妊活をはじめるときや、将来子どもを授かりたいと考えるとき、ホルモン検査は妊娠を妨げる異常がないかを確認したり、妊娠しやすいタイミングを予測したりするのに役立ちます。
この記事ではホルモン検査で確認できる内容や、結果を踏まえて妊活を進めていく流れについて解説します。
ホルモン検査とは|妊娠希望の場合に必要な理由
妊娠希望のときに行うホルモン検査では、妊娠に関わるホルモンを測定し、妊娠を妨げる異常がないかを調べます。
妊娠を希望する場合、主に以下の点で役立ちます。
- 妊娠しにくい原因を早めに見つける
- 病気が見つかった場合の治療方針を決める判断材料になる
- 妊娠しやすいタイミングを予測する
妊娠しにくい原因を早めに見つける
検査によって各ホルモンのバランスを見ることで、妊娠の妨げになる異常がないか確認することが可能です。
妊娠が成立するためには、月経周期に合わせて各ホルモンが適切に分泌される必要があります。ホルモン分泌が乱れると排卵や着床といった妊娠の過程が進みにくくなり、その背景には病気が隠れているケースもあります。自覚症状なく発症する病気もあるため、妊娠を希望する場合は早めに確認しておくと安心です。
病気が見つかった場合に治療方針を決める判断材料になる
原因となる病気が見つかれば、医師の指示のもと治療を進めます。なかには不妊や流産のリスクとなる病気もあり、場合によっては不妊治療が提案されることもあります。
特に30代後半からは妊娠する力(妊孕性:にんようせい)が低下するといわれており1)、自然妊娠が難しいケースもあります。
妊娠しやすいタイミングを予測する
ホルモン検査は、妊娠しやすい排卵時期の予測にも役立ちます。妊娠しやすい時期は、排卵日の2日前から排卵日の間といわれています。2)排卵日を予測する方法として基礎体温の計測や排卵予測日検査薬の使用があります。
医療機関ではホルモン検査と超音波検査を組み合わせ、排卵日を精度高く推測することが可能です。医師から妊娠しやすい日の指導を受け、性交渉のタイミングを調整します。
ホルモン検査を受けるタイミング
ホルモン検査を受けるタイミングは、検査の目的や測定したいホルモンの種類によって異なります。
検査項目は、月経周期に合わせて実施するものと、いつでも受けられるものがあります。月経周期に合わせる場合は、卵胞期(低温期)・排卵期・黄体期(高温期)のいずれかで測定します。基本的には低温期で測定され、目的によって排卵期や高温期にも行われます。
なお、医療機関の方針や症状によって適切なタイミングは変わるため、実際の検査の有無や時期は医師の指示に従いましょう。
卵胞期(低温期:月経開始3~5日目):卵巣の機能を調べる
卵胞期(低温期)のホルモン値では、卵巣の機能に問題ないかを調べます。卵巣が脳からの指令に反応しているか、卵胞が順調に発育していける状態にあるかなどを評価する目的です。
卵胞期(低温期)のホルモン値は卵胞が育つ前の基礎値とも呼ばれており、他の時期の測定値やホルモン同士とのバランスと合わせて、総合的な診断に用いられます。
排卵期:排卵の有無や時期を推定する
排卵期のホルモン検査は、排卵の有無や時期を推定するために行われます。排卵直前にLHの分泌量が急激に増加する「LHサージ」という現象を検出し、排卵時期を予測します。
排卵日を特定するには超音波検査も必要です。超音波で卵胞が18~20mm程度に成熟していることを確認し、LHサージが検出されるよりも前から排卵日をより正確に推定します4)。
黄体期(高温期:排卵7日後程度):排卵後のホルモン分泌を確認する
黄体期(高温期)には、排卵後のホルモン分泌が適切に行われているかを確認します。プロゲステロン値が問題なく上昇していれば、着床に向けたホルモン環境が整っている目安になります。
月経周期に関わらない検査:甲状腺ホルモン・AMH
甲状腺ホルモンとAMHは、月経周期に左右されません。ほかのホルモンを測定する際に合わせて行われます。
ピルを服用している人は注意が必要で、ピルの種類によってはAMH値が実際よりも低く出ることがあります。正確な値を知りたい場合は、ピルの服用を中止して1〜3か月経過してから測定することが推奨されます。
ホルモン検査でわかること|主な検査項目
ホルモン検査をすることで、妊娠に向けた体の準備が整っているか評価します。
主に4つの面から体の状態を確認します。
卵胞刺激ホルモン(FSH)
卵胞刺激ホルモン(FSH)は、卵巣が正常に働いているかを確認するための検査項目です。
FSHは脳の下垂体から分泌され、卵胞の成長を促すホルモンです。生理中のFSHの値が高い場合は卵巣の反応が弱い可能性があり、低すぎる場合は脳の働きに問題があることが考えられます。
