酸は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスク低減につながる栄養素であり、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間は、食事からの葉酸摂取に加えてサプリメント等から400μgの摂取が目安とされています。
妊活で葉酸はいつから摂取すべき?
葉酸の摂取は、妊娠の1か月以上前から始めることが推奨されます。赤ちゃんの重要な器官が形成される妊娠初期に母親の体内に十分な葉酸が蓄積していることが重要です。
ここでは葉酸の摂取開始時期の目安や、妊娠後はいつまで続けるべきかについて解説します。
摂取開始時期の目安
厚生労働省は、妊娠を計画している女性に対し、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、十分な葉酸の摂取を推奨しています。
これは葉酸を必要とする妊娠初期に、母親の胎内に十分に葉酸を取り込んでおくことで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害の発症リスクを減らすためです。
通常の食事で十分に葉酸を摂取することを心がけながら、さらにサプリメントなどから1日400μgの葉酸を摂取することが望ましいとされています。ただし、葉酸だけを摂取すれば良いわけではありません。ビタミンB群をはじめとする他の栄養素もバランスよく摂取することが大切です。
妊娠に気付いてから飲み始めても間に合う?
厚生労働省が推奨するサプリメントや葉酸強化食品からの400μg摂取の期間は、妊娠1か月以上前から妊娠3か月までです。この期間は、赤ちゃんの神経管が形成される重要な時期に当たります。妊娠前からの摂取が望ましいですが、妊娠後も推奨期間に含まれています。
一方、通常の食事からの葉酸摂取は、妊娠中期・後期、さらには産後の授乳期まで継続することが推奨されます。
妊娠中期・後期には480μg/日、授乳期には340μg/日の摂取が推奨されており、造血機能の維持や赤ちゃんの発育、母乳産生などに重要な役割を果たします。
妊娠に気が付いた時点から葉酸の積極的な摂取を始めることで、赤ちゃんの発育をサポートすることにつながります。妊娠が判明したらできるだけ早く十分な量の葉酸摂取を心がけましょう。
積極的な葉酸の摂取はいつまで続けるのがよい?
葉酸の積極的な摂取は、妊娠中だけでなく産後の授乳期まで継続することが推奨されます。ただし、妊娠の時期によって推奨される摂取量や目的などが異なります。
以下の表は厚生労働省【葉酸と神経管閉鎖障害発症の予防】を参考に記載しています2)。
妊娠前・妊娠初期
妊娠前や妊娠初期は、赤ちゃんの神経管形成をサポートするために、食事からの240μgに加えてサプリメントなどから400μgの葉酸摂取が推奨されます。400μgの追加の摂取では、サプリメントなどに含まれるモノグルタミン酸型の葉酸が推奨されます。
モノグルタミン酸型の葉酸は、食品中に含まれるポリグルタミン酸型の葉酸と比べて、体内で効率よく使われやすいためです。
妊娠中期・後期
妊娠中期や後期は、母親の貧血の予防(造血機能の維持)や赤ちゃんの発育を支えるために480μgの葉酸摂取が推奨されます。
授乳期
授乳期は340μgの葉酸摂取が推奨されます。母乳は血液から造られているため、この時期の葉酸摂取は赤ちゃんに必要な栄養を届けることを目的としています。他にも、産後のホルモンバランスのサポートや母体の回復にも役立ちます。
葉酸不足がもたらすリスクとは
葉酸が不足すると、赤ちゃんに神経管閉鎖障害が発症するリスクが高まります。神経管閉鎖障害とは妊娠4週頃までの神経管閉鎖の過程で生じる先天的な異常のことで、二分脊椎や無脳症などがあります。二分脊椎は下肢の麻痺や排泄障害を引き起こす疾患で、無脳症は流産や死産に繋がる可能性がある疾患です。
日本における神経管閉鎖障害の発症率は、10,000出生(死産を含む)あたり約6件で推移しています。葉酸摂取の重要性に関する認知度も、まだまだ十分とはいえない状況です。
ただし、神経管閉鎖障害は葉酸不足だけが原因でおこるものではないため、積極的に葉酸を摂取したからといって必ずしも神経管閉鎖障害を予防できるわけではないことも理解しておきましょう。
葉酸の摂りすぎによるリスクや上限量について
厚生労働省はサプリメントなどから摂取する葉酸の上限量を900〜1,000μgと定めています。サプリメントに含まれる葉酸を多く摂りすぎると、かゆみや呼吸障害といった症状の出る葉酸過敏症を引き起こす可能性があるほか、ビタミンB12欠乏の診断が遅れてしまう可能性があるためです。
一方で、食事に含まれているポリグルタミン酸型の葉酸は、たくさん摂取しても体外に排泄されるため、食品から摂取する分には過剰摂取について大きな心配はないとされています。
葉酸サプリメントのパッケージに記載された摂取量を守れば過剰摂取の心配はありませんが、複数のサプリメントを併用する場合は、重複摂取に注意しましょう。
食事からの葉酸のとり方
葉酸は野菜や果物などの食品に多く含まれていますが、水溶性で熱に弱い性質があるため調理方法を工夫する必要があります。
ここでは、葉酸を多く含む食品や効率よく摂取できる調理法について解説します。
葉酸を多く含む食品
葉酸を多く含む食品は、野菜類や果物類、海藻類などです。野菜類ではグリーンアスパラガスやさつまいも、ほうれん草や枝豆、白菜などに多く含まれています。果物類ではいちごが代表的で、その他には焼きのりなどにも豊富に含まれています。
ただし、葉酸は水に溶けやすく熱に弱い性質なので、調理法を工夫する必要があります。
葉酸を効率的に摂取できる調理法
葉酸は水溶性で熱に弱い性質のため、食材を茹でると葉酸が溶け出して効率的に摂取できない可能性があります。効率よく葉酸を摂取するためには、蒸したり炒めたり電子レンジで加熱したりする方法が適しています。
例えば、ほうれん草は電子レンジなどを使い、蒸して調理しおひたしや和え物にするとよいでしょう。アスパラガスもそのまま火にかけて炒め物にすると、葉酸量を残しながら食べられます。汁物やスープとして食べたい場合は、汁ごと食べると溶け出した葉酸も摂取できます。
食事だけで必要量を満たすことは可能?
