妊娠初期の流産の多くは受精卵の偶然の染色体異常によって起こるものであり、特定の体質によって左右されるものではありません。
この記事では、稽留流産の位置づけや流産のリスクを高める要因、妊娠に向けてできることについて解説します。
稽留流産しやすい人はいない
稽留流産の多くは受精卵側の染色体異常によって起こるもので、誰にでも起こりうる現象です。実際、流産の起こる頻度は全妊娠の約15%、つまり6~7件に1件程度と、皆さんが想像するよりも多く起こっているのです。母親の特定の体質や身体的な特徴が直接の原因となるものではありません。
年齢や持病、生活習慣などによって妊娠の継続に影響する統計的なリスク差は知られていますが、それだけで「流産しやすい人」と判断されるものではありません。
妊娠に不安を感じている方は、まずは稽留流産について正しく理解することからはじめてみましょう。
稽留流産は流産の分類のひとつ
稽留流産とは、出血や腹痛といった流産の兆候がないにもかかわらず、赤ちゃんが子宮内で亡くなっている状態を指します。特別な病気ではなく、流産の進行状態を示す分類名のひとつです。
流産は進行状態によって、以下のように分類されます。
稽留流産: 赤ちゃんの発育は止まっているが、出血や腹痛などの自覚症状がない状態
進行流産: 出血や腹痛があり、流産が進行している状態
不全流産: 流産が進行しているが、一部の組織が子宮内に残っている状態
完全流産: 妊娠組織がすべて排出された状態
このうち稽留流産は自覚症状がほとんどなく、超音波検査ではじめて確認されることが多いため、突然診断を受けた方の心理的負担は大きくなりがちです。
「稽留流産」という診断名は、超音波検査の精度が向上したことで使われるようになりました。技術の進歩により、流産の兆候が現れる前の段階で赤ちゃんの心拍停止を確認できるようになったためです。
なお、妊娠12週までに起こる早期流産の多くは、受精卵側の要因によって自然な経過として起きてしまうものです1)。どの種類の流産であっても予防や治療が難しい現象であり、頻度は全妊娠の約15%、つまり6~7件に1件程度と決して珍しいものではありません。
流産の主な原因
稽留流産を含む早期流産(妊娠12週未満で起こる流産)の主な原因は、受精卵の染色体異常であり、早期流産の50〜80%を占めるとされています2)。
流産の原因となる染色体異常の多くは、卵子が作られる過程で起こります。卵子は生まれたときから体内にあり、年齢を重ねるごとに老化が進むため、母体年齢が高くなるほど染色体異常が起こりやすくなります。このような異常は誰にでも一定の確率で起こりうるもので、完全に防ぐことはできません。
染色体に異常がある受精卵は正常に発育できず、妊娠のごく初期に流産となることがほとんどです。
流産のリスクを高める要因
流産の多くは偶然に起こるものですが、妊娠の経過に影響しやすい要素があることも知られています。特に、次の3つは流産のリスクを高める要因として報告されています。
- 年齢
- 内分泌に関わる病気
- 生活習慣
これらに当てはまるからといって、必ず流産につながるわけではありませんが、統計的に妊娠の継続に影響する可能性があるとされています。
年齢
母体の年齢が上がるにつれ、流産のリスクは高まります。研究によって差はありますが、40歳以降では流産率が40%前後と報告されているものもあります3)。これは、加齢により卵子に染色体異常が起こりやすくなるためです。
卵子のもととなる原始卵胞は、排卵されるまでの長い期間体内にとどまります。その間に細胞の老化が進み、染色体の数や構造に異常をもつ卵子が増えていくと考えられています。
そのため、母体が健康であっても、年齢を重ねることで流産のリスクが高まります。
内分泌に関わる病気
甲状腺の病気や糖尿病など、内分泌に関わる病気は、妊娠を維持するためのホルモンバランスに影響し、流産のリスクを高める要因として知られています。
内分泌の病気は、流産だけでなく早産や赤ちゃんの発育・発達にも影響する可能性があります。妊娠を希望する場合は、これらの病気の有無を確認し、適切な治療を受けることが推奨されています。
