「妊娠したかもしれない」と感じる体の変化は、必ずしも妊娠を意味するとは限りません。症状だけでは妊娠の有無を判断できないため、適切な時期に検査を行い、必要に応じて医療機関を受診することが大切です。
この記事では、体調変化が起こる理由や妊娠の可能性を確認するためのポイント、検査や受診のタイミング、パートナーができるサポートについて解説します。
妊娠超初期症状と思い込みの違いは?
妊娠超初期に起こる可能性のある症状と、妊娠したという思い込みから現れる症状は、明確に区別がつくものではありません。症状から自己判断で違いを見分けるのは難しいといえます。
両者の違いを見分けるには、妊娠検査薬の使用や医療機関の受診を検討することが推奨されます。
妊娠の思い込みとは?体調の変化が起こる理由
「妊娠したかもしれない」と感じる体の変化は、必ずしも妊娠によるものとは限りません。
医学的に「偽妊娠(想像妊娠)」と呼ばれる状態があり、実際には妊娠していないにもかかわらず、妊娠初期に似た症状が現れます。この現象は、脳の働きとホルモンの影響によって起こる体の反応です。特に妊娠を強く望む気持ちや不安が、視床下部を通じて自律神経やホルモンの分泌に影響を与え、実際に体調の変化を引き起こします。
強い願望や不安が自律神経に作用する
「妊娠したい」という強い願望や「妊娠していたらどうしよう」という不安、不妊や流産の経験などさまざまな心理的ストレスが続くと、脳の視床下部の働きが乱れ、自律神経系やホルモンのバランスが崩れやすくなります。自律神経の緊張によって交感神経が優位になると、体のこわばりや腹部の張りを感じる場合があります。
さらに、視床下部での調整が乱れるとドーパミンという神経伝達物質が弱まり、プロラクチンというホルモンが増加しやすくなります。プロラクチンは乳汁分泌や月経周期に関わるホルモンで、胸の張りや乳汁分泌などの症状が現れることがあります。プロラクチンはドーパミンによって分泌が制御されているため、ドーパミンの働きが弱まると、プロラクチンが増加しやすくなります。
プロラクチンが多い状態では、排卵や月経を調整する性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌が抑えられるため、排卵が起こりにくくなり、月経が止まることがあります。このため「妊娠したのではないか」と感じやすくなるのです。
医師により妊娠していないのが確認され、心理的な緊張が和らぐと症状も落ち着く可能性があります。
プロゲステロン(黄体ホルモン)による体の反応
月経周期にともなう眠気、だるさ、胸の張り、イライラといった症状の多くは、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)の作用によるものです。
プロゲステロンは、妊娠してもしていなくても、排卵後の黄体期(高温期)には必ず分泌されるホルモンです。このホルモンには、妊娠している場合は子宮内膜を厚くして妊娠を維持する働きがあります。また、体温を上げる作用や水分を体にため込む作用もあるため、むくみや体のだるさを感じやすくなります。
さらに、プロゲステロンの影響で眠気が強くなったり、気分が落ち込みやすくなったりします。
つまり、生理前と妊娠超初期の症状が似ているのは、どちらもプロゲステロンが分泌されているためで、症状だけでは妊娠の有無を判断できません。
男性パートナーの方へ|「妊娠したかもしれない」と相談されたら
女性パートナーから、想定外の時期に「妊娠したかもしれない」と相談されたとき、まだ検査できる時期ではないのになぜそのような症状が出るのかと戸惑うかもしれません。
女性の体調や精神状態の変化は、ホルモンによるものが大きく、本人の意思だけではコントロールしにくいものです。症状を感じているパートナーの気持ちを理解し、寄り添う姿勢が大切になります。
思い込みだと否定せずに不安と期待に寄り添う
「気のせいでは」と否定するのではなく、まずはパートナーが感じている体の変化や不安な気持ちを受け止めましょう。
妊娠を望んでいる時期は、わずかな体調変化に敏感になります。実際にホルモンの影響で体に変化が起きている可能性もあるため、パートナーが感じていることは決して思い込みだけではありません。
「もしかしたら妊娠しているかもしれない」という期待と、「まだわからない」という不安が入り交じる時期です。この気持ちに寄り添いながら、一緒に確認できる時期を待ちましょう。