通常の食事に含まれる葉酸はポリグルタミン酸型の葉酸として存在しており、消化吸収される過程でさまざまな影響を受けるため、体内での吸収率が一定ではありません。また、水溶性ビタミンであることから、調理による損失も受けやすいため、食事だけで正確に必要量を満たすことは難しいとされています。
一方で、サプリメントなどに含まれるモノグルタミン酸型の葉酸は、食品中の葉酸と比べて体内で吸収されやすいため、妊娠前後で必要な葉酸は食事に加えてサプリメントなどで補うことが推奨されます。妊活中や妊娠中のひとは、葉酸が豊富に含まれている野菜や果物を積極的に摂取しながら、サプリメントを上手く活用することが大切です。
葉酸サプリメントの選び方や飲み方
妊活中や妊娠中に必要な葉酸を効率よく摂取するためには、適切なサプリメントを選び正しく飲むことが重要です。サプリメントによって含まれている葉酸の量や配合成分などが異なるため、十分に確認して選ぶ必要があります。
ここでは葉酸サプリメントの種類や選び方のポイントについて解説します。
葉酸サプリメントの種類
葉酸は、食品に多く含まれているポリグルタミン酸と、サプリメントに多く含まれているモノグルタミン酸に大別されます。モノグルタミン酸型の葉酸は体内における吸収が安定している一方で、ポリグルタミン酸型の葉酸は代謝の影響を受けやすく、体の中で利用される割合はモノグルタミン酸型の葉酸より少なくなります。
この吸収率の違いから、厚生労働省が推奨する葉酸の摂取量は、モノグルタミン酸型の量として設定されています。葉酸サプリメントを選ぶ際はモノグルタミン酸型の葉酸が含まれているサプリメントを選びましょう。
葉酸サプリを選ぶ時のポイント
葉酸サプリメントはモノグルタミン酸型の葉酸が1日量として400μg以上配合されているかを確認しましょう。葉酸の含有量に加えて鉄分やカルシウムなど、妊娠中に不足しやすい栄養素が一緒に含まれているとバランスよく栄養補給できます。
また、葉酸サプリメントは妊活中から妊娠中、授乳期まで飲み続けるものであるため、続けやすい価格であることや粒の大きさなども選ぶ際のポイントとなります。
葉酸サプリを飲むタイミングと注意点
葉酸サプリメントは特に決まった飲むタイミングはありませんが、空腹時より食後の方が胃腸への負担が少なく、吸収も安定する傾向があります。1日の必要量を1度で飲んだり食事のときにわけて飲んだりなど、生活スタイルに合わせた飲み方ができるので、続けやすい飲み方を見つけて習慣化することで、安定して葉酸を摂取できます。
他のサプリメントを服用している場合は成分が重複する可能性があるため、飲み始める前に十分に確認し、必要に応じて医師や薬剤師に相談することが大切です。サプリメントからの葉酸摂取は900〜1,000μgまでと上限が定められているため、摂りすぎないように注意しましょう。
院長からのメッセージ
葉酸の摂取について、「いつから始めればいいの?」「妊娠に気づいてからでは遅い?」と不安に思われている方も多いかもしれません。
理想は妊娠1か月前からですが、妊娠に気づいた時点から始めても十分に意味があります。確かに神経管閉鎖障害の予防には妊娠初期が特に重要ですが、葉酸はその後も赤ちゃんの健やかな発育や、お母さんの血液を作るために大切な役割を果たし続けます。 完璧を目指すよりも、『今できることを始める』という前向きな姿勢が大切です。
サプリメントを選ぶ際も、迷われる方が多いと思います。「モノグルタミン酸型」という表示を確認すること、葉酸だけでなく鉄分やビタミンB群もバランスよく含まれているものを選ぶことがポイントです。ただし、「葉酸を飲んでいれば大丈夫」というわけではありません。あくまでバランスの取れた食事が基本で、サプリメントは補助的なものです。
葉酸に関する情報はインターネット上に溢れていますが、中には科学的根拠に乏しいものもあります。当院では、厚生労働省の基準など信頼できる情報に基づいて、お一人おひとりの状況に合わせたアドバイスを行っています。
参考文献
1)厚生労働省.令和5年国民健康・栄養調査結果の概要.
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf
2)厚生労働省.「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 ~妊娠前から、健康なからだづくりを~
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a29a9bee-4d29-482d-a63b-5f9cb8ea0aa2/aaaf2a82/20230401_policies_boshihoken_shokuji_02.pdf#page=15
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316467.pdf#page=55