生活習慣
生活習慣には個人差があり、なかには流産のリスクを高める要素も含まれます。
特に喫煙は、流産を引き起こす大きな要因であり、喫煙本数が多いほど流産のリスクも増加することがわかっています4)。また、本人が喫煙していなくても、家族などによる受動喫煙でも同程度のリスクが生じるとされています。
また、カフェインの過剰摂取についても、流産リスクとの関連を示した報告があり5)、妊娠中や妊娠を希望している場合は、摂取量を控えることが推奨されています。
流産を繰り返す不育症とは
流産は誰にでも起こりうる現象ですが、流産や死産を繰り返す場合には、「不育症」の可能性が考えられることがあります。
不育症とは、流産や死産を2回以上繰り返す状態を指します。一般に、流産を2回経験した場合は「反復流産」、3回以上の場合は「習慣流産」と分類されます。
以下で不育症でみられる主な原因とその特徴をまとめました6)。
これらの原因が見つかった場合、適切な治療や管理により次の妊娠で流産を防げる可能性があります。
流産を複数回経験した場合は、医師と相談し、検査を受けてみることをおすすめします。
流産を繰り返す場合、不育症検査を受けてみる
2回以上の流産を経験した場合、「不育症検査」を受けるという選択肢もあります。日本では、流産を2回繰り返した場合(反復流産)から検査を検討することが推奨されています。不育症検査は、流産につながる病気や背景となる要因がないかを調べるための検査です。
流産組織の染色体検査(POC検査)
流産した際に、流産した組織(妊娠組織)の染色体を調べる「POC検査」を行うことがあります。この検査により、流産の原因が受精卵側の染色体異常だったのか、それとも他の要因があるのかを確認できます。
検査の結果、赤ちゃんの染色体異常が原因だった場合は、ほとんどの場合偶然起こったものであり、特別な治療が必要となることは多くありません。ただし、複数回の流産で毎回染色体異常が見つかる場合は、カップルどちらかの染色体に構造異常(転座など)が隠れていることもあるため、さらに詳しい検査が推奨される場合があります。
不育症の原因を調べる検査
一方で、内分泌の病気や抗リン脂質抗体症候群など、妊娠の維持に影響する病気が見つかることもあります。このような場合は、適切な治療や管理を行うことで、次の妊娠で流産を防げる可能性があります。
検査を行っても原因が特定できないケースもありますが、その場合でも、その後の妊娠で無事に出産に至る可能性は高いと報告されています。
海外の研究では、原因不明の流産を経験した方(平均年齢31.9歳)が、次の妊娠で出産に至った割合について、以下のデータが示されています7)。流産回数が増えた場合でも、その後の妊娠で出産に至っている方が多いことがわかります。
<次の妊娠で出産に至る確率7)>
稽留流産についてよくある質問
稽留流産について、よくある質問をまとめました。
Q:稽留流産は妊娠何週目にしやすいですか?
稽留流産は、出血や腹痛などの流産の兆候が現れていない妊娠初期にみられることが多く、妊娠12週未満に多く確認されます。
特に妊娠5〜8週ごろは、超音波検査で赤ちゃんの心拍が確認できる時期です。妊娠8週を過ぎても心拍が確認できない場合や、一度確認された心拍が停止している場合に、稽留流産として診断されることがあります1)。
Q:稽留流産を防ぐにはどうしたらいいですか?
現在のところ、稽留流産を確実に防ぐ方法はありません。主な原因である受精卵の染色体異常は偶然に起こるもので、予防や治療ができないとされています。
ただし、妊娠に向けた体づくりや生活習慣の見直しが、妊娠の継続に役立つ可能性はあります。バランスのよい食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけ、日々の生活を整えていきましょう。
特に睡眠は、心身の回復やホルモンバランスを保つための大切な土台です。就寝・起床の時間をなるべく一定にし、1日6〜8時間程度を目安に質のよい睡眠をとることが望まれます。
Q:心拍確認後に稽留流産になるのは何人に1人ですか?