FSHは月経周期によって変動しやすく、黄体形成ホルモン(LH)やエストロゲン(E2)と合わせて総合的に評価します。
黄体形成ホルモン(LH)
黄体形成ホルモン(LH)は、排卵のタイミングや排卵異常を確認するために測定されるホルモンです。排卵が近づくとLHの分泌量が急速に増える「LHサージ」が起こるため、この変化から排卵の時期を予測します。
また、生理中のFSHとのバランスを評価することで、排卵障害や月経異常の原因となる病気を推測します。
卵胞ホルモン(エストロゲン、E2)
エストロゲン(E2)は、卵胞の発育を確認するための検査項目です。エストロゲンは卵胞から分泌され、卵胞の成長するにつれて分泌量が増加するため、エストロゲン値を見ることで卵胞の発育状況が把握できます。
FSHやLHとあわせて評価することで、ホルモンバランスの異常や排卵の過程に問題がないかを推測します。
黄体ホルモン(プロゲステロン、P4)
プロゲステロン(P4)は、排卵後のホルモン環境が整っているかを確認するための検査です。排卵後はプロゲステロン値が上昇するため、この変化を見ることで排卵の有無やホルモンバランスを評価します。
プロゲステロンは受精卵が着床しやすいように子宮内膜を整える働きがあるため、不足すると着床が難しくなることがあります。排卵後のプロゲステロン値が低い場合には、黄体ホルモン製剤を使って補充することができます。
プロラクチン(PRL)
プロラクチン値は、排卵障害の原因を調べる際に確認される項目のひとつです。
本来プロラクチンは、主に出産後に母乳を分泌させるためのホルモンですが、その他にも成長や発育、免疫調節、ストレス応答などの機能も持っています。授乳期以外でこのプロラクチンの数値が高すぎると、排卵が起こりにくくなることがあります。
ストレスや睡眠不足でも一時的に上昇することがあるため、基本的に生理中の午前中、空腹時に測定することが望ましいとされています。プロラクチン値が高かった場合、複数回検査し慢性的に高いかどうか確認します。
甲状腺ホルモン(TSH・FT4・FT3)
TSHとFT4・FT3は、甲状腺の働きを確認するための項目です。
甲状腺ホルモンに異常があると、体内のホルモンバランス全体が乱れやすくなります。女性ホルモンにも影響し、月経不順や排卵障害が引き起こされることがあります。甲状腺ホルモンが多すぎる病気の代表がバセドウ病、少なすぎる病気の代表が橋本病です。
一般の健康診断では含まれないため、妊活する際には確認しておきたい検査項目です。
抗ミュラー管ホルモン(AMH)
AMH検査は、現在卵巣の中にどれくらい育とうとしている卵子があるかを確認するための検査です。あくまでアクティブな卵子の個数を予測するものであり、卵子の質や妊娠のしやすさを直接示すものではありません。
AMHは発育途中の卵胞から分泌されるホルモンであり、値が低いと卵巣の中に現在育とうとしている卵子が少ないと判断されます。AMHが低いと、生理不順になったり閉経が早まったりする可能性があります。また、体外受精などをした際に採取できる卵子の個数が少なくなります。
そのため、AMHが低い場合は妊活の開始時期を早めたり不妊治療を検討したりと妊娠計画を考える上での判断材料となります。
AMHが高すぎる場合、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)もしくはその予備群である可能性があり、排卵障害の原因になります。AMHが高くて排卵しづらい場合でも、医療機関で適切な排卵誘発剤を用いることで妊娠が可能です。
ホルモン異常で考えられる主な病気
ホルモン異常の原因となる病気は多岐にわたります。妊娠を妨げる代表的な病気としては以下があげられます。
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 早発卵巣不全(POI)
- 甲状腺機能低下症・亢進症
- 高プロラクチン血症
これらの病気は不妊や流産にも関係するため、適切に対応する必要があります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、卵巣の中に育とうとする卵子が多すぎて、かえって1個が育ちづらくなってしまうもので、生殖年齢女性の6~10%の方に見られます。月経不順につながることから、不妊の原因になることがあります5)。
月経不順や無月経といった月経異常を伴うのが特徴的で、多毛やにきびなど見た目に変化が出ることもあります。