検査ができる時期までサポートする
症状だけでは妊娠の有無を判断できないため、妊娠検査薬で判定できるタイミングまで支えることが大切です。
生理予定日当日から検査できる製品もありますが、一般的な妊娠検査薬は生理予定日の1週間後から検査可能となります。推奨されている時期より早く検査をしても正確な結果は得られないため、適切な時期まで落ち着いて過ごしましょう。
不安を少しでも軽減させるためにも、普段どおりに過ごすよう心がけてみてください。夫婦でリラックスできる方法を事前に探しておくのも良いでしょう。
散歩や好きな映画を観るなど、気分転換になる活動を一緒に楽しむことで、不安な時期を乗り越えやすくなります。
妊娠の可能性を確認するためのポイント
妊娠初期には、吐き気・眠気・胸の張りなどの症状が現れることがあります。しかし、症状だけでは妊娠の有無を判断できません。基礎体温の変化や妊娠検査薬を使用することが判断のポイントになります。
基礎体温の変化
基礎体温で高温期が持続しているか確認しましょう。通常、排卵後の高温期は約14日間続きます。高温期が長期間続く場合は、妊娠の可能性を考えるひとつの目安となります。
基礎体温は、朝に目が覚めたら体を起こさずに寝たまま測る体温です。女性の体温は、排卵を境に低温期と高温期にわかれますが、これは排卵後に上昇するプロゲステロンによって体温が上昇するために起こります。排卵後に妊娠が成立しないと12~14日にプロゲステロンの分泌がなくなり体温が下がり月経がきますが、妊娠が成立すると分泌されるホルモン(hCG)によってプロゲステロンの分泌が保たれるため、高温期が持続します。
ただし、普段から基礎体温を測定していない場合、1周期だけでは状況の把握が難しいことがあります。日頃から基礎体温を記録しておくと、妊娠の可能性を判断する際の参考になります。
妊娠検査薬を使用する
妊娠検査薬は、尿中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンを検出します。hCGは妊娠すると分泌されるホルモンで、一般的な製品は生理予定日の1週間後から検出可能です。早期妊娠検査薬を使用する場合は、生理予定日ごろから検査できます。
検査薬の推奨時期より早く検査をすると、化学流産(受精卵が着床した後ごく初期に妊娠が終わること)を検出してしまう可能性があります。化学流産は自然に起こることで、多くの場合は月経様の出血をきたします。検査をしなけば着床に気づくことはなく次の月経として認識されますが、早期に検査することで化学流産したことを知ることになり、心理的な負担になる場合があります。実際に、不妊治療をしていない一般集団を対象に尿中hCGを連日測定した研究では、月経として経過して“気づかれない”化学流産が14%程度の割合で起こり得ることが報告されています。
正確な結果を得るためには、適切な時期まで待つことが大切です。
病院を受診するタイミング
妊娠検査薬で陽性反応が出たら、医療機関を受診しましょう。胎嚢(たいのう:赤ちゃんが入る袋)が超音波検査で見えはじめるのは、妊娠4週後半から5週前半ごろです1)。これは最終月経の開始日から数えて4〜5週間後にあたります。
受診が早すぎて胎嚢が見えない場合は、1~2週間後に再度受診し超音波検査で確認します2)。妊娠の経過を正確に把握するためには、焦らず適切な時期に受診することが大切です。
また、生理予定日の1週間後に妊娠検査薬を使用しても陰性で、かつ生理も来ない場合は、何らかの病気が影響している可能性も考えられます。ホルモンバランスの乱れや婦人科系の疾患が隠れていることもあるため、早めに受診を検討しましょう。
妊娠超初期の不安な時期を落ち着いて過ごすために
「妊娠したかもしれない」という気持ちが強くなると、体の変化に意識が向きやすくなり、不安も強くなりがちです。
インターネット上には多くの体験談がありますが、個人差が大きく、情報を過剰に追いすぎるとかえって不安が強まることがあります。公的機関や医療機関など、信頼性の高い情報源に絞り、必要以上の情報収集は控えるようにしましょう。
心身の安定を保つために、十分な睡眠を確保し普段どおりの生活を意識することも大切です。
妊娠超初期の思い込みに関するよくある質問
Q:思い込み妊娠(想像妊娠)の特徴は何ですか?
思い込み妊娠(想像妊娠)は、妊娠を強く意識する気持ちが続くことで、ストレスや不安が増強し、自律神経が乱れることで起こります。その結果、無月経、乳汁分泌、腹部のふくらみなど、妊娠初期に似た症状が現れます。
医師による検査・診察と説明によって、多くの場合は症状が改善します。
Q:妊娠検査薬が陰性なのに、つわりのような症状が続く原因は何ですか?
妊娠検査薬が陰性でもつわりに似た症状が続く原因として、実際に妊娠はしているけれど検査タイミングが早すぎた可能性のほか、妊娠ではなく月経前症候群・女性ホルモンの変動などによる症状である可能性が考えられます。
妊娠していても検出可能な時期でなければ、陰性となります。妊娠検査薬は妊娠すると分泌するホルモン(hCG) を検出するものですが、あまりに早い時期だとホルモンが十分に上昇しておらず、検出できないのです。
また、吐き気や胸の張り、眠気などは月経前症候群や月経周期中の女性ホルモンの変動でも起こりうる症状です。これらの症状はつわりと似ており、区別がつきにくいことがあります。
生理が1週間以上来ず、妊娠検査薬が陰性の場合は、他の病気の可能性があるため、医療機関を受診しましょう。
Q:生理が遅れて妊娠検査薬も陰性の場合、いつ受診すべきですか?
生理が予定より1週間遅れており妊娠検査薬も陰性だった場合は、さらに1週間後に再検査するか、一度受診すると良いでしょう。
ストレスや一時的な体調変化で排卵が遅れた可能性もありますが、ホルモンバランスの乱れや婦人科系の疾患が原因となっている場合もあります。
なお、生理が90日以上遅れている場合は「続発性無月経」と呼ばれ3)、早めに原因を調べる必要があります。そのまま放っておくと将来の妊娠に影響する可能性もあるため、長期間生理が来ていない方は早めに医療機関を受診しましょう。
院長からのメッセージ
「妊娠したかもしれない」——そう感じると、体のわずかな変化にも敏感になりますよね。外来でも、検査薬が陰性なのに妊娠のような症状があって不安という相談を聞くことがあります。
実は、生理前と妊娠超初期の症状はとてもよく似ています。どちらもプロゲステロンというホルモンが分泌されているためで、眠気や胸の張り、だるさなどは、妊娠していてもしていなくても起こりうる症状なんです。
さらに、妊娠を強く意識している時期は、心理的なストレスがホルモンバランスに影響を与え、様々な症状を起こします。精神的なものだけではなく、実際に生理が来なくなるなど、身体に変化が起こることもあるのです。つまり、症状を感じているからといって必ずしも妊娠しているわけではありませんし、逆に症状がないからといって妊娠していないとも限りません。
大切なのは、症状だけで判断しようとせず、適切な時期に妊娠検査薬で検査することです。一般的な妊娠検査薬は生理予定日の1週間後から使用できます。それまでは、できるだけリラックスして過ごし、パートナーと一緒に検査できる時期を待ちましょう。
参考文献
1)公益社団法人 日本産婦人科医会.5.<産科一般超音波検査・初期編> 正常所見4-7
2)公益社団法人 日本産科婦人科学会,公益社団法人 日本産婦人科医会.産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 202
3)公益社団法人 日本産科婦人科学会,公益社団法人 日本産婦人科医会.産婦人科 診療ガイドライン ━婦人科外来編 2023
女性の健康推進室 ヘルスケアラボ.厚生労働省研究班監修.基礎体温
Medical Waiting Periods: Imminence, Emotions and Coping.Jacky Bolvin, Deborah Lancastle