心拍確認後に稽留流産が起こる割合について、正確な人数を示すデータはなく、明確に答えることはできません。
参考として、心拍確認後の流産(稽留流産を含む)全体の頻度を調べた研究では、妊娠週数が進むにつれて流産率は大きく低下し、心拍が確認された後は妊娠が継続する可能性が高まることが示されています8)。
<妊娠週数ごとの流産率の目安9)>
- 妊娠6週:9.4%(約11人に1人)
- 妊娠7週:4.2%(約24人に1人)
- 妊娠8週:1.5%(約67人に1人)
- 妊娠9~10週:0.5~0.7%(約140~200人に1人)
このように、週数が進むほど妊娠継続の可能性は高まります。ただし、これらはあくまで統計データであり、実際の流産率は年齢や体の状態によっても異なります。
Q:稽留流産しやすい原因にストレスがありますか?
ストレスそのものが、流産の直接的な原因になると証明された医学的根拠はありません。
ただし、「自分のせいで流産してしまったのではないか」といった強い不安や自責の気持ちが続くことが、心身の回復や次の妊娠に影響する可能性は指摘されています。
不安やつらさを感じるときは、医療機関でカウンセリングを受けるほか、自治体や支援団体が行っているグリーフケアを利用するのもひとつの方法です。つらい気持ちをひとりで抱え込まず、専門家や周囲のサポートを頼ってみてください。
院長からのメッセージ
稽留流産の診断を受けた方から、「自分に原因があったのではないか」「何か悪いことをしたのではないか」というご相談をよくお聞きします。
まず、お伝えしたいのは、稽留流産の多くは受精卵の染色体異常によって起こる偶然の出来事であり、あなたのせいではないということです。妊娠初期の流産の50〜80%は染色体異常が原因で、誰にでも起こりうることなのです。
「稽留流産しやすい人」という特定の体質があるわけではありません。年齢や持病などのリスク因子はありますが、それだけで流産が決まるわけではありません。
心身の回復には時間がかかります。無理に前を向こうとせず、悲しみや不安を感じることも大切なプロセスです。つらい気持ちをひとりで抱え込まず、医療機関でのカウンセリングやグリーフケアを利用することもご検討ください。
不育症検査で治療可能な原因が見つかることもありますし、原因が特定できなくても次の妊娠で出産に至る方は多くいらっしゃいます。希望を持って、ご自身のペースで進んでいただければと思います。
参考文献
1)日本産婦人科医会. 8. 稽留流産の診断. 日本産婦人科医会ウェブサイト.
2)Hogge WA, Byrnes AL, Lanasa MC, Surti U. The clinical use of karyotyping spontaneous abortions. Am J Obstet Gynecol. 2003;189(2):397-400; discussion 400-402.
3)日本産科婦人科学会. 流産・切迫流産. 日本産科婦人科学会ウェブサイト.
4)George L, Granath F, Johansson ALV, Annerén G, Cnattingius S. Environmental tobacco smoke and risk of spontaneous abortion. Epidemiology. 2006;17(5):500-505.
5)Chen LW, Wu Y, Neelakantan N, Chong MF-F, Pan A, van Dam RM. Maternal caffeine intake during pregnancy and risk of pregnancy loss: a categorical and dose-response meta-analysis of prospective studies. Public Health Nutr. 2016;19(7):1233-1244.
6)日本不育症学会. 不育症について. 日本不育症学会ウェブサイト.
7)Katano K, Suzuki S, Ozaki Y, Suzumori N, Kitaori T, Sugiura-Ogasawara M. Peripheral natural killer cell activity as a predictor of recurrent pregnancy loss: a large cohort study. Fertil Steril. 2013;100(6):1629-1634.
8)Tong S, Kaur A, Walker SP, Bryant V, Onwude JL, Permezel M. Miscarriage risk for asymptomatic women after a normal first-trimester prenatal visit. Obstet Gynecol. 2008;111(3):710-714.