肥満などの生活習慣が原因になることがあり、その場合は生活習慣を見直してBMI 18~25程度の適正体重にコントロールすることで多嚢胞性卵巣症候群の体質自体が改善し、月経異常が改善します。
治療を受けずに放置すると、月経の異常によって子宮体がんのリスクが高まることも知られています。妊娠希望の有無に関わらず、適切に治療することが重要です。
早発卵巣不全(POI)
早発卵巣不全(POI)は、40歳未満で卵巣機能が低下し、排卵がしづらくなる病気です。月経不順や無月経などの症状がみられます。
ホルモン検査では、FSH高値・エストロゲン低値などが特徴です。卵巣予備能が低下していることも多く、AMH値が低くなることがしばしばです。
早発卵巣不全と診断された後でも、数ヶ月ぶりに排卵が起こることがあり、自然妊娠に至る可能性はゼロではありません。ただし、妊娠率は低いため、妊娠を希望する場合は早期の不妊治療開始が推奨されます。
甲状腺機能低下症・亢進症
甲状腺の働きが低下または過剰になる病気です。甲状腺機能低下症の代表が橋本病、甲状腺亢進症の代表がバセドウ病です。月経不順や排卵障害が起こるだけでなく、不妊や流産のリスクにも関連します。
特に20〜30代の女性に多いとされる甲状腺機能亢進症は、動悸や息切れ、体重減少などの症状が特徴的ですが、病気とは思わず見過ごしてしまうこともあります。該当する症状があれば、内分泌内科などの医療機関に相談するとよいでしょう。
高プロラクチン血症
プロラクチンというホルモンが必要以上に分泌される病気です。月経不順や排卵障害を引き起こし、不妊の原因にもなります。自覚症状が少なく、ホルモン検査で初めて分かることもあります。
治療は週1回、カバサール(カベルゴリン)という薬を内服する方法が一般的です。この薬でプロラクチンの分泌を抑えられてホルモンバランスが安定すると、月経や排卵異常の回復が期待できます。
プロラクチンの異常には甲状腺機能の異常が関連しているケースもあり、原因を正しく見極めるためには内分泌疾患の専門医による総合的な評価が必要です。
ホルモン検査の結果を踏まえた妊活ステップ
検査結果を踏まえて、医師と相談しながら自分に必要な治療や対応を進めましょう。また、パートナーも一緒に妊娠に向けた取り組みをはじめることが大切です。
異常の原因となる病気の治療をはじめる
妊娠を妨げる病気や体質が見つかった場合、まずはその治療を始めます。ホルモン異常を伴う病気は自然に改善するとは限らないため、医師の指示のもと治療を受けることが大切です。
例として、次のような病気と治療があります。
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):生活習慣を見直す、排卵を促す薬を使用する
- 甲状腺機能の異常:ホルモン剤で甲状腺のホルモン値を整える
- 高プロラクチン血症:プロラクチンの分泌を抑える薬を使用する など
治療によりホルモンバランスや排卵障害の改善につながり、妊娠の可能性が高まります。放置せず医師の指示のもと適切に治療を続けましょう。
ホルモンバランスの土台となる生活習慣を見直す
ホルモンバランスは毎日の習慣やストレスの影響を受けやすいため、妊娠しやすい体づくりには生活習慣の見直しも大切です。特に食事・睡眠・運動は生活の基本となり、ホルモンの安定に直結します。
以下のような点を意識しましょう。
- 食事:特定のものに偏らないよう1日3食のバランスを意識する
- 睡眠:就寝と起床の時間を一定にして1日6〜8時間睡眠を目安とする
- 運動:ウォーキングやストレッチなど有酸素運動を意識する
継続を大切に、できることから少しずつ取り入れてみてください。
パートナーにも検査を受けてもらう
不妊の評価は、女性だけでなくパートナーも一緒に進めることが大切です。男女ともに原因がみられることがあり、男性側が関わるケースは約半数と言われています。
男性の検査では、ホルモン値のほか精子の数や動きなどを調べる精液検査も実施します。これにより、精子の状態に問題がないかなどを評価します。
男女お互いの状態を把握することで、今後の方針が立てやすくなり、妊娠に向けた適切な対策につながります。
不妊治療を検討する
検査結果や年齢、妊活の期間などを踏まえ不妊治療をはじめることも選択肢のひとつです。
不妊治療には、主に以下のようなものがあります。
一般的にはタイミング療法から始め、より高度な治療へと段階的に進んでいきます。ただし、年齢や体の状態によっては早い段階で治療のステップアップが推奨されることもあります。
どの方法が望ましいかは一人ひとり異なるため、医師から説明を受け、パートナーと一緒に納得できる方法を選択していきましょう。
ホルモン検査はどこで受ける?医療機関の選び方
ホルモン検査は、産婦人科や不妊治療専門クリニックで、医師の判断のもとで受けることが可能です。
不妊治療専門クリニックは、妊娠に関わる検査項目を幅広く扱っており、結果に応じて不妊治療の提案も受けられるのが特徴です。
産婦人科でもホルモン検査を実施していますが、医療機関によって対応している範囲が異なることがあります。希望する検査が受けられるかを事前に確認しておくとよいでしょう。
ホルモン検査についてよくある質問
妊娠を希望している場合のホルモン検査について、よく寄せられる質問に回答します。
Q:女性ホルモンが少ないと妊娠しにくいですか?
女性ホルモンの分泌が少ないと、妊娠しにくくなる場合があります。
エストロゲンは卵胞の成長を促す働きがあり、プロゲステロンは着床しやすい環境を整えます。これらのホルモン不足は、排卵や着床を妨げる要因となるのです。
ただし、治療によりホルモンを安定させ妊娠を目指すことは可能です。医療機関で適切な治療を受けましょう。
Q:ホルモン検査で妊娠がわかる検査は何ですか?
妊娠の成立を調べるためには、「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」というホルモンの値を測定します。hCGを検出する方法には、尿検査と血液検査があります。
- 尿検査:市販の妊娠検査薬で用いられている方法
- 血液検査: 病院での採血。尿検査よりも精度が高い方法
hCGの値が陽性になると化学妊娠という診断になります。その後、病院の超音波検査で子宮内に胎嚢(赤ちゃんが入る袋)が確認されると正常妊娠(臨床的妊娠)と診断されます。
Q:検査結果の数値が悪くても妊娠の可能性はありますか?
ホルモン値が基準値から外れていても、妊娠の可能性がないわけではありません。ホルモン値は体調やストレスの影響を受けやすく、1回の数値だけで判断できないためです。
医療機関では、年齢や月経周期、超音波検査など、複数の情報をあわせて総合的に評価します。たとえば、卵巣予備能を示すAMH値が低い場合でも、妊娠に至ることはあります。
大切なのは、検査結果を踏まえて必要な対策を検討することです。妊娠を意識したタイミングで体の状態を把握し、将来に向けた準備を進めていきましょう。
院長からのメッセージ
ホルモン検査の結果が悪いと落ち込んでしまいたくなりますが、それは「原因が分かった」という前向きなサインです。
たとえばAMHが低くても卵子の質が良ければ妊娠は十分に可能ですし、甲状腺の異常が見つかれば適切な治療で改善できます。
数値は、あくまでお一人お一人に合った治療を組み立てるための大切な情報なのです。どんな結果であっても、それに応じた最適なアプローチがあります。まずは現状を正確に把握して、一緒に進む道を考えていきましょう。
参考文献
1)日本生殖医学会. Q21.女性の妊娠・分娩に最適な年齢はいくつくらいですか? 日本生殖医学会ウェブサイト.
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa21.html
2)標準的な生殖医療の知識啓発と情報提供のためのシステム構築に関する研究. 患者さんのための生殖医療ガイドライン
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202327003B-sonota1.pdf
3)日本産科婦人科医会. (2)女性患者の検査・診断. 日本産科婦人科医会ウェブサイト
https://www.jaog.or.jp/note/%EF%BC%882%EF%BC%89%E5%A5%B3%E6%80%A7%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%AE%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%83%BB%E8%A8%BA%E6%96%AD/
4)日本生殖医学会. Q8.不妊症の治療にはどんな方法があり、どのように行うのですか? 日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa08.html
5)日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編 2023
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf

